最新連載記事
カテゴリー
月別

記事検索
第187回 相模原障害者殺傷事件はヘイトクライム

 

○「障害者は死んだ方がいい」

 

 

 2016年7月26日未明、ついに恐れていたヘイトクライム(差別的憎悪犯罪)事件が発生した。

 

  神奈川県相模原市にある知的障害者施設・津久井やまゆり園に、重度知的障害者だけの殺害を目的にした障害者差別主義者が押し入り、19人を殺害、26人が重傷を負った。容疑者は「津久井やまゆり園」に今年2月19日までに勤務していた植松聖という26歳の男。

 

 「津久井やまゆり園」を辞めた理由を、入倉かおる園長は、業務中の植松容疑者が、たびたび同僚に「障害者は死んだ方がいい」と口走っていたことに関し、園側が面談すると、同容疑者は「障害者は周りの人を不幸にする。いない方がいい」と声のトーンを上げた。入倉園長が「それはナチスの考え方と同じだよ」と諭しても「考え方は間違っていない」と言い張り、辞表を提出したと、辞職に至る事情を説明している。

  その後、容疑者・植松は、衆議院議長公邸に出向き、「津久井やまゆり園」など、障害者施設を襲い、障害者を殺害すること、及びその計画内容まで記した手紙を議長に手渡している。(安倍首相にも送ろうとしていた。)

 

  さらに植松容疑者は、「障害者は迷惑だ」「税金がかかりすぎる」「生きていても意味がない」などと、日ごろから躊躇なく、うそぶいていたという。

 

 日本社会に蔓延する、新自由主義を信奉する経済合理性的価値観・社会観は、費用(税金)のかかる社会福祉を切り捨てるばかりか、その対象者に憎悪さえ抱き、今回のようなヘイトクライムを惹き起こす要因となる。

 

 

○事件の本質はヘイトクライム、背景にヘイトスピーチの蔓延

 

  この事件に関して、脳性まひの、大阪市のNPO代表理事・尾上浩二さんは、つぎのように語っている。

 

「(容疑者の言葉に)怒りと恐怖を感じた。マイノリティはいなくなっていいというヘイトスピーチのようで許せない」と憤り、「『障害者は社会のお荷物』といった偏見が強まらないことを願う」とも語った。20代の頃、電車内で中年男性から急に『おまえたちは俺たちの税金で生きていけるんだ。穀潰しだ』と一方的にまくしたてられた。映画館でチケットを購入した後『館内で何かあったら責任がとれない』と入場を拒まれたこともある」

                                                                                                             (朝日新聞7月28日朝刊)

 

障害者に対する厳しい差別と偏見が、30年以上前から続いていることを尾上さんは強調している。

 

 

  同じことは、すべての被差別マイノリティについても言えるのだが、とくに1906年の韓国併合以降に強められた韓国・朝鮮人に対する差別意識、そして差別的言動がネット上にあふれていたが、2009年以降、「朝鮮人は死ね!」「朝鮮人を殺せ!」と叫ぶ人種差別主義者のヘイトスピーチとして、路上でくり返されている。

 

   今回の犯行の背後には、人種差別的排外主義のヘイトスピーチが蔓延している社会状況があり、事件の本質は、そのヘイトスピーチに煽られた容疑者が、被差別マイノリティの障害者、とくに重度知的障害者に向けて実行されたということである。

   「在日特権」「アイヌ民族利権」「生活保護者叩き」「被差別部落利権」「原爆被爆者利権」など、同じくウソで固められ、ねつ造された偏見によって、社会的差別が一層激しくなっている社会的背景を論じず、今回の事件を、一般的な凶悪事件あるいは猟奇的事件、さらに容疑者の特殊な資質などに求めるのは、まったくの的外れである。

 

   また、社会心理学者や犯罪心理学者が、措置入院が不十分だったとか、妄想性障害や大麻精神病が引き起こした、容疑者個人の特性による犯罪だとする意見をメディアで垂れ流しているが、措置入院制度をより厳しくすべきという論調は、事件の本質をそらすばかりでなく、保安処分(社会防衛)の観点から、予防拘禁制度を強化することで、逆に精神障害者差別を強めることになり、事件の背景にある社会的要因(障害者差別意識)を隠す役割をはたしているといえる。

 

 

○植松容疑者のツイッターをフォローしていたのは

 

  テレビや新聞のニュースは、今回の事件を、サリン事件、秋葉原事件、池田小学校事件と同列に論じているが、障害者施設に入所している重度知的障害者のみを標的として殺害し、職員を傷つけないと事前に語っている事実から考えて、事件の本質を、ヘイトクライムとしてとらえ、その観点から、真相解明と事件の社会的背景を分析すべきだ。

 

    反差別闘争集団、爍叩ィ辧ィ繊ィ”の情報によると、相模原事件容疑者・植松のツイッターのフォロー先に、「橋下徹、堀江貴文、石井孝明、渡邉哲也、中山成彬、百田尚樹、ケント・ギルバード、西村幸祐など」の名前があるという。経済合理性=金儲けを最優先し、そこに価値基準に置く新自由主義者と、札付きの排外主義的人種差別者が揃っている。自己責任を声高に叫び、障害者福祉を「税金の無駄使い」とわめく輩たちだ。

 

    ヘイトスピーチ〜ヘイトクライム〜ジェノサイド。今回の事件は、ヘイトスピーカーの、差別的憎悪扇動に煽られ、攻撃性と目的意識性をもって行われた、まごうことなきヘイトクライム(差別的憎悪犯罪)なのだ。

 

 

○「テロ」と同次元で事件を語る番組コメンテーター

 

   今回の事件は、世界各国で大きく報じられており、アメリカのケリー国務長官、ロシアのプーチン大統領など、各国要人が次々と哀悼の意を表している。ところが、わが国の安倍首相からは、なんのメッセージもない。

各国要人は、被害者が障害者であったことに衝撃を受けて、コメントを発している。それに対して、菅官房長官は、イスラム原理主義などの「テロ」とは関係ないという発言をしていたが、まったくのピント外れというほかない。

  また、岡本行夫など、今回の事件を「テロ」と同次元で語っているテレビコメンテーターがいるが、それは、ヘイトクライムという事件の本質を覆い隠すことであり、また、措置入院のあり方を検討する(より厳しくする)という政府判断は、精神障害者に対する社会的差別を助長する行為であり、いずれも事件の本質からずれており、同様の事件(ヘイトクライム)を未然に防ぐ根本的手立てとはならない。

 

2015年12月2日、アメリカのカルフォルニア州サンバーナディノの障害者福祉施設が、IS(イスラム国」の思想に影響を受けた襲撃犯に銃撃され14人が死亡した事件は、「テロ」事件であるとともに、殺害しやすい社会的弱者を狙った、卑劣な行為であり、ヘイトクライムでもあるのだ。

 

 

○優性思想・差別意識による「言論から肉体の殲滅」

 

 今回の事件は、社会的マイノリティ集団に対する、目的意識性と攻撃性および計画性をもって実行された戦後最大の虐殺行為(ヘイトクライム)だ。

  

  近代に入り、1871年の、「賤民解放令」に対する反対一揆で、多くの被差別部落が襲撃され、被差別部落民が虐殺された事件。そして、1923年に起きた関東大震災時の6000人にも及ぶ朝鮮人虐殺事件と、本質において通底している。

  アメリカでは、昨年6月、サウスカロライナ州で9人が殺害された、チャールストンの黒人教会銃乱射事件。今年6月、アメリカ史上最悪と言われる、50人が殺害された、フロリダのゲイナイトクラブ銃撃事件。いずれも差別的憎悪犯罪=ヘイトクライムとして裁かれている。今回の事件は、これらの犯罪と同じ、ヘイトクライム犯罪であることを強調すべきだろう。

  1999年、都知事だった石原慎太郎が、府中の重度知的・身体障害者療育施設を訪れたさいに放った言葉、「ああいう人ってのは人格あるのかね」を思い出す。新都知事となった小池百合子が、排外主義的人種差別主義者のヘイトスピーチ団体と懇意なことは、よく知られている事実だ。

  また、相模原市の緑区は、かつて度障害者施設の建設に対して地区住民が猛烈な反対運動を起こした地域でもある。

  DPI(障害者インターナショナル)日本会議が、「相模原市障害者殺傷事件に対する抗議声明」を出し、つぎのように述べている。

 

「近年、閉塞感が強まる中、障害者をはじめとするマイノリティに対するヘイトスピーチやヘイトクライムが引き起こされる社会状況の中で、今回の事件が起きたことを看過してはならない」。

 

 

○「ヒトラーの啓示が降りてきた」――植松容疑者の薄ら笑い

 

  障害者殺害容疑者・植松は、護送車の中で、ヘイトスピーチデモをしている輩と同じ、感情の欠落した“薄ら笑い”を浮かべていた。

  テレビニュースでは、7月28日(木)夜11時半からのフジ系「ユアタイム」が、事件の本質を的確にとらえた解説報道をしていたので、紹介したい。

 

 

相模原市の障害者施設で、入所者19人を刺殺した植松 聖容疑者(26)が、「ヒトラーの思想が降りてきた」と語っていたことが、新たにわかった。アドルフ・ヒトラーは、第2次世界大戦で、ナチスドイツを率いた独裁者。その思想の特徴は、「理想郷の建国」。そして、人種に優劣をつけ、優秀な遺伝子のみを残すという「優生思想」。

ナチスのユダヤ人虐殺は、広く知られているが、ほかにも、およそ20万人の知的障害、精神障害を持つドイツ人を殺害している。さらに、ヒトラー自身は、国家や法よりも上に立つ存在だと定義していた。

この危険なヒトラーの思想が、20162月、「自分に降りてきた」と、植松容疑者は、病院の医師に話していたという。
  (中略)

 さらに、植松容疑者が友人に送ったLINEでも、差別的な言動を繰り返していたことが明らかになった。植松容疑者は、「生まれてから死ぬまで周りを不幸にする重複障害者は、果たして人間なのでしょうか?」、「意思疎通ができなければ動物です」などと送っていた。植松容疑者は、友人にも差別的な主張をして、意見を求めていた。しかも、それだけではない。友人に、「一緒に殺害しよう」と持ちかけていた。誰もが信じられないような言動。しかし、26日、植松容疑者は、自身が言うヒトラーの思想を行動に移した。植松容疑者は、5人の職員を結束バンドで縛りつけたが、殺害した19人は、全員が重度障害の入所者だった。

  (中略)

 全盲と、全ろうの重複障害をもつ東京大学先端科学技術研究所センターの福島智教授は、番組にメールを寄せ、今回の事件を「二重の意味での殺人だ」と語った。
 福島教授は、「一は、人間の肉体的生命を奪う生物学的殺人。もう一つは、人間の尊厳や生存の意味そのものを優生思想によって否定するという、いわば『実存的殺人』です。障害者の尊厳というものが、特別に存在するわけではありません。あるのは、人間の尊厳であり、人間の生きる意味と権利です。そして、障害者はまさしく人間です」と語った。

 

 

(7月28日フジテレビ系「ユアタイム」より)

 

 

 

○優性思想にもとづく「実存的殺人」

 

 

 植松容疑者が、障害者を20万人以上虐殺したナチスドイツのヒトラーの思想に心酔し、「啓示」を受け、殺害を実行したこと。最後に引用された、『実存的殺人』という福島智教授の言葉は重たい。

 

 社会心理学者などが、容疑者・植松の狄瓦琉”についてあれこれ語っている。だが、容疑者の心に牋”はなく、この事件は、明らかな障害者差別意識に裏打ちされ、目的意識性をもって実行されたヘイトクライムなのだ。すなわち、植松容疑者は、恥知らずにも都知事選に立候補していた「在特会」の櫻井誠などが、延々とわめき散らしてきたヘイトスピーチ――「朝鮮人死ね!殺せ!」と叫ぶレイシストと同じ差別思想の持ち主だということだ。殺害対象が「朝鮮人」であるか「障害者」であるかのちがいだけだ。

 

 最近、神奈川県海老名市の鶴指県議会副議長の、同性愛者は「異常動物」との差別発言、茨城県教育委員の銀座日動画廊の副社長・長谷川智恵子が「障害のある子どもの出産は防ぐべき」との障害者差別発言など、公人による被差別マイノリティに対する差別的言動が、相次いでいる。

今回の事件で解明すべきは、容疑者が差別思想(障害者抹殺)を持つにいたった背景と、ヘイトクライムを防ぐための具体的方策だ。(包括的差別禁止法)

 

 

「言葉が心を作る」、差別発言を放置してはならない。

| バックナンバー2016 |
| 1/193PAGES | >>