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第103回 真のオリンピック・ムーブメントを巻き起こせ
■2020年東京オリンピック開催決定
 9月9日早朝、2020年のオリンピック開催都市が東京に決まったことで、テレビ新聞を始め、メディアは朝から狂喜乱舞している。

 しかし、忘れてならないのは、震災の傷深く、帰宅もままならない被災者と、福島原発の放射能汚染水問題、そして何よりも懸念されているのは、首都圏での大規模地震の可能性だ。

 決定されたオリンピック開催にケチを付ける気はないが、経済不安のマドリード、世情不安のイスタンブールよりも、実利と安全を売りにした東京にIOC委員が投票したことは、想像にかたくない。

 筆者が危惧するのは、災害面よりも、むしろ、オリンピック憲章が謳う、「人種、宗教、政治、性別、その他の理由に基づく国や個人に対する差別はいかなる形であれオリンピック・ムーブメントに属する事とは相容れない。」(オリンピズムの根本原則6)というオリンピック精神を体現すべき理念が、東京にあるのかという点だ。

■公職者の差別発言の責任追及は可能だ
 猪瀬知事の前任者であり後見人でもある、石原慎太郎前都知事(現、衆議院議員)が度重なる差別言動を行なってきたことはよく知られている。

 たとえば、2000年、石原都知事は陸上自衛隊練馬駐屯地記念式典で、「不法入国した多くの三国人、外国人の凶悪な犯罪がくりかえされており、大きな災害が起きたら騒櫌事件も予想される」と発言し、それに対し「他民族に対する偏見と憎悪に満ちた意図的言辞であり、排外主義による煽動にほかならない」と、関係団体から強く抗議されている。

 また韓国外交通商相が遺憾の意を表明、「在日韓国人をふくめた、在日外国人社会を差別、冒涜するものであり、都知事がこうした発言をするのは時代の流れに反する」と厳しく非難している。1925年におこった関東大震災に際しての朝鮮人虐殺を念頭に置いた抗議だ。

 このような公職にある政治家の人種差別発言について、国際人権法の師岡康子さんは、人種差別撤廃条約の第4条、C項(a、bは留保されている)を盾に、責任追求を行うことが可能だと主張している。つまり、闘いの武器となる条文だといっているわけである。
※「国又は地方の公権力又は公的公益団体が人種差別を助長し又は煽動することを許さない」。(第4条C項)
そして国際条約について、日本国憲法第98条は次のように述べている。
②日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。
 すでにオリンピック東京招致決定以降、韓国に対し、「開催に反対なのだから、2020年の東京オリンピックに(韓国は)参加するな」などの書き込みが、ネット上で拡がりつつあり、今後、「在特会」などのヘイトスピーチの標的にされる可能性がある。猪瀬都知事には、確固としたオリンピック精神の理解の下、このような発言に対し、厳しく対処すべしと言っておきたい。

■先住民族への取り組みに見る各国の人権政策
 話をオリンピック精神に戻すが、この人種差別をはじめ、すべての差別を許さないという崇高な精神は、1925年(大正14年)のIOC総会で定められている。

 アメリカにおける日本人排斥運動(1924年には、排日移民法が成立)の激化を目のあたりにして、日本政府が1919年、世界で初めて、人種差別撤廃をパリ講和会議の国際連盟委員会で、提案したことを忘れてはならない。それに対して、当時、強硬に反対したのは、黒人差別のアメリカと白豪主義のオーストラリアであったことは、記憶しておいてよい。

 しかし、人種差別に反対するオリンピック精神が血肉化されたのは1948年、第二次世界大戦とその痛烈な反省の上に成文化された世界人権宣言が発せられて以降であろう。

 世界で最初に人種差別撤廃を訴えた日本の反差別の精神を、2020年東京オリンピック開催に向けて、より一層高く掲げる必要がある。このことを意識してかどうか知らないが、菅官房長官は、9月11日、北海道の白老町で、アイヌ民族博物館などを見学し、先住民族アイヌ文化の伝承と振興に積極的に取り組む姿勢を見せている。

 モントリオールオリンピック(1976年)の開催が決まった折、カナダ政府は、先住民族であるネイティブアメリカンに対する、積極的な差別撤廃施策を実行した。また、オーストラリア政府も2000年のシドニーオリンピック開催を前に、先住民族アボリジナル(アボリジニ)に対する政策を転換させ、アボリジナルの文化と伝統を守る施策を大きく前進させている。2008年には国連の「先住民族の権利に関する宣言」(2007年)を受けて、オーストラリア政府は、長年に渡る同化・排除政策を公式に謝罪している。

 日本の先住民族アイヌに対する今回の政府の行動は是とするものの、先に述べた国連の宣言を受けて2008年に「アイヌを先住民族として認めよ」との国会決議が衆参両院で、全会一致で、可決されているのである。それから、6年もたって、やっと重い腰を上げ、2020年までには、「『民族共生の象徴となる空間(象徴空間)』を、白老町につくる」など遅きに失している。さらに言えば、文化振興のみに力点を置き、先住民族の生活・就労・教育に踏み込まない政策は、差別撤廃を掲げるオリンピック憲章から考えても的を外しているといわねばならない。さらに加えて言うが、先住民族問題派、少数民族問題でもあり、国内に居住する在日韓国・朝鮮人、中国人、そして移住労働者も当然視野に入れておくべきである。

 良し悪、好き嫌いは別にして、2020年に、オリンピックが東京で開催されることは決まったのであり、逆にそれを奇貨として先住民族アイヌをはじめ、日本の人権政策の推進に向けて活用すべきだと思う。
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