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第1回 「ジプシー」という言葉について
 今回、『管理職検定02 差別語・不快語』の発刊を機に、ウェブ上にコラムを連載することになりました。

 内容は、主に「差別語、差別表現」の問題と「差別問題、人権問題」についてのコメントです。
国内外で報道されたテレビ、新聞のニュースや週刊誌報道の中から、最新の関連記事をピックアップし、コメントや批評を加え、みなさんに考える材料を提供できれば、との思いから始めることになったコラムです。

 もうひとつは、すでに刊行され、流通している書籍の中に散見される差別語、差別表現についてです。明治、大正、昭和の文学書、学術書の中に、おびただしい差別語、差別表現があり、そのまま現在、書店の棚に並んでいます。この問題をどう考えるかについても、随時、取り上げていきたいと思っています。

 毎週金曜日に更新しますが、トピックニュースがあれば、適宜ウェブ上に連載していきます。




第1回「ジプシー」という言葉について


 本年5月中旬に『原発労働記』(講談社文庫)と『原発ジプシー』(現代書館)という、著者が同じでほぼ同一の内容の本が、あいついで2冊復刊されました。前著は1984年に『原発ジプシー』(講談社文庫)として文庫化された本の再版で、タイトルを『原発労働記』と変更したもの。後著は、前著の元版で1979年に現代書館から刊行されていた『原発ジプシー』の増補改訂版です。

 発刊(1979年)以来、原子力発電所の危険性、犯罪性を鋭く追求した本として、すでに高く評価されている本ですが、今回、このコラムで考えたいのは、『原発ジプシー』というタイトル(書名)についてです。

 内容も、文庫版の方は削除された部分もありますが、単行本の方は、初版を元に増補改訂したものです。

 講談社が、復刊に際して文庫版のタイトルを『原発労働記』に換えたのは、「ジプシー」が差別語だから、ということではないようですが、「ジプシー」という言葉は、1979年当時も、1984年時も、そして現代も「ロマ・スィンティ」民族に対する侮蔑的な他称であり、差別的な呼称です。

 現代書館版では、“跋―もしくは「最終章」として”で、著者が『原発ジプシー』というタイトルにこだわった理由が書かれています。

 概ね肯定できる主張ですが、あやうい点もあることを指摘しておかなければなりません。

 それにしても、同時期に同じ本(文庫版は削除されている部分がある)を、文庫と単行本としてそれぞれ復刊として出版するのは、どう考えてもおかしいと言わざるを得ません。著者は一緒だが、書名が違うので、別の本と思って買う読者も少なくないはずです。
著者にも版元にも、それぞれ言い分はあるでしょうが、そんなことは読者には関係ない話です。出版に対する矜持の問題でしょう。

それはさておき、まずは「ロマ・スィンティ」民族の呼称の歴史と現状について、見ていくことにしましょう。

ヨーロッパ全域で暮らす少数民族に「ロマ」(「ジプシー」)がいます。「ジプシー」という言葉は「エジプトからやってきた人」つまり「エジプシャン」という誤解から発生し、差別的な意味あいをもつ言葉として認知されています。

 それにかわって、彼らが自称する「ロマ」が公称です(「ロマ」という言葉は、ロマの言語であるロマニ語で「人間」を意味しています)。もともと、インド北西部(パンジャブ地方)を発端の地とし、10世紀ごろ(6〜7世紀という説もある)から移動を開始し、現在1000万人を超えるロマ民族が、ヨーロッパ各国・西アジア・北アフリカ・アメリカなどに広く居住しています。

 ヨーロッパでは「ジプシー」という呼称が「劣等民族」「泥棒」「不道徳者」という認識の下、蔑称として使用されてきた歴史があります。現在「ジプシー」と“他称” されている人々の呼称は、11世紀ころギリシャにあらわれた彼らに対し、ギリシャ語で「異教徒」を意味する“アツィンガノス”(「不可触民」という意味もある)と呼んだことに端を発しています。その後、ヨーロッパ各地で多様なバリエーションをもって、つぎのように他称されるようになったわけです。

 ツィガーヌ、シガーン(フランス)、ツィガニ(ブルガリア)、ツィガーニ(ルーマニア、セルビア)、ジンガリ(イタリア)、チンゲネ(トルコ)、ツィガン(ポーランド、ロシア)、ツィゴイナー(ドイツ)、ツィガニョーク(ハンガリー)、シガーノ(ポルトガル)、チゴーナイ(リトアニア、ベラルーシ)など。

 また、「ジプシー」を、エジプトから来た人々と誤解したことに由来する他称として、ジプシー(イギリス)、ジタン(フランス)、ヒターノ(スペイン、自称でもある)、エギフトス(ギリシャ)、イェフギット(アルバニア)などがあります。

 また、東方からやってきたクリミア・タタール人に由来するタタール、ないしタターレなども、スカンジナヴィアでは使用されています。

 いっぽう、自称では、インドのサンスクリット語に由来する「人間、男、夫」などを意味する、彼らの内部から発生したロマ(Roma 単数はロム)、ロム(Lom)、ドム(Dom)などが、ヨーロッパから中東イスラム圏、アジアなどに広く使用されています。さらにこれ以外にロマニチャル(イギリス)、スィンティ(ドイツ)、マヌーシュ(フランス)、カーロ(フィンランド、ウェールズ)などの自称があります。また、言語はロマニ語で70種類余りの方言となって、ヨーロッパ全域に広がっています。

 21 世紀の2010 年にも、フランス政府がEU憲法違反にもかかわらず、800人以上のロマを国外に強制追放するなど、ヨーロッパ諸国を移動しながら生活するロマ人への不公正なあつかいと排斥がつづいています。

 日本でも大手旅行会社がヨーロッパ旅行にさいして、事前に配布した資料のなかに「ジプシー」を犯罪者とみなした記事を掲載し、抗議された例もひとつやふたつではありません。しかし、「ジプシー」を差別的にではなく、流浪のなかで育まれた歌や踊りなど、その文化のもつ力強さを表現したい場合もあるでしょう。もちろん、差別的にあるいは悪いもの、劣ったものの比喩として使用することは、絶対避けるべきですが、どうしても「ジプシー」という言葉のもつ歴史性・社会性が“ロマ” をふくめ、ほかの呼称と換えがたい場合は、「 」をつけて、かつ注釈、解説なりを付して発信すべきでしょう。

 以上のことを踏まえて、次回具体的に今回の問題を考えてみたいと思います。

 注意すべき点の第一は、本文中にではなく、タイトル(書名)に使用する場合についてです。
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