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ウエブ連載差別表現 第202回 『新潮45』休刊(廃刊)問題をかんがえる

 

 

『新潮458月号で杉田水脈が超差別的暴論

 

  『新潮45』が、10月号をもって休刊すると、発表された。

 

 休刊になった直接の原因は、「同誌8月号に掲載された、自民党衆議院議員・杉田水脈の、〈『LGBT』支援の度が過ぎる〉にある。 

 

 杉田はそこで、

 

 (LGBT)彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです。そこに税金を投入することが果たしていいのかどうか」

「普通に恋愛して結婚できる人まで、『これ(同性愛)でいいんだ』 と、不幸な人を増やすことにつながりかねません」

 

と述べ、LGBTの当事者や、障害者、難病者、高齢者などから、激烈な抗議を受け、新潮社本社前で抗議行動が開かれる事態となっていた。

 

 しかも自民党の二階幹事長は、「人それぞれ政治的立場、色んな人生観もある」と問題視しない姿勢を示し、また自民党・谷川とむ衆議院議員は、同性愛を「趣味みたいなもの」とネットの番組で放言する始末。

 

 さらに、安倍首相も「(杉田議員は)まだ若いですからそういったことをしっかり注意しながら仕事をしていってもらいたい」と述べ、擁護する発言をしていた(杉田水脈は51歳)。

 

 

『新潮45』10月号「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」

 

  激しさを増す抗議行動にたいし、『新潮45』はそれを嘲笑うかのような特別企画、「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」を10月号に掲載するという挑発に出たが、新潮社の佐藤隆信社長の、「あまりに常識を逸脱した偏見と認識不足に満ちた表現が見受けられた」との声明が出されてから4日後の9月25日、突如休刊(実質廃刊)が発表された。

 

 

 抗議行動と作家たちの批判、そして休刊

 

 

 一連の経緯のなかで、『新潮45』10月号に対しては、「便所の落書き」(高橋源一郎氏)や「反吐が出る」内容だと、作家や文化人からの批判が相次いたが、佐藤社長の声明も、誰の、どの内容が、「常軌を逸した偏見と認識不足」なのかは一切明らかにされていない。 

 多くの論者が、新潮社は“臭いものに蓋”(休刊)をして逃げた、無責任だと論じているが、その通りだろう。

 

 いっぽう、社説でも『新潮45』の突然の休刊を痛烈に批判していた朝日新聞だが、10月2日の“耕論”「『新潮45』揺らぐ論壇」で、典型的な両論併記的(実際上は両論併記にもなってない)内容のインタビュー記事を載せている。 

 

 事実を客観的に紙面化することと、中立を装った(その内実は傍観者的姿勢)両論併記的紙面構成は、似て非なるもの。

 

 客観的な立場には、善悪、正義、理性、知性から判断した価値観が反映されている。

 

 客観的記事の対立概念は、主観的な記事、つまり偏向記事。

 

 排外主義的ヘイトや歴史修正主義的見解を、紙面の中立性を保つとして載せる両論併記は、その実、差別的憎悪の宣伝・扇動・拡散に加担する行為と言ってよい。

 

 

 杉田水脈の「生産性」差別の本質とは

 

 逃げまくっていた杉田水脈が、10月24日に国会内で記者団の取材に応じ、「不適切な記述であった」と認めたものの、謝罪も撤回も、そして議員辞職もしない考えを示している。

 

 今回の杉田水脈の寄稿文の差別性・危険性・犯罪性については、すでに多くの論者がそれぞれの立場で的確な批判をしているので、内容批判はそれらの諸論文に譲りたい。

 

 ここでは、「生産性」による差別が、優生思想と結びつき、ナチスのホロコーストの引き金となったことを強調しておきたい。ナチは絶滅収容所で、ユダヤ人600万人、ロマ60万人(日本では差別的に「ジプシー」と呼ばれている)、そして同性愛者と障害者20万人が虐殺された。

 

 ヘイトスピーチを放置すれば、かならずヘイトクライム〜ジェノサイドに行き着くことは、歴史が証明している。

 

 

「身分」差別と「生産性」差別の本質的違い

 

 最近、小社から出版した『被差別部落の真実』(小早川明良著)が強調しているのは、部落差別は、江戸時代の身分制度の残滓(ざんし)でも、社会にある遅れた封建的意識によるものでもなく、近代資本主義制度の確立過程で再編され、新たに作りだされた差別であるということ。

 

 つまり、江戸封建時代は身分による差別であり、現代(資本主義制度下)の部落差別は、その本質において「身分」ではなく「生産性」による差別だということ(詳しくは『被差別部落の真実』を読んでいただきたい)。

 

 杉田水脈は、LGBTの人びとを「生産性」を根拠に差別した。

 

 社会的にあるLGBTの人びとに対する、「気持ち悪い」とか「精神的な病気」「変態」だとかの予断と偏見が数多(あまた)ある中で、差別の本質をむき出しにした意識的、攻撃的な暴論と言ってよい。

 

 江戸時代にも、LGBTの人たちがいたことはよく知られている。 

 

 とくにG(ゲイ)の人たちは“衆道”と呼ばれ、彼らが出会う“陰間茶屋(かげまぢゃや)”も多くあったことがわかっている。織田信長と森蘭丸の例を出すまでもなく、封建時代、「男色」はごく一般的であり、差別の対象ではなかった。

 

 それは身分制度が差別の根拠だったからである。

 

 今回の杉田水脈のLGBTの人びとに対する「生産性」を根拠にした差別は、2016年の相模原障害者殺傷事件の植松聖(うえまつさとし)容疑者の主張(大島理森衆議院議長への手紙)と、驚くほど似ている。

 

今号のウエブ連載では、その当時、相模原障害者殺傷事件について書いたレジュメを再掲し、あらためて今回の問題をふりかえっておくことにしたい。

 

 

差別が生みだす憎悪と犯罪〜日本社会に潜む差別の諸相 

 

 相模原障害者施設「津久井やまゆり園」殺傷事件

 (20167月26日未明

 

 

\鏝綺念のヘイトクライム(差別的憎悪犯罪)→19名殺害、重軽傷者28

 

 

○重度知的障害者の抹殺を直接の目的とした障害者殺人事件は、社会的マイノリティ集団に対する、目的意識性と攻撃性および計画性をもって実行された戦後最悪の虐殺行為

 

○明治初期に起きた「解放令」(1871年/ 明治4年)反対一揆(俗称・「穢多」狩り)

 

○1923年9月1日、関東大震災時の朝鮮人虐殺(中国人、日本人も殺されている福田村事件)

 

 

動機不可解な猟奇的な凶悪事件ではない →動機明白なヘイトクライム

 

 

○1995年、オウム真理教が起こした松本サリン事件、地下鉄サリン事件

 

○2001年、大阪教育大付属池田小学校が襲われ、生徒8人が殺害された無差別殺傷事件

 

○2008年、車とナイフで7人が殺害された秋葉原通り魔事件

 

古くは1938年、岡山県で起きた津山事件(30人殺害 「八ッ墓村」のモデルとなった

 

 

社会的マイノリティ集団に対するヘイトクライム

 

 

2015月、米国サウスカロライナ州チャールストン黒人教会銃乱射事件(人殺害)

 

2016月、フロリダゲイナイトクラブ銃撃事件(アメリカ史上最悪と言われる50人が殺害された)

 

 

この二つの事件は、黒人および同性愛者に対する差別的憎悪犯罪=ヘイトクライムとして裁かれている。

 

相模原障害者殺人事件を「テロ」と表現する人がいたが、本事件はヘイトクライムとして裁かれるべきであり、ましてや「テロ事件」ではない

 

 

と塙圓瞭圧,法⊂祿下垪絞漫⇒ダ源彖曄背景にヘイトスピーチの蔓延がある

 

 

○植松聖容疑者は、障害者を20万人以上虐殺したナチスドイツ・ヒトラーの優生思想に心酔し、「啓示」を受け、「正義」を実行したと供述している。精神症状としての妄想ではなく、障害者差別思想にもとづく犯罪。(衆院議長公邸で手渡された手紙に詳細に記されている)

 

○また、植松がコスト(税金)のかかる非生産的な社会的弱者への福祉政策をムダと切り捨て、排外的人種差別主義者のヘイトスピーチに煽られ、その対象者に憎悪さえ抱いていたことが明らかにされている。「生産性のない人間には生きる価値がない」という思想と感情。

 

○すべての命に意味があり、意味のない命などない。生産性を判断基準に、命の価値に差をつけてはならない。さらに「事件の特異性」として隔離された障害者施設の問題がある。

 

 

セ件を措置入院制度の不備に矮小化してはならない

 

 

○日本の社会心理学者や犯罪心理学者は、「措置(そち)入院が不十分だった」とか、妄想性障害や大麻精神病が引き起こした、「容疑者個人の特性による犯罪」とする意見をメディアで垂れ流している。

 

措置入院制度をより厳しくすべきという厚労省再発防止検討チームの最終報告(12月8日は、事件の本質(優生思想にもとづく障害者差別思想)を隠す役割をはたしており、精神障害者を社会から隔離する保安処分的・社会防衛的な危険性がある。

 

障害者差別解消法(20164月)の精神にまったく反している。

 

 

障害者抹殺がホロコーストを準備した

 

○ナチスは、障害者や同性愛者など、「生産性が低い」とした人びと27万人以上を、ガス殺・投薬注射などによって殺害した。

 

ユダヤ人大量虐殺に先駆けて、ナチスドイツで障害者「安楽死」計画(T4作戦)が、医師らによって実行されている。

 

優生思想にもとづく障害者殺害である。

 

 

 

※下の写真は、1938年、障害者「安楽死」計画の前夜に出されたナチ党の宣伝ポスター。

 ポスターにはこう書かれている。

 

「遺伝性疾患のこの患者は、生涯にわたって、国に6万ライヒスマルク(現在の日本円に換算して5千万円)の負担をかけることになる。よく考えよ、ドイツ国民よ、これは皆さんが払う税金なのだ」

 

 

 

 

 

○断種法→「安楽死」計画→ホロコーストへ

 

○ナチスドイツだけでなく、アメリカ・日本でも、ハンセン病者、精神障害者や知的障害者の人々が、強制断種(強制不妊手術)を受けさせられた。

 日本では、旧「癩(らい)予防法」(1907年)が廃止されたのは1996年、旧「優生保護法」(1948年)から「母体保護法」(1996年)、「旧土人保護法」(1899年)からアイヌ文化振興法(1997年)

 

 

 

Я衞聾蕎祿下垰傷事件は「二重の意味での殺人」

 

○重複障害をもつ東京大学・福島智(ふくしまさとし)教授は、この事件を「二重の『殺人』」と指摘している。

 

「一つは人間の肉体的生命を奪う『生物学的殺人』。

 もう一つは、人間の尊厳や生命の生存の意味そのものを

 優生思想によって否定するという、いわば『実存的殺人』」

 

 

┯人による相次ぐ差別発言

 

○神奈川県海老名市議会の鶴指副議長の、「同性愛者は異常動物」との差別発言

 

○茨城県教育委員の銀座日動画廊・長谷川智恵子副社長の、「障害のある子どもの出産は防ぐべき」との差別発言(*出生前診断と優性思想)

 

○1999年、石原慎太郎都知事が、府中の重度知的身体障害者療育施設を訪れた際に放った「ああいう人ってのは人格あるのかね」発言(精神障害者団体から強く抗議されている)

 

 

ナチスドイツを想起させる表現

 

・2011年「氣志團」がナチス親衛隊の軍服を着てテレビ出演

 

・2014年『アンネの日記』破損事件

 

・一連の排外主義的ヘイトスピーチデモで、ナチスドイツの鉤十字の旗がふられる。

 

・2015年 衣料品店「しまむら」の鉤十字(ハーケンクロイツ)マーク商品事件

 

・2016年 「欅坂46」のナチスもどきコスチュームと軍帽事件

 

 

おわりに

 

植松聖容疑者は、事件の実行前に、衆議院議長に宛てた手紙の中でこう書いている。

 

「障害者は『生産性』がなく不幸を作ることしかできない」

「重複障害者がいなくなれば、国家の経済的負担が軽くなる」

             

今回の杉田水脈のLBGTの人びとに対する極めて悪質な差別的暴論(ヘイトスピーチ=差別的憎悪扇動)を放置すれば、かならず第二の植松聖が出てくるだろう。 

 

 

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