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第94回 浅薄な人権意識で語るジャーナリストたち―『創』7月号
■『週刊朝日』差別記事事件は「連載中止事件」ではない
 月刊誌『創』7月号が、昨年の『週刊朝日』差別記事事件の余波的な「佐野眞一さん盗用問題をめぐる背景」などの小特集を組んでいる。
 前記のタイトルで特集のトップを編集長の篠田氏が書いているのだが、副題に「『週刊朝日』連載中止から盗用問題へ」とあるように、『週刊朝日』差別記事事件を「連載中止」事件としかとらえられない、浅薄な人権意識と、狭量なジャーナリストとしての限界が露呈されている。
『創』にすでに掲載されている『週刊朝日』関連の記事には、問題点も多いし、なかには差別を助長しかねない表現まで含まれている。「ハシシタ―奴の本性」連載で売上増を企図した朝日新聞出版と同じよこしまな意図の下、この問題で単行本を出したいという、商売根性が透けて見える。
編集長の篠田氏が司会する「佐野眞一『盗用』問題とノンフィクションの現状」(座談会・元木昌彦、森功、今西憲之)で話されている中に、次のような発言がある。
(篠田) 〈橋下氏の出自問題のなかでは今の話(橋下徹氏の出生地)は重要なポイントですよね。『週刊朝日』は、その部分は調べたのですか?〉
(今西)〈それは調べて、データを書いています〉
今西氏との会話はそれで終わり、森氏の興味深い部落問題をめぐる記事についての話に移るのだが、なぜ、篠田氏は〈それは調べて、データを書いています。〉との今西の応答に対して突っ込んだ質問をしないのだろうか。
被差別部落出身者にとって、「出生地」を調べられるということが、どれほど脅威的なことか、まったくわかっていない。

■部落出身者の「出生地」を調べることの犯罪性をわかっていない
部落解放同盟が一貫して、身元調査に関係する、過去帳や「壬申戸籍」の閲覧禁止(1968年)を求め、興信所・探偵社の差別的身辺調査を問題にしてきたかが理解できていない。1985年には、「大阪府部落差別事案に関わる調査等の規制等に関する条例」が施行されている。
その意味では、今西はどうやって、〈調べて、データを書いた〉のか、説明する必要がある。なぜなら、仮に大阪の八尾安中の戸籍を調べたのなら、それは違法であり、犯罪だからだ。
2011年に摘発され事件化した、「プライム事件(プライム総合法務事務所による戸籍不正取得事件)」は、現在も真相追求が続いている悪質な人権侵害事犯である。
身元調査禁止は戦前の水平社の時代から要求していることなのだ。
1939(昭和14)年、第74回帝国議会建議委員会で「興信所法制定に関する建議案」を松本治一郎と田原春次の連盟で提出している。その理由として「大手興信所のなかには重大な身分差別(封建的蔑視観念)にもとづく調査事項を掲げているものもあり、その調査対象となった者は「極刑と等しい」致命的痛撃を受け、その者の一生は償うことができないような蹂躙を受けるのだ」と主張している。また、全国水平社も大会でたびたび身元調査反対の決議を行っている。
 取材目的の差別性は、取材過程の違法性によって、より一層鮮明になっているといわねばならない。
このことに無関心な者に、『週刊朝日』問題を語る資格はない。

■「ハシシタ―奴の本性」はプライバシーの問題ではない
さらに3人の座談会のP.57では、元木昌彦氏が一知半解な見解を語っている。
元木 (一昨年の)『週刊新潮』と『週刊文春』の場合はプライバシーの問題ですよね。つまりこういう出身なんだというプライバシーを暴くというね。ただ、佐野さんは、そこで止めずに、出自とリンクして考えないと、今の橋下氏は分からないんだよ、というふうに繋(ルビ つな)いでしまった。
 この元木氏の問題発言に対して、今回の『週刊朝日』の“ハシシタ 奴の本性”が、一昨年の『新潮45』、『週刊新潮』、『週刊文春』の二番煎じであることを見抜いている森功氏は、
森 繋ぎ方が乱暴なんですよね。出自が橋下氏の傲慢(ルビ ごうまん)さにつながるという、そういう展開なんです。
と述べている。
 しかし、元木が言っている〈『週刊新潮』と『週刊文春』の場合はプライバシーの問題ですよね。〉は、認識違いもはなはだしい。橋下徹のコスプレ記事とか、東国原英夫の下半身スキャンダルこそプライバシーの問題であり、社会的差別を媒介に他者を批判することは、プライバシーの問題ではなく、個人と集団に対する人権侵害であり、社会的犯罪なのだということが、まったく元木はわかっていない。そして、元木は
〈気になったのは、部落問題はへたに扱うと大変なことになるんだ、社長、編集長まで更迭されるんだ、みたいな受け止められ方をしてしまったことですね。
あのことをきっかけにしてオープンな場でもっと議論すべきことだと思うのに、昔の差別事件と同じパターンに戻って蓋(ルビ ふた)をしてしまった。その上、社長や編集長の更迭処分があったものだから、これってやはり触れちゃいけないんだということになってしまったのは残念です。〉
 部落問題を「へたにあつかう」と大変なことになるのではなく、部落問題を差別的にあつかうと抗議・糾弾されるのであって、それ以上でもそれ以下でもない。このことは、元木が『フライデー』や『週刊現代』の編集長をしていた時代から一貫している解放同盟の思想と行動である。元木が編集長のときに『週刊ポスト』のように部落問題をあつかったことがあるのか? 福島第一原発事故が起きたさなかに東電の“接待旅行”で中国に行っていたことを暴露されている彼だが、「(ジャーナリストの仕事を)本来は自分たちだけでチェックすべき」などとたいそうに御託をのたまう前に、自身の胸に手を当てて考えろと言いたい。
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