最新連載記事
カテゴリー
月別

記事検索
<< 第106回 在特会の街宣は「人種差別」――京都朝鮮学校ヘイト街宣への画期的判決 | 最新 | 第108回 民族呼称にあらわれる先住民族への偏見 >>
第107回 犯罪報道に見る精神障害者への偏見
■「通院歴あり」とあえて書く朝日新聞
 10月4日朝日新聞朝刊の社会面に次のような記事が掲載されていた。

   【2歳、河原で暴行死 容疑の父逮捕 京都・綾部】
  …(前略)…府警によると、男は京都府城陽市に住む職業不詳の34歳で、妻と長男(2)の3人家族。死亡した男児は長男だった。逮捕直後は興奮状態で、意味不明の言葉を発しつつも、容疑については「否認します」と答えた。しばらくして落ち着くと、「たたきつけていたのは自分の子どもです」と容疑を認めたという。
   男は病院の精神科に通院していたという。府警は刑事責任能力の有無を調べる。
(2013年10月4日『朝日新聞』)

  無残な幼児虐待事件をめぐる報道だが、精神科への通院歴をなぜ記述する必要があるのか。
 事件との因果関係がわかっていない段階でのこのような記述は、精神障害者一般に対する、現にある予断と偏見、社会的差別意識を助長する記事と言わねばならない。
 一般に、このような精神疾患という病気に悩んでいる人は大勢いる。日本の人口の0.3%、約382万人近くの人が統合失調症などの精神病に罹患していると言われている。

 病気の症状のつらさに加え、社会的な差別と偏見がより一層患者を苦しめている現実がある。しかも日本では、いまなお世界でも類を見ない、30万人以上が入院させられており、鉄格子病棟に閉じ込められている患者も多い。さらに30年を超えて入院している患者も1万5000人と推定されている。
 極めて重大な人権侵害の実態が放置されている現状のなかで、上記のような記事が、社会にある精神病患者への予断と偏見を強め、保安処分的な、社会防衛としての隔離政策を推し進める動因となるのである。
 

■刷り込まれた差別意識
 朝日新聞のような記事は、テレビ、新聞などの事件報道の際に、過去も現在も多く見られる。
 たとえば、これは実際の報道だが、「金属バットを振りまわし、人に危害を加え、訳のわからない言葉を放っている」という事件報道のとき、往々にして「容疑者には精神科への通院歴があった」とつけくわえられるのが常である。
 なぜ内科・歯科・耳鼻咽喉科の通院歴ではなく、精神科の通院歴のみを、ことさら報道するのか。そこにこそ、報道する側の記者自身の内にある精神障害者への予断と偏見が現われているのだ。
 いつも言っているように、差別意識を持っていない人などいない。それが悪いと言っているのではないのだ。問題は、差別意識を持っている(持たされている)ことを自覚しないことにある。つねに人は社会的な差別意識を知らず、知らずの内に刷り込まれているということを、自覚し、意識することが大切なのだ。
 
同じようなことは、次の事例にも言える。

 

1)
  「ローマの繁華街を歩いていたら我々二人の回りを数人の少年たちが取り囲んだ。一人が新聞を大きく広げ何か話しかけてくる。ジプシーのスリ少年団だった。悪名高いやり口なので直ちに『この野郎!』と日本語で一喝した。」(『週刊新潮』2012 年3 月29 日号 「藤原正彦の菅見妄語」)
 
(2)
  ルーマニアのブカレストで起こった日本の女子大生殺害事件の「(犯人の)ブラドは、『ロマ』と呼ばれる民族です。空港周辺では旅行者をカモに、詐欺まがいのことをする輩も多い。」(『週刊文春』2012年8月30日号 グラビア記事)
 

 (1)のような例は、いまでもヨーロッパ旅行の折などに、旅行会社から渡される注意書きに「ジプシーのスリ集団に気をつけましょう」などと平気で書かれている。
 (2)は、「ジプシー」という言葉が、ロマ民族に対する蔑称であり、差別語であることを知っているので、彼らの自称である「ロマ」という民族名で記したのであろうが、表現の差別性には何の違いもない。
 
第二次世界大戦中、アウシュビッツ・ビルケナウなどの強制収容所で、ナチスが行なったホロコースト(大量虐殺)によって殺されたのは、ユダヤ人600万人、ロマ(ジプシー)50万人、精神障害者・知的障害者30万人、同性愛者20万人である。
 
 われわれは、片時もこの歴史的事実を忘れてはならない。
 

| 連載差別表現 |