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第108回 民族呼称にあらわれる先住民族への偏見
先週は、何かと忙しく、連載を書く余裕がなく、休裁したことをまずおわびします。
 今回は、この連載で3度目になるロマ(日本では、蔑称の「ジプシー」と呼ばれる少数民族)について。
 

■「●●族」という表現の意味するもの
10月20日、CNNが、<ロマ族の集落で白人の少女を保護、誘拐の可能性も(ギリシャ)>という記事を配信した。
 記事全文を下記に載せるが、その前にこの見出しに含まれた問題点を指摘しておきたい。
 まず、一つめは「ロマ族」という表記について。何故“族”を付けて呼ぶ必要があるのか。CNNの原文は<Roma Community>であり、「Tribe(族・部族)」とは言っていない。ちなみに、BBCは<Roma Groups>と表現している。
 同じ少数民族でも、スペインとフランスの国境地帯に住むバスク人をバスク族とは呼ばないし、トルコ、イラク、イラン、シリアにまたがって住むクルド人を今は、クルド族とは呼ばない(かつては、クルド族と報道されていたが)。
 結論を先に言えば、“族”を付けるのは、訳者の意識の中にある、少数民族や先住民族に対する、見下した意識の反映といわねばならない。
 1994年のルワンダ内戦で、50万人から100万人近い、フツ人、ツチ人が虐殺されたのだが、日本のマスコミは、一貫して、「フツ族」「ツチ族」と報道していた。

 
■言葉にあらわれる先住民族への偏見
拙著、『差別語・不快語』の中で、「未開・野蛮・非文明という偏見」のコラムで次のように書いた。
 

   一般に、先住民族を、先入観(侵略した側の主観的プリズム)にもとづいてステレオタイプ化し、カテゴライズされたイメージで表現する場合に、問題が生じています。そこには、往々にして先住民族に対する「未開人」「野蛮人」「非文明人」などの固定化した偏見がともなっています。これは、黒人差別をふくめ、人種・民族差別一般に共通する偏見ですが、その根底には、自民族の優越性(単一民族国家幻想はその最たるもの)とともに、人種・民族についての主観的で、非科学的な考えが横たわっています。その典型である、「文明化の使命」という考え方は、高い文化や知識をもった民族は、これを「劣等」な民族に与える使命があるとしています。
   つまり、「文明化の使命」にもとづく行為は善であり、これに抵抗する行動は悪とみなして侵略行為を正当化しました。この考え方にもとづく征服や侵略行為は、主観的には善をおこなっているという思考のため、反省の契機をつかむのが遅れがちになっています。

(『差別語・不快語』、171頁)
 
 “族”という言葉で呼ぶ意識の背後には、先住民族や、少数民族、そして、発展途上諸国の人々に対して、「未開人」、「野蛮人」、「非文明人」という固定した偏見が存在している。そして、その裏には、民族的優越意識が隠れているのである。
 
■記事タイトルの問題点
 二つめは、<白人の少女>という表記である。もしこれが「黒人の少女」だったら、記事になったかどうかである。ことさら<白人の少女>と強調することによって、ロマ民族を、人さらいさえする「野蛮な、非文明人」として描き、現にある差別と偏見を、助長する表現を言わざるを得ない。
 三つめは、記事を読めば明らかだが予断と偏見を持って、誘拐事件や人身売買といった犯罪をロマと意図的に結びつけている点である。

 
■記事内容の問題点
 以下記事全文を読んでいただきたい。
 

   (CNN)ギリシャ警察は20日までに、中部ラリッサ近郊にある少数民族ロマ族の集落で身元の分からない白人の少女(4)を保護したと明らかにした。誘拐事件や人身売買に巻き込まれた可能性もあるとして情報提供を呼び掛けている。
   地元メディアによると、少女の両親を名乗ったロマ族の男(39)と女(40)は、未成年者拉致や文書偽造の疑いで逮捕された。
   警察はロマ族住民による不法行為の捜査でこの集落を訪れた際、捜索先の民家で金髪に白い肌、青い目の少女を発見。両親を名乗る男女と外見がまったく違うことから、この2人に事情を聴いた。
   男女の供述が二転三転したためDNA検査を実施したところ、血のつながりはないことが判明したという。警察が発見した文書の中には、アテネ当局が2009年に発行した出生証明書が含まれていた。
   少女はただちに保護され、児童支援の慈善団体に預けられた。ギリシャ政府は少女への支援を表明した。
   国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると、欧州には約600万人のロマ族が住んでいる。同団体はロマ族が不当な差別を受けているとして、ギリシャ政府などに是正を求めている。

(CNN、2013.10.20 Sun posted at 13:14 JST)
 
 しかし、事実はどうだったのか、5日後の10月25日に、時事通信が次のような記事を配信した。
 

  「金髪の少女」両親判明=DNA鑑定で確認―ブルガリア
   【ベルリン時事】ギリシャで少数民族ロマの男女が金髪の少女を育てていた問題で、ブルガリア内務省は25日、DNA鑑定の結果、同国中部ニコラエボに住むロマの男女が実の両親と確認されたことを明らかにした。
   同省によると、実母はサシャ・ルセバさんで実父はアタナス・ルセフさん。サシャさんは24日、数年前にギリシャで産んだ女児を生後7カ月ごろ、別の女性に預けたと明かしていた。生活が苦しかったためで、金は受け取っていないと強調している。
   色白で金髪の少女は10月中旬、ギリシャ中部のロマのキャンプで見つかった。育てていた男女の肌や髪の色が少女と異なるため、DNA鑑定を実施したところ、実子ではないと判明。2人はブルガリアのロマ女性から預かったと説明していた。

(時事通信 10月25日(金)23時59分配信)
 
 <金髪の少女>は、ブルガリアに住む貧しいロマの同胞から託された子供であることが、判明した。
 時事通信は、さすがに、「少数民族ロマ」と呼び、差別的な「族」をつけていない。それに対して、ロマに対する差別意識を全世界にまきちらし、強めたCNNの責任は大きい。
 ここまで書いていて、28日に中国、天安門前で、起こった、自動車突入(自爆か)事件について、新聞は大方、「漢族」、「ウイグル族」と表現しているが、テレビは、NHKが「漢民族」、「ウイグル族」と呼称、民放各社は概ね、“族”だけをつけて報道している。つまり、バラバラであり、種族、民族、部族、族、人の違いについて、判断基準を持っておらず、まったく理解していないことが明らかになっている。
 この点については、次回に取り上げたい。

 
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