最新連載記事
カテゴリー
月別

記事検索
ウエブ連載 第209回 「 Black Lives Matter」黒人の命を軽く見るな!  深化、拡大、飛躍する人種差別反対運動

 

(筆者註) 「Black Lives Matter」を「黒人の命も大切だ(大事だ、重要だ)」と訳しているが、「黒人の命を軽く見るな」(翻訳家の柴田元孝さん)が一番日本語としてしっくりくると思っていたら、すでにその翻訳に近い言葉を『最新 差別語・不快語』に書いてあることに気づいた。 

 

 

●白人警官による暴行死

 

 白人警官による黒人男性暴行死事件に対する抗議行動は、わずか1ヵ月間で、全米各地からヨーロッパ、日本をはじめ全世界に拡がっている。

 

5月25日 ミネアポリス在住のジョージ・フロイト氏、白人警察官により路上で窒息死させられる

5月26日 フロイド氏の死に対する抗議集会、ミネソタではじまる

5月27日 ニューヨーク、ワシントン、サンフランシスコ等全米各地で抗議集会はじまる

5月28日 トランプ大統領、デモ参加者を「ゴロツキ」とツイート

5月30日 トランプ大統領、ホワイトハウス前で抗議するプロテスターを警官隊に催涙弾とゴム弾で排除させ、セントジョンズ教会を訪れ、聖書を掲げ写真撮影。その後、教区を束ねるブッディー司教が教会を利用したとしてトランプに激怒

5月31日 デモを取材していたCNN記者と取材クルーが逮捕                                                                                        

                                            

6月1日  トランプ大統領、抗議デモに対し軍の投入を辞さないと演説          

6月2日  トランプ大統領、首都ワシントン各地に州兵を配置

6月3日 マティス前国防長官がトランプを痛烈批判。現職のエスパー国防長官も「デモ鎮圧に連邦軍を投入しない」と明言。

6月7日  パウエル元国務長官が7日、CNNテレビに出演。「トランプ大統領は合衆国憲法から逸脱した」と批判、11月大統領選で支持しないと表明。イギリスで17世紀の奴隷商人エドワード・コルストンの銅像が引き倒され、港に投げ込まれる。

6月8日  フロイド氏殺害警官が第2級殺人で追起訴、保釈金125万ドル(1億3500万円)

6月20日 トランプ大統領、100年前に300名の黒人住民がKKKに虐殺された地・南部オクラホマ州タルサで、大統領選挙集会を強行。

        

 

 抗議行動は、アメリカ・ミネソタ州ミネアポリスの黒人男性、ジョージ・フロイド氏が、5月25、白人警察官に路上で首を押さえつけられ窒息死させられたことに端を発している。

 

 フロイド氏は、武器を持たず後ろ手で手錠をかけられた状態で地面にうつぶせにされ、白人警官に膝で首を9分近くも押さえつけられて死亡。

 

 その模様を映した8分46にわたる動画がSNS上で拡散され、瞬く間に全米で抗議行動が拡がった。

 

 

●不正義に対する積年の怒り爆発

 

 怒りの根本には、「公民権法」以来、数十年間にわたる、警察の黒人への暴力、殺人がある。

 

 1863、リンカーンの「奴隷解放宣言」から百年、キング牧師率いる公民権運動により1964に「公民権法」が制定され、政治的・社会的な黒人差別が禁止されてから56年が経つが、黒人差別は社会構造として、依然根強く存在し続けている。

 

 コロナ禍の中でより鮮明になったのは、全米で10万人を超える新型ウィルス感染による死者のうち、黒人の死亡率が白人の・4倍という現実である。

 

 長年放置されてきた差別と貧困が、健康格差に及んでいる。

 

 テレワークのできないサービス業や国民生活に不可欠だが、感染リスクの高い病院や運送業に従事していることが、差別に拍車をかけている。

 

 驚くべき数字は、これだけではない。

 

 PNAS米国科学アカデミーは、「2019年の黒人男性の死因の第6位は警察の暴力によるもの」というデータを公表。「黒人、とくに20代の若者)が、白人警官のターゲットにされている」という。

 

 また、ワシントン・ポスト紙のデータベースによれば「武器を所有せずして警官に殺される黒人は白人の4倍以上にのぼる」という (6月18日竹沢泰子寄稿「肌の色が命を分ける」/朝日新聞デジタル)。

 

 じっさい、フロイド氏が殺害されたミネアポリスの黒人人口は19%。

 

 それに比べ、ミネアポリス警察が実力行使する対象の60%以上が黒人である。

 

 黒人死亡率は白人の2.4倍、警官に殺される黒人は白人の4倍以上。こうした不正義がうち続くなか、無抵抗のフロイド氏の首を圧迫して死に至らしめた8分46秒の動画――社会構造的な黒人差別が顕在化され、可視化されて、人々の怒りに火が付いたのである。

 

 

●「息ができない」――ガーナーさんの最期の言葉

 

 今回と同じような白人警官による黒人男性殺害は、6年前にも起きている。

 

 2014年、ニューヨークで、体重160キロ以上の大柄な黒人男性エリック・ガーナー氏が、複数の白人警察官に首を絞められ窒息死した。

 

 このとき、ガーナー氏が死の間際に発した言葉は、今回の犠牲者フロイド氏と同じく「息ができない」だった。 

 ガーナー氏を窒息死させた白人警官は、裁判で不起訴となり、事件から5年経って、懲戒免職処分を受けたに過ぎなかった。 

 

 白人警察官による黒人殺害は、くり返し起きている。

 

 フロイド氏の死に対する抗議行動が拡大する最中の6月12にも、黒人男性が白人警察官に射殺された。

 

 しかも事件は、キング牧師生誕の地であるアメリカ南部ジョージア州アトランタ市のドライブスルーで起きた。

 

 黒人男性レイシャード・ブッルックス氏(27歳)を射殺した白人警察官は、即刻懲戒免職になったが、その後「重罪殺人」罪を適用され、保釈のない終身刑か死刑が想定されている。

 

 ちなみに、フロイド氏を殺害した警官は「第2級殺人」で追起訴されたが、ミネソタ州で黒人を暴行して死に至らしめた警官が起訴されたのは、今回の事件が初めてである。

 

 

●逃亡奴隷追跡が警察の役割だった

 

 公権力である警官が、黒人に対するリンチを白昼堂々と行っている。

 

 白人警官であれば、黒人を射殺しようが窒息死させようが、おとがめなしーーこのような不正義がなぜ続けられてきたのか?

 

 6月19日のBBCニュースは、「アメリカの警察の歴史的問題―逃亡奴隷の追跡から始まり」と題して、アメリカの警察が長年にわたり黒人を抑圧してきた歴史を特集した。

 

 黒人奴隷を「財産」として所有するアメリカ南部の綿花プランテーション大農園経営者の意向を受けて、「逃亡奴隷法」が制定されたのは、1793年。

 

 その後、奴隷制度が廃止されていたカナダや北部自由州に脱出する黒人が相次いだため、1850年に「逃亡奴隷法」が改正される。

 

 改正された逃亡奴隷法のもとで、奴隷所有が認められない北部自由州においても、執行官・連邦保安官が逃亡奴隷を取り締まるようになる。逃げた奴隷を追跡し、「犯罪者」として処罰し、「所有者」に戻す。

 

 人種隔離政策「ジム・クロウ法」に抗議する公民権運動が1960年代に盛んになると、警察は、黒人活動家の移動を制限し、運動のリーダーを狙い撃ちした。

 

 公民権法制定により、人種隔離政策が禁止され、黒人がアメリカの市民権を獲得しても、警察の手法は、変わらなかった。

 

 BBCニュースに出演したピッツバーグ大学のケイシャ・ブレイン歴史学教授は「奴隷制は、現代も形を変え、社会に組み込まれている」と語る。

 

 「警察の黒人に対する暴力を奴隷制から発したものとする文脈でみれば、よくわかります。『Runaway Slave Patrole』 (逃亡奴隷を追跡する警察官バッジの紋章)として、警察は存在したのです」

 

 

●スパイク・リー監督は語る

 

 同じくBBCニュースは、フロイド氏殺害事件について、ハリウッド映画界の黒人差別に闘いを挑んできた映画監督スパイク・リーにインタビュー。

 

 リー監督は、つぎのように語っている。

 

「だから今回の事件は新しい出来事じゃないんです。もう400年も続いている」

 

「僕の先祖は400年前、母なるアフリカから連れ去られ、ヴァージニア州ジョージアタウンに着いた。最初の奴隷船がここに着いたのは、1619年だった」

 

 そのうえで、リー監督は語る。

 

「Black Lives Matter運動の影響力がすごいのは、白人の若いブラザーやシスターたちが、黒や褐色の仲間と腕を組んでいること。だから影響力はとてつもなく大きい」(6月4日/BBCニュース)

 

 フロイドさん暴行殺害に端を発した抗議行動は、1960年代の公民権運動を上回る規模で、すでに1万1千人以上の参加者が逮捕され、死者も18人。

 

 激しい抗議行動となっていて、全米50州すべてで抗議デモが展開され、連動して日本を含む世界各国でも連帯する抗議行動が行われている。 

 

 1960年代の公民権運動当時との違いは、デモ参加者が若者を中心に世代を超え、当事者の黒人だけでなく白人、ヒスパニック、アジア系も多く参加しており、まさに「人種」を超えて、アメリカ国民すべてが参加していることだ。

 

 なかでも、白人の若者が多いことが特徴的だ。

 

 しかも、SNSを通じた呼びかけに呼応して、幅広い社会層が参加しているところは、ヘイトスピーチに抗議する日本のカウンター行動参加者とまったく同じだ。

 

 

●警察改革を訴える波

 

 Black Lives Matter運動の中で、とくに注視したいのは、長年、黒人にリンチをくり返してきた警察組織の解体的改革が叫ばれていることである。

 

 警察は、黒人を抑圧する最大の装置として、その機能を果たしてきた。

 

 長年うち続いてきた不正義に対する抗議が全米に広がるなか、アメリカの警察組織の解体的改革が叫ばれ、具体化する自治体も出始めた。 

 

 抗議デモに敵対する警察、州兵だが、一部ではひざまずき、連帯を表明する動きもあった。

 

 それに比べ、日本では相変わらず、ヘイトデモを擁護し、反差別カウンターに敵対する警察ばかりである。渋谷警察署のクルド人に対する暴行逮捕は、アメリカにおける黒人に対する差別的対応とまったく同じといってよい。

 

 しかし、アメリカの警察に対する改革の波は、必ず日本の警察の在り方にも影響を与える。

 

 

●歴史的転換――人種差別、先住民族虐殺の「英雄」が批判

 

  何よりも特徴的で興味深いのは、人種(黒人)差別抗議行動が、先住民族を破滅させたとして、「新大陸発見」のコロンブス像や南北戦争時代の南軍の英雄などの銅像を人種差別の象徴として、倒壊撤去させていることだ。

 

 イギリスでは奴隷商人エドワード・コルストンの銅像が河に投棄され、あのチャーチルの銅像さえ人種差別者として、批判が向けられている。

 

 ベルギーでは、旧植民地コンゴ抑圧の象徴として、各地にある国王レオポルド鏡い料が破壊の対象になっている。

 

 そのほかにも、黒人をはじめ有色人種や先住民族を奴隷にして酷使し、差別してきた「英雄」の名がつけられた地名やストリートの名称変更を求める運動も、抗議行動の中から起きている。

        

 今回の世界的な人種(黒人)差別反対の抗議運動の中で、すべての差別を許さない精神を基底として、歴史を見直し、白人支配層によって作られた社会意識と人間存在の価値観の歴史的転換が進行しているといってよい。

 

 その一つの表れが、6月15日、アメリカ連邦最高裁で、LGBTなど「性自認や性的指向」を理由とした解雇を公民権法違反とする判断が下されたことに見ることができる。

 

 連邦最高裁判事9人中6共和党指名の保守派で、過去にも「性的少数者に非寛容な判決」を下していただけに、今回の判断に原告側は驚いたという。

 

 反差別の社会意識は確実に拡大し、強まっている。

 

 

●差別主義者トランプ、米国エスタプリッシュメントに見放される

 

 白人警官による黒人暴行殺害に対する抗議運動は、黒人差別反対にとどまらず、全般的な反差別運動として、全世界的な展開を見せているが、トランプ大統領は抗議行動を、「アンチファシズム」を叫ぶ一部のテロ組織の仕業と決めつけ、「略奪が始まれば銃撃する」とツイッターで発信、州兵が動員され、全米40都市で夜間外出禁止令が出されている。 

 

 ついには、人種差別反対デモに米軍を投入するとトランプは息巻いた。

 

 この発言を受けて、マティス前国防長官、現職のエスパー国防長官も、連邦軍投入によるデモ鎮圧方針に公然と異を唱え、トランプを批判するに至っている(*)

 

 また、米軍制服組のトップ、ミリー統合参謀本部議長も、トランプに付き従うことを拒否し、事実上の決別宣言を突き付けた(*)

さらに、元統合参謀本部議長で共和党員のパウエル元国務長官が、7日のテレビ出演で、「トランプ大統領を「合衆国憲法から逸脱した」と厳しく批判、次期大統領選でトランプに投票しないと表明。

トランプは、軍および米国エスタプリッシュメントから引導を渡されたのである。

 

*エスパー国防長官は「米軍は憲法の言論・集会の自由の権利を擁護する」と、公に反対を表明。

 マティス前国防長官は、「ナチのように国家を分断しても統治するというトランプは合衆国憲法の脅威だ。我々はトランプという脅威を取り除かなければならない」と述べた。

 

*ミリー統合参謀本部議長は、合衆国国防大学での演説で、教会での写真撮影のために、5月30日、催涙弾で抗議デモを排除したトランプに同行したことを謝罪。「あの瞬間、あのような状況に私がいたことは国内政治への軍の関与という認識を作り上げてしまった」と、述べた。

 

 

●トランプの終わりは安倍の終わり

 

 このままの状況では、トランプの秋の大統領再選はない。

 

 このことは、トランプのポチ「安倍晋三の終わり」をも意味している。 抗議デモ参加者を「テロリスト」と呼び、国民を分断し統治するトランプの手法は、日本の安倍首相も学んでいる。

 

 選挙演説でヤジを飛ばす反差別カウンターのメンバーに向かって、「あんな人たちに負けるわけにはいかない」と叫ぶ姿は、トランプのポチにふさわしい。 

 

 いっぽう、今回の人種(黒人)差別反対抗議行動には、多くのアスリート、俳優、ミュージシャン、アーティスト、そして驚くべきは、ナイキ社やディズニー(創始者ウォルト・ディズニーは人種差別主義者)などの大企業も連帯し、抗議行動に多様な方法で意思表示し参加していることだ。

 

 NBAプロバスケットボール協会に所属する八村塁選手、女子テニスの大坂なおみ選手をはじめ、世界で活躍している日本人アスリートも声をあげている。

 

「Black Lives Matter」、を掲げ、全米のみならず全世界に広がりつつある人種差別反対抗議運動は、世界の人権意識を根底的に変革している。

 

 「人権問題の根幹には差別問題がある」ことを世界に訴えている。

 

 

 

〇2015年、アメリカ・メリーランド州ボルティモアで、黒人青年が白人警官に暴行殺害された事件に対し大規模な抗議デモが全米で繰り広げられた。その時のスローガンも、「Black Lives Matter」で、日本語訳は「黒人の命は軽くない」だった。 この「Black Lives Matter」を掲げた運動が始まったのは、2013年、フロリダ州で黒人の高校生が白人警察官に射殺された事件をきっかけにSNSを通じて広がったといわれている。

| 連載差別表現2020 |
| 1/1PAGES |