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第110回 広告と差別表現
 
■中吊広告「部落差別許すまじ!」を拒否
 先日、大阪で、広告関連会社協会主催の人権セミナーに呼ばれて、講演を行ってきた。
 いつもの講演とは少し違い、広告と差別表現+橋下徹大阪市長と『週刊朝日』差別記事事件を中心にしたレジュメを事前に送っていた。しかし、やはり冒頭の20分間は、「ヘイトスピーチ」(差別・憎悪煽動、宣伝)について訴えた。
 本題の広告と差別表現について話していて、『週刊ポスト』中吊広告拒否事件(1989922日号)と、一昨年、昨年の『週刊新潮』、『週刊文春』、『週刊朝日』を比べ、隔絶の感を憶えた。
 『週刊ポスト』の事件は、部落差別に反対する解放同盟の取り組みを紹介している広告であって、なぜ拒否するのかが、問われた事件。拙著『差別語・不快語』では、次のように書いた。
 

  1989年、小学館の『週刊ポスト』の特集記事「部落差別許すまじ!」の<中吊り広告>(車内ポスター)を、JR東日本と営団地下鉄が掲示を拒否。理由は「部落差別」の文字が入っていたからと、後に解放同盟が抗議するなかで判明。マニュアル的対応による思考停止の最悪のケース。なぜ、部落差別に抗議している記事広告に反対するのかと、厳しく批判される。(『差別語・不快語』132頁) 





■「書かれなかった『血脈』」を掲載した新聞各紙と鉄道会社

『週刊文春』

 一方で、2011年からの『週刊新潮』、『週刊文春』、『週刊朝日』などの広告記事は、それ自身が、差別広告とハッキリ解るものだが、それを、新聞社はおろか、JRを含め各鉄道会社から、何の批判も起きなかったのである。(知り得るところでは中国新聞が、『新潮』リードにあった、“同和”という言葉を白地にしたことくらい。


『週刊新潮』 

橋下徹大阪市長と『週刊朝日』差別事件については、レジュメを転載しておきたい。

 

  橋下徹大阪市長に対する近年、まれに見る悪質な週刊誌の差別的広告と記事
 
  (内容)
  2011年11月大阪府・市ダブル選挙をめぐり、『新潮45』や『週刊新潮』『週刊文春』が、大阪市長選に立候補した橋下徹氏の出自や家族・親戚に関する極めて悪質な差別記事を掲載。また、新聞広告・電車の中吊り広告にも<血の雨が降る「大阪決戦」!「同和」「暴力団」の渦に呑まれた独裁者「橋下知事」出生の秘密「オヤジはヤクザで同和に誇り」>(週刊新潮)、<橋下徹42歳 書かれなかった「血脈」>(週刊文春)――というセンセーショナルな見出し。
  橋下氏の政策や政治手法、そして彼の人格を、被差別部落出身という社会的属性と結び付けて報道することの差別性について、社会的批判が起こったにもかかわらず、1年後の20121016日発売の『週刊朝日』でも爛魯轡轡薪曚遼楡爐搬蠅靴親瑛佑虜絞姪記事が掲載され、大きな社会問題となった。

 
『週刊朝日』

■何が問われたのか――『週刊朝日』差別記事事件の特徴
 
(1)取材方法の問題点
  取材目的の差別性が、取材方法の違法性によって、一層明らかになっている。
つまり、興信所・探偵社が行なう身元調査と同じ手法で、「出自」を暴いているという点。
 
(2)身元調査の違法性
・なぜ部落解放運動が、全国水平社結成以来、身元調査の禁止を要求してきたのか、なぜ部落解放同盟が、過去帳や戸籍の閲覧禁止を求め、現在も「登録型本人通知制度」の導入を主張しているのかを、マスコミはまったくわかっていない。
 

*「壬申戸籍」閲覧禁止(1968年) 大阪府部落差別事案に関わる調査等の規制等に関する条例(1985年) プライム事件(2011年)

 
 

  1939(昭和14)年、第74回帝国議会建議委員会で「興信所法制定に関する建議案」を松本治一郎と田原春次の連名で提出している。その理由として「大手興信所のなかには重大な身分差別(封建的賤視観念)にもとづく調査事項を掲げているものもあり、その調査対象となった者は「極刑と等しい」致命的痛撃を受け、その者の一生は償うことができないようなを受けるのだ」と主張している。また、全国水平社も大会でたびたび身元調査反対の決議を行なっている。

 
(3)結論
・一連の問題を、言論・出版、表現の自由やプライバシーの問題と捉える誤り。
・橋下徹氏は、『週刊朝日』の部落差別的行為に対し、自力救済処置として、被差別マイノリティが獲得した“糾弾”という社会的権利を行使したのだということ。
・事実か否かが問題ではなく、表現の差別性が問われている。
・なぜ被差別部落出身という“出自”にマイナスイメージを結びつけるのか、そこに差別意識が潜在している。(社会的に刷り込まれた無意識の差別意識を自覚すべき)
 
今回の事件の本質は、人をおとしめる意図を持って、特定人物を含む被差別部落出身者を、その抗うことのできない“出自”を根拠に侮辱した部落差別表現。
 
 この後、差別事件の具体例を掲げていくなかで、精神障害者差別、ロマ(「ジプシー」)差別事件にも触れながら、「書かれ表現されている内容の事実性について問うているのではなく、表現の差別性について抗議しているのだ」という核心の話をしたとき、参加者からの熱い視線を感じた。
 以下次号にくわしく書きたい。
 
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