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第96回「朝鮮人は死ね!」と「朝鮮人は出ていけ!」に違いはあるか
■ヘイトスピーチは人種差別煽動行為
 先週に引き続き、「ヘイトスピーチ」と法規制の問題について考えたい。
 6月28日に「ヘイトスピーチと『言論の自由』」と題した勉強会が開かれた。ゲストスピーカーの有田芳生参議院議員の対話者として私も出席し、思っていることを述べさせてもらった。
 すでに幾度も書いているように、日本の憲法および国際人権法学界の大半、そして良心的言論人、ジャーナリスト、総じて出版言論関係者の多くが「ヘイトスピーチ」の法規制に慎重な姿勢を崩していない。
 しかし、そのような学界的、業界的雰囲気にも少し変化が起きている。「在特会」などのネトウヨ団体による排外デモ過激化、聞くに堪えない在日韓国・朝鮮人、そして被差別部落、生活保護者に対するヘイトスピーチに対して、従来の考え方を変え、法規制の必要性を訴える記事(社説 東京新聞、沖縄タイムス、岐阜新聞など)が目立ってきた。日弁連も公式に法規制の必要性を表明している。
 有田議員を先頭に、法的規制の必要性を強調する国会議員の数も、少ないとはいえ着実に増えている。
 勉強会で有田さんが「『ヘイトスピーチ』を、いままで『憎悪発言・差別発言』と和訳していたが、少し不充分な気がする。そこで、日本政府がその批准を留保している人種差別撤廃条約第4条(a)(b)項に書かれている『人種差別煽動』という言葉をヘイトスピーチの和訳として使用すべきではないか」と語り、私も賛成した。(*註)
 つまり「在特会」などの「ヘイトスピーチ」は、憎悪表現・差別表現ではなく、人種差別にもとづく「社会的差別の宣伝・煽動」行為であり、彼らはまちがいなくレイシスト犯罪集団なのである。

■ヘイトスピーチはたんなるケンカ言葉や「不快語」ではない
 さらに先の勉強会で強調したのが、他人の悪口や陰口レベルのいわゆる「不快語」ではなく、社会的な差別語を問題にしていること。
 「ブス、チビ、カッペ、メガネ」とは、昔、ある書店が人事採用時の不採用要件の注意事項として内文化し、社会的指弾を受けた表現だ。それと同じ「デブ、出っ歯、ハゲ」などの言葉で人をなじる悪態語もまた「不快語」の範疇に入る言葉であり、表現である。それこそ「話者の品格」が問われる発言、表現であろう。
 しかし、いまヘイトスピーチで対象になっているのは、このような「不快語レベル」の問題ではない。先週のくり返しになるが、「ヘイトスピーチ」は社会的マイノリティに対してなされるのであって、あれこれの個別の侮辱発言とは、性格を異にしている。つまり、ヘイトスピーチは、社会的差別の存在を前提に行なわれる、人種差別、民族差別、部落差別、障害者差別、性的指向差別、女性差別に対する憎悪表現のことなのだ。
 われわれが求めているのは、社会的差別を受けているマイノリティ集団に対するヘイトスピーチの法規制である。侮辱罪や名誉毀損罪は、プライバシーが侵害された場合や、それこそ社会的な公共の場で名誉が傷つけられ、侮辱されたことに対する個人救済的意味を持つ法律だろう。
 しかし、ヘイトスピーチの対象は、個別具体的な個人になされたとしても、それは一定の被差別マイノリティ集団に対して行なわれているのであり、社会的差別の容認・拡大をもたらす犯罪行為なのだ。

■「朝鮮人出ていけ!」はヘイトスピーチではない?―民族派の主張
 一方で「在特会」などのヘイトスピーチに対して果敢に闘っている民族派の人々の間にも、法規制に反対する声が強い。その一例が一水会の機関紙『レコンキスタ』に載っているので、見てみたい。
 一水会会員板城匠氏は「『朝鮮人出ていけ!』もヘイトスピーチになるのか」と題して以下のように主張する。
「朝鮮人は死ね!」誰が聞いてもこれは明らかなヘイトスピーチであり、それを否定する者など在特会以外、保守派・民族派の中には一人もいはしないだろう。
しかし「朝鮮人は出ていけ!」これはどうか。
NHKや朝日新聞その他、在特会の問題を取り上げるほぼ全てのマスコミは、当然のようにこれもヘイトスピーチ扱いとして、「死ね!」と「出ていけ!」の間に、なんら差異を設ける必要性を認めてはいないようである。
だが、ちょっと待て。
もし「出ていけ!」が「死ね!」と全く同等のヘイトスピーチだとし、しかもそれを法律で規制するというのであれば、我々が在日米軍基地の周辺で叫んでいる「ヤンキー・ゴー・ホーム!」も全く同じ意味であり、ヘイトスピーチとして取り締まりの対象になってしまうではないか。…(中略)…一体どこまでがヘイトスピーチでどこからがそうではないのか。その客観的な基準すら無いのに、ヘイトスピーチの法規制など、やはり認めるわけにはいかない。
(『レコンキスタ』410号)
 板城氏は、「朝鮮人は死ね!」と「朝鮮人は出ていけ!」との差異を述べ、「朝鮮人出ていけ!」もヘイトスピーチとして規制されるなら、板城氏らが叫んでいる「ヤンキー・ゴー・ホーム!」も同じヘイトスピーチとして取り締まりの対象になってしまうと怒っているのである。
 この一文を読んで思い出すのは、学園紛争華やかなりしころ、にわかに大学構内で勢力を伸ばしはじめていた霊感商法、オカルト団体、統一教会に対し、日本共産党の機関紙『赤旗』が「統一教会は韓国へ帰れ!」と喧伝していたことだ。
 「日本国内で悪いことは許さないが、韓国に帰って悪事を働く分には関係ない」という、これがはたして共産党のインターナショナルな思想なのか?と思ったが、それと同様の稚拙な主張と言わざるを得ない。
 「朝鮮人死ね!」という表現に存在している、在日韓国・朝鮮人に対する民族差別など排外主義的な憎悪感情が、なぜ「朝鮮人出ていけ!」にはないと言えるのか。一言で言って、どちらも在日朝鮮人に対する侮蔑感情をふくんだ、差別表現、憎悪煽動であり、ヘイトスピーチであると断言できる。そこで使用されている言葉(発言・文字)に違いはあるが、そこに表現されている差別性にはなんの違いもない。
 差別語と差別表現を語るなかで私は何度も述べてきたが、重要なことは、表現の差別性であって、あれこれの言葉の使用にあるのではない。この点がまったくわかっていない。

■「人類の理想は各民族において花開く!」
 さらに言えば「ヤンキー・ゴー・ホーム!」も戦前叫ばれた「鬼畜米英」と同じ狭量な「排外主義的憎悪発言だ」という点である。叫ぶのなら「USアーミー・ゴー・ホーム」だろう。「在日韓国・朝鮮人と在日米軍では歴史的経緯が全然違う」などと、本物の「サヨク」は決して言わない。
 われわれは、やむを得ずアメリカに移民せざるを得なかった日本人が、「排日移民法」により、第二次大戦中に人種差別的に強制収容所に送られ、徹底的に差別され、迫害され、財産すらも没収された歴史を知っている。そのとき吐かれた言葉が「ジャップ・ゴー・ホーム」だったことを、忘れてはいない。
 われわれが憎むべきは、米国政府および米軍であって、アメリカ人一般ではない。「ヤンキー・ゴー・ホーム!」は、アメリカの軍産複合体の権力者とアメリカ国民を同一視する反人民的思想と言わざるを得ない。
「朝鮮人は出ていけ!」も「ヤンキー・ゴー・ホーム!」も、そして「ジャップ・ゴー・ホーム!」も、排外主義的なヘイトスピーチなのである。それゆえ立法化が期待されるヘイトスピーチ規制法では、等しく取り締まりの対象となるだろう。
 在特会などのヘイトスピーチに対するカウンター行動によって信頼を克ち得ている民族派の人々が、なぜこのような暴論を吐くのであろうか。
 一水会は欧州の民族派の政治組織とさまざまな友好関係を築き上げている、日本では稀有な民族派団体である。しかし、欧州の多くの民族派団体が、移民やスィンティ・ロマ(日本では差別的に「ジプシー」と呼称される)、そしてイスラム教徒排斥運動の先頭に立っている現実もまた、あきらかになっている。「仏極右党首免責特権はく奪 ヘイトスピーチで欧州議会」と7月3日付の共同ニュースが報じている。仏の「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首のことだ。一水会の欧州における友党の党首ではないのか。きちんとした態度表明を行なうべきだろう。
 哲学者ヘーゲルは語っている。「人類の理想は各民族において花開く!」
 ナショナリズムは、それがつねに生みだす排外主義的要素を捨て去り、インターナショナルを本質とする多民族共生の思想を克ち取るとき、本物になるのではないか。
 寡聞にして知らないが、一水会は中国、韓国をはじめアジア諸国の民族派との交流はあるのか。東アジア共同体構想が現実味を帯びてきている現下の情勢で、一水会の活動の重要性が増しているだけに、ひとこと言っておきたい。


*註 人種差別撤廃条約 
 〔人種的優越主義に基づく差別及び煽動の禁止〕
 第4条 当事国は、 一人種又は一皮膚の色もしくは民族的出身からなる人々の集団の優越性を説く思想又は理論に基づいているか、又はいかなる形態の人種的憎悪及び差別をも正当化しもしくは助長しようとするすべての宣伝及びすべての団体を非難し、そのような差別のあらゆる煽動又は行為を根絶することを目ざした迅速かつ積極的な措置をとることを約束する。 またこのため、当事国は世界人権宣言に具現された原則及びこの条約第5条に明記する権利に留意し、特に次のことを行う。

 (a) 人種的優越又は憎悪に基づく思想のあらゆる流布、人種差別の煽動、並びにいかなる人種又は皮膚の色もしくは民族的出身を異にする人々の集団に対するあらゆる暴力行為又はこれらの行為の煽動、及び人種的差別に対する財政的援助を含むいかなる援助の供与も、法律によって処罰されるべき犯罪であることを宣言する。

 (b) 人種差別を助長し煽動する団体並びに組織的宣伝活動及びその他あらゆる宣伝活動が違法であることを宣言しかつ禁止し、並びにそれらの団体又は活動への参加が法律によって処罰されるべき犯罪であることを認める。

 (c) 国又は地方の公権力又は公的公益団体が人種差別を助長し又は煽動することを許さない。
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