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ウェブ連載差別表現第204回 大坂なおみ選手に対する人種差別 ホワイトウォッシュCM事件から考える

アフリカ選手を「チンパンジー」と呼ぶ

 

  今年2月3日、大分で開かれた、歴史のある別府大分毎日マラソンに出場していたアフリカの招待選手に対し、通訳の女性がアフリカ選手を「チンパンジー」と呼んでいたことがわかり、社会的指弾を受けた。(この件についてプロ野球・楽天のオコエ瑠偉選手は、「俺らは我慢するだけ」とツイートしている。)

 

 ことの次第は、通訳の女性が2月10日に書いたブログで発覚した。

 ブログには次のように書き込まれていた。

 

「最初は、発音が聞き取れず悪戦苦闘でした。チンパンジーや古代の原始人とコミュニケーションしている感覚でした」

「最初はシャイだったチンパンジー達も、だんだんと心を開いてくれました」

 

 通訳の女性は、選手と一緒に撮った写真に「かわいいチンパンジー達」とのキャプションをつけたという。(朝日新聞/2月15日)

 

 この通訳の女性に、この表現が黒人差別だとの認識はない。1960年代に流行った“ダッコちゃん人形”を腕にぶら下げているぐらいの感覚だったのだろう。

 

 

 

高級ファッションブランドのあいつぐ黒人差別

 

 ここ2〜3年、コマーシャルなどでの黒人差別が、数多く問題になっているが、昨年暮れにイタリア高級ファッションブランドのプラダのキャラクターが、今年に入って、同じくイタリアのファッションブランド・グッチの販売するセーターが人種差別(黒人差別)との批判を受け、販売を中止する事件が起きている。 

 

【プラダ】

プラダは、黒い顔に大きな赤い唇の人形を店頭に陳列、販売。「人種差別だ」との抗議に、プラダ側は「想像上のものであり、ブラックフェースとは関係がない」と釈明。それに対し、「人種差別的な表現に関して、歴史上くり返されてきた言い訳と同じ」と、抗議された。

プラダは謝罪して回収。

 

【グッチ】 2019年2月、GUCCIが販売したセーター。「ブラックフェースを想起させる」として抗議をうけ、
GUCCIは謝罪し、販売を中止。

 

 

 1年前、スウェーデンのアパレルメーカーH&M社が、広告で、黒人少年モデルに「ジャングルで一番クールなサル」とプリントしたパーカーを着せた事件は、国際的批判にさらされたのみならず、南アフリカでは国内に展開するH&Mの17店舗中6店舗が襲撃されるという深刻な事件をまねいた。

 

 


 

 

 日本では、2017年暮れの『絶対に笑ってはいけない!アメリカンポリス24時』で、ダウンタウン浜田が、顔を黒塗りメイクして扮装した事件があった。(※ウエブ連載199回参照)

 

 政治家では、2017年11月23日、自民党の同僚議員がアフリカとの交流活動を行っていることに触れ、「何であんなに黒いのが好きなのか」と発言した、山本幸三元地方創生大臣など枚挙にいとまがない。(※ウエブ連載197回参照)

 

 

アフリカ(中南米)系ダブルのスポーツ選手に対する人種差別

 

 今回は、今年1月、女子テニス・大坂なおみ選手のスポンサーとなった日清食品が起こした「ホワイトウォッシュ」事件について考えてみたい。

 

 まず初めに確認しておかなければならないことは、スポーツ選手についての差別的な言動は、すべての“ダブル”選手に対してではなく、アフリカや中南米に両親の何れかがルーツを持つ、黒人系の“ダブル”の選手に対して行われているという事実だ。(「ハーフ」とは呼ばない。「ダブル」あるいは「ミックス」)

 

 スポーツ界の白人“ダブル”選手、陸上ハンマー投げの室伏広治(母親がルーマニア人)、やり投げのディーン元気(父親がイギリス人)については、むしろ好意的な表現がなされている。

 

 いっぽう、甲子園で活躍したオコエ瑠偉選手(父親はナイジェリア出身)に対しては、次のような表現がなされ、抗議をうけた。

 

「真夏の甲子園が、サバンナと化した。オコエは本能をむき出しにして、黒土を駆け回った。…野性味を全開…味方まで動物のように追いかけた」(スポーツ報知)

 

 人間をアフリカの野生動物に喩えた記事に対し、陸上競技のサニブラウン・アブデル・ハキーム選手(父親がガーナ人)の母親は、

 

「子どもたちを大人の興味本位の対象にするメディアに断固抗議します!そしてこの表現は明らかに人種差別」

 

と、強い怒りを表明している。

 

 いま名前を挙げた選手以外にも、陸上のケンブリッジ飛鳥(父親がジャマイカ人)、アメリカの大学リーグで活躍している、バスケットの八村塁選手(父親がベナン人)、女子バレボールの宮部藍梨選手(父親がナイジェリア人)、陸上中距離女子の、高松望ムセンビ選手(父親がケニア人)など、スポーツ界で活躍するダブルの選手は多い。

 

(ちなみに高松望ムセンビ選手の父親は、2001年の長野マラソンで優勝しているが、その前年の大会終了後、当時の日本オリンピック委員会の会長八木祐四郎が、長野マラソンでアフリカ勢が上位を占めたことに対し、「黒いのばかりにV‐victoryとられちゃかなわない」との差別発言をしている。)

 

 黒人スポーツ選手に対する人種差別的ステレオタイプについては、『人種とスポーツ - 黒人は本当に「速く」「強い」のか』(川島浩平著/中公新書)を、ぜひお読みいただきたい。

 

 

大坂なおみ選手を「ホワイトウォッシュ」

日清食品CMのなにが問題か

 

 大坂なおみ選手のスポンサー企業でもある日清食品が、全豪オープン開催中に、彼女をモデルに作成したアニメCM

 

 カップヌードルのPR動画として日清食品がYouTubeで公開したものだが、大坂なおみ選手の肌の色を白くし、髪を金髪にして緩いウェーブに描き変えたことに対し、黒人を蔑視する意識が背後にあるとの社会的批判を受けた。

 

 日清食品側は、「意図的に白くした事実はない」が、「配慮に欠けていた。今後は多様性の問題に、より配慮したい」との見解を出し、アニメCMを取りやめた。

 

「意図的でなかった」というコメントは、差別表現事件を起こした側の、責任逃れの常套句である。 

 

“ホワイトウォッシュ”とは、ハリウッドなどの映画産業で、「本来は黒人(有色人種)の役を白人が演じること」と「黒人の肌の色を明るく修正して黒人色を薄める(白人化)」ことなどをいう。

 

そこには、“黒い肌より白い肌の方が美しい” “白人は黒人より優れている”という価値観がある。

 

大坂なおみ選手は、自身のアイデンティティを語るとき、「日本人、ハイチ人、アメリカ人がそれぞれどんな風に感じるものなのか、本当にわからない」「私はただ私だと感じる」と述べている。

 

また別のインタビューで大坂選手は、自身を「ブラックガール」とも呼んでいる。

 

 

「ホワイトウォッシュ」されたギリシャ彫刻

 

 「白さ」を讃美し、「黒い肌」「黄色い肌」を侮蔑する白人優越主義は根深い。

よく知られているように、ミロのヴィーナスやサモトラケのニケなどのギリシャ彫刻は、本来「白」ではなく褐色であった。

 

 18世紀、ドイツの学者たちが、「古代ギリシャは純白の文明」であり、「白人が人間の理想形」ととなえた。

 

 1930年、大英博物館はそれらの彫刻の表面の色を削り落として、「真っ白」に塗り替えたのである。同時期に、世界中の博物館で、ギリシャ彫刻に対して同様の「ホワイトウォッシュ」が行われている。

 

 

ペリー来航時、日本人が観たミンストレル・ショー

 

 こうした人種差別について、アメリカではすでに1960年代に決着がついている。

 1830年代に始まったとされる、ミンストレル・ショーに対する批判だ。

 白人が顔を黒く塗り、アメリカの黒人奴隷の風習や言語を、踊りや音楽、寸劇で面白おかしく笑いのネタにした醜悪なショーだった。

 

 20世紀初頭には廃れたが、最終的にとどめを刺したのは、1960年代の公民権運動による。

 

 日本で最初にミンストレル・ショーが行われたのは、1854年、2度目のペリー来航時のこと。

 このとき、函館、下田、那覇でも幕府(琉球王国)の役人を招いて演じられ、人気を博したというが、同時に黒人差別意識を「日本人」に植え付けたことも間違いない。

 

 この黒人に対する差別意識が、今も日本社会に深く根付いている。 

 

 

ダッコちゃん、カルピスの黒人マーク

 

 日本で、本格的に黒人差別が問題視され始めたのは、アメリカで1964年に公民権法が成立してから、20年ほど経ってからである。

 

 1980年代、アメリカの「ポリティカル・コレクトネス」運動や、日本国内における差別語や差別表現に抗議する運動の高まりのなかで、「サンボ人形」「ダッコちゃん」や『カルピス』の商標だった「黒人マーク」などが、ステレオタイプ化した黒人蔑視であり、誤った黒人像を与えているとして、強く抗議される。

 

その後も、『ちびくろサンボ』問題、政治家による黒人差別発言などがあいついだ。


 

​​ カルピス商標(当時)

 

※「ダッコちゃん人形」と1990年に取りやめたカルピス商標マーク。日本で販売・表現された黒人キャラクターは、すでに1930〜40年代のアメリカで批判されてきた黒人像だった。

 

 

外交問題となった政治家の黒人差別発言

 

 1986年、当時の中曽根首相が、自民党の全国研修会で、「日本は高学歴になってきておる。…(中略)…平均点からみたら、アメリカには黒人、プエルトリコとかメキシカンとか、そういうのが相当おって、日本人よりはるかに知的水準が低い」と発言し、米議会や黒人議員連盟が強く抗議。

 

 1988年、当時の自民党・渡辺美智雄政調会長が、「日本人はまじめに金を返すが、アメリカには黒人やヒスパニックなんかがいて、破産しても、明日から金返さなくてもいい、アッケラカンのカーだ」と発言。国内外から人種差別発言として厳しい抗議を受ける。

 

 1990年、自民党・梶山静六法務大臣が、資格外就労の外国人女性摘発をめぐって、「悪貨は良貨を駆逐するというが、アメリカにクロ(黒人)がはいって、シロ(白人)が追いだされているような混在地になっている」と発言。

 

 梶山法務大臣の発言に対して、全米黒人地位向上協会など、アメリカの団体のみならず、アフリカ各国をも巻きこんで抗議行動が拡がった。法務大臣をはじめ政府首脳は陳謝したものの、米下院が梶山法相非難決議を全会一致で決議。さらに東京都議会都市問題調査団が、ニュージャージー州都トレントンのダグラス・パルマ黒人市長により、訪問を拒絶される。

 

 梶山法相は、衆参両院の法務委員会で「国内外からの強い非難を浴びてはじめて人種差別問題への『感受性の欠如』やその克服の難しさに気づき」「外国人の労働問題という観点もなく短絡的だった」と陳謝。(以上『最新 差別語・不快語』より抜粋)

 

 

麻生の人種差別発言

 

 また、昨年9月5日、麻生太郎総理兼財務相は、盛岡での講演で、「G7(先進7か国)」の国の中で、我々は唯一の有色人種であり、アジアで出ているのは日本だけ」と発言、その人種差別意識と無知をさらけ出している。

 

 G7各国(アメリカ・ドイツ・フランス・イタリア・イギリス・カナダ・日本)が、多様な人種で構成されていることも知らず、(アメリカのオバマ大統領のことはすでに忘れている)「白人国家」に対抗している「有色人種」国家の代表とでも思っているのだろう。

 

アジア・アフリカ諸国に対する優越的差別意識(その裏には「白人国家」に媚びる「名誉白人」意識がある)に気づかない、反知性的俗物根性まるだしの差別発言。

 

 

黒塗りメイクを黒人差別と指摘できなかったこと

 

 しかし、ここで反省しなければならないのは、自戒をこめて指摘するが、シャネルズ(その後ラッツ&スター)の黒塗りメイクについては、当時、一切の批判を行っていないことだ。

 

 シャネルズは、1996年、第47回紅白歌合戦に「夢で逢えたら」で出場している。

 もちろん黒塗りメイクをしての出演だ。

 

 ラッツ&スターのメンバーに黒人差別をする意思が全くないことは明らかだし、彼らが黒人音楽にあこがれを持ち、むしろリスペクトしていることに一点の疑いもない。それでも、黒塗りメイクで歌うべきではない。

 

 差別表現の問題は、演技者・発話者・執筆者の主観的意図・意思(善意を含め)とはかかわりなく、表現の客観性、その表現が社会的にどう受け取られるかの問題だからだ。

 

 最高視聴率が40%を超えたこともある『ドリフの大爆笑』(1983年)で、加藤茶さんが全身黒塗りをしてダッコちゃん人形に扮し、コミカルな動きで笑いを取っているシーンがあった。

 

 「ダッコちゃん人形」には抗議しても、この番組に抗議は一切されていない。政治家の差別発言よりはるかに質の悪い黒人差別だが、反差別の活動家を含め、これを人種差別であるとは気づかなかったということだ。

 

 明治維新まで、歴史的に黒人と接触する機会がほとんどなかった「日本人」が、黒人に対する差別的偏見を持つようになったのは、欧米文化を取り入れるなかで、白人優位思想のイデオロギーとまなざしを刷り込まれたことによる。

 

 

排外主義と白人優越主義

 

 ここまで、黒人差別問題についてみてきたが、この人種差別は、在日コリアン、中国人、大相撲の外国人力士(とくにモンゴル出身力士)、そして移住労働者などに対する差別と同根であり、すべての差別問題に共通する排外主義的内容を持っている。

 

 今回の大坂なおみ選手の「ホワイトウォッシュ」事件を語る中で、日本の右翼・民族派の中にも、大阪選手を日本人として認めず排除し、無視すると公言する者がいるという。

 

 情けないというレベルの話ではない。今、既存の右翼団体の中から、ヘイトスピーチをくり返す日本第一党(旧在特会)を支援する動きが活発になってきている。

ヘイトスピーチ対策法の改正と包括的な人種差別禁止法の制定が、喫緊の課題だ。

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