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第112回 裁かれたボブ・ディランの差別発言
■ボブ・ディランの差別発言
 今年11月にフランスで、レジオン・ドヌール勲章を授与されたアメリカの反戦フォーク歌手・ボブ・ディランが、フランスのクロアチア人団体から刑事告訴され、パリの裁判所で審理されるという記事が、12月4日の各紙に載っている。
 事件の概要は、朝日・東京新聞など各紙の記事を総合すると、2013年10月に発行された、『ローリングストーン誌』フランス版のインタビュー内での発言が、フランスの<人種差別禁止法>に違反したとして憎悪煽動容疑で訴追されたということだ。

 

  <フランスの報道法は、特定の人物や集団の人種や民族に対し、差別や憎悪、暴力を扇動することを禁じており、違反した場合は最高で禁錮1年、罰金4万5千ユーロ(約620万円)が科せられる。ディランさんの発言を問題視したフランスのクロアチア人団体が刑事告訴しており、今後、パリの裁判所で審理される。>(『朝日新聞』2013年12月3日)

 
 この訴追はフランス国内のクロアチア人協議会の訴えにもとづくもので、インタビュー記事の内容はクロアチア人に対する侮辱であり、人種的、民族的憎悪への挑発にあたるとしている。クロアチア人が多く住んでいた米ミネソタ州北部で子ども時代を送ったディランはインタビューで、米国の人種問題について詳細に語り、「狂気の極みだ」と述べた。
 その上で「黒人は一部の白人が奴隷制度を放棄したくなかったことを知っており、もしその主張が通っていたら、彼らは依然として奴隷のままだったことを知っている。彼らはそれを知らないかのように装うことはできない」とし、「奴隷主あるいはKKK(*)の血が流れている人を黒人は嗅ぎわけられる。それは今日でもそうだ。ユダヤ人がナチの血を嗅ぎわけ、セルビア人がクロアチア人を嗅ぎわけられるように」と述べている。
 (*クー・クラックス・クラン アメリカの人種差別主義団体)
 
 クロアチア世界会議フランス支部のブラトコ・マリク総書記は「ボブ・ディラン氏のような人物がこのようなことを言ったことに驚いている」、とともに「ボブ・ディラン氏の発言は憎悪を誘因する。クロアチア人の犯罪者とすべてのクロアチア人を比べることはできない」とし、「しかし、われわれはローリング・ストーン誌やシンガーとしてのボブ・ディランに何の反感も持っていない」と述べている。
 クロアチア人は、第二次世界大戦中にナチスと同盟を結んでいたクロアチア独立国によるセルビア人、ユダヤ人、その他の大量虐殺を理由にナチスと同一視されることに敏感だと言う。一方で多くのクロアチア人もセルビア人の手で殺されている。クロアチアとセルビアは1990年代の旧ユーゴスラビア戦争でも激しく敵対した。
 

■麻生発言に抗議運動が起きない日本
 思い出すのは、この連載でも何度か取り上げた、著名なデザイナー、ジョン・ガリアーノ氏の事件だ。
 2011年、フランスの高級服飾ブランド、クリスチャン・ディオールの英国人デザイナー、ジョン・ガリアーノ氏が、パリのユダヤ系移民が多い地区のカフェで酒に酔い、「ヒトラーが大好きだ。お前たちのような奴らは死んでいたかもしれない」と暴言を吐き、刑事告訴された。この差別発言によって、ジョン・ガリアーノ氏はクリスチャン・ディオールを解雇される。
 この事件は、2011年9月8日、フランスの人種差別禁止法によって逮捕起訴され罰金65万円、6カ月の執行猶予付有罪判決が、パリ裁判所で下されている。
 ボブ・ディランの発言に戻ると、クロアチア人協議会が第二次世界大戦中の、ナチス同盟国として行なった虐殺を、白人の人種差別者やドイツのナチスと同列にあつかう発言にクロアチア人が怒るのは、ナチス占領下、ナチスに協力したフランスのヴィシー政権を、フランス人一般と同列視することに対するフランス人の怒りと同じ意味だろう。
 翻って、日本では、「ナチスの手法に学ぶ必要がある」と今年8月末に発言した麻生太郎副総理兼財務大臣に対しては、結局、何の具体的な抗議行動も起きていない。これは別に、日本に、差別禁止法がある、なしの問題ではない。与野党および、日本人そのものの差別問題、人権問題に対する意識の低さの現われと見るべきだろう。

 
■ふつうの日本人が持つ潜在的差別意識
 この点を鋭く衝いているのが、水鳥真美氏(セインズベリー日本藝術研究所総括役所長)の「日本こそ『外国人差別大国』」(『選択』12月号)と題された巻頭インタビュー記事だ。
 

  ―――日本人の外国人差別への取り組みは遅れていますか。
  水鳥 在日韓国・朝鮮人への口汚いヘイトスピーチが一部で深刻化しているが、実は問題の根はそこではない。自らを善良な市民だと考え、そうした差別主義者に対して眉をひそめる多くの日本人が潜在的に差別意識を持っていること。さらにいえば、そうした差別の存在に気付かず、対策を講じていないことが最大の問題だ。日本人は、人種、性別、セクシャリティなどあらゆる差別を放置し続けている。欧州や米国では、差別の存在を認め、その対処に社会全体で取り組んできた。
 
  ―――なぜ日本には差別主義がはびこっているのですか。
  水鳥 いまだに「単一民族国家」という幻想があることは一因だろう。そうした言動をする政治家、有識者があとを絶たないのはその方が国民の受けがいいと考え、また、それを隠然と支持する日本人の意識があるからだ。結果として人種差別が存在するという事実からも目をそらしてきた。問題意識を持ち、日本人自らが取り組まねば前進はない。わかりやすいのは、日本社会の女性差別だろう。男女同権は制度化されて久しいが、世界経済フォーラムの女性の地位に関する調査で、日本は136カ国中105位。宗教的理由から女性の権利が制限されているアラブ諸国と同レベルに低迷している。この原因は男女同権が、戦後主に米国によって与えられた概念であり、日本人が選びとってきたものではないためだ。

 

 水島氏の鋭い指摘につけ加える言葉はない。
 『選択』12月号巻頭インタビュー全文を、ぜひ読んでいただきたい。
 

 

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