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第93回 橋下「慰安婦」発言の問題点(3)
■米国から大きな批判を浴びた橋下徹氏の「慰安婦」発言
 『朝日新聞』(6月11日朝刊)「記者有論」に、真鍋弘樹ニューヨーク支局長が、「慰安婦発言・米社会が理念を譲らぬ理由」と題した一文を書いている。
 大阪市長で全国政党「日本維新の会」共同代表の、橋下徹氏の一連の「従軍慰安婦」と在日米軍に関する発言に、米国が鋭く反応し、批判したことの背景を分析し、橋下氏の舌禍をいましめている。
多民族国家、米国には、奴隷制や日系人強制収容所などの暗黒の歴史が刻まれている。もし現在、「当時は黒人奴隷や日系人差別は必要だった」と口にする公人がいたら間違いなく失脚するだろう。
(『朝日新聞』6月11日)
 そして、「理念を取り下げると崩壊するのが、米国という国なのだ」と続けている。米国の国家理念を良く理解した上での正論だろう。
 ところが、この一文に、早速橋下徹氏がツイッターでかみついてきた。
 橋下氏は、同様の意見を述べている佐藤優氏の名前もあげ、「慰安婦問題と、『アメリカにおける奴隷制度、日系人強制収容所』を同列に扱うべきでない」とし、「まさにこの点について問題提起」したのだと主張する。
 橋下氏によれば、従軍慰安婦施設で強制があったり、暴力があったことは事実で、反省すべきことだが、各国も同様のことを行っていたこともまた、歴史的事実だとし、問題は、「国家の意思として拉致・人身売買があったのか」であり、なぜ「日本軍が利用していた施設だけが、国家の意思として女性を拉致し、人身売買していた施設だと世界に認識されているのか」と、疑義をただす。基本的に日本外国特派員協会で配られた「私の認識と見解」の内容に沿ったものだが、要は、従軍慰安婦制度は良くないが、国家の政策として行われたか否かが重要だといいたいのだろう。

■国家の戦争犯罪になぜ向き合えないのか
 敗戦間近、日本軍が重要な機密資料を燃やしたことは良く知られている。その中に、いわゆる「従軍慰安婦」関係の資料もあったことは疑いない。
 医師でもある作家・帚木蓬生氏の著作に、『蛍の航跡』がある。副題は、「軍医たちの黙示録」で、南方戦線での悲惨な状況が史実に基づいて描かれている。そこにも慰安所についての描写がある。性病検査などは士官である軍医の仕事なのだ。「従軍慰安婦」問題を含め、国家の戦争犯罪が問われているのであって、直接関与したかどうかの瑣末な問題ではない。
 橋下氏は、国家の関与を否定して何を訴えたいのか。それで、元「従軍慰安婦」の方々の気が静まり、心がやすらぐのか。
 ホロコーストを行ったドイツは、敗戦後新生ドイツ国家再建にあたり、ナチズムと反ユダヤ主義を徹底的に否定し、反省し、戦後補償も行っている。ナチズム礼賛と反ユダヤ主義は、今でも法によって重大な犯罪と見なされる。
 ひるがえって日本はどうか。侵略し、植民地化した中国、韓国・朝鮮をはじめ、東南アジア諸国に対し、心からの反省と謝罪を行ってきたのか。戦後半世紀たってやっと国家の公式見解(反省と謝罪)としていわゆる「従軍慰安婦」については、河野談話(93年)が、過去の侵略に対する謝罪と反省として村山談話(95年)が出されたのである。それでも、在日中国人、在日韓国・朝鮮人に対する排外主義的な民族差別は、同じ敗戦国ドイツとは大きく違い、いまも野放し状態だ。「在特会」による韓国・朝鮮人に対するヘイトスピーチは、いまだに週末ごと、過激で醜悪な言葉が路上で叫ばれている。
 その彼らが支持している政治家が、そろいもそろって、「従軍慰安婦」問題で、国家の関与を否定している連中であるのは、決して偶然ではない。
 歴史に真摯に向き合わず、小手先の話術でごまかしても、現実は変えられない。

■橋下氏の発言の余波は……
 話は飛ぶが、民族派「一水会」の機関紙『レコンキスタ』6月号に、「慰安婦問題の根本を考える」と題して、板城匠なる人物が、「〜橋下大阪市長の『何故日本だけが…』には全く同感である〜」とした一文を、一面に載せている。
 「従軍慰安婦」を、命懸けで兵隊の体をいやしてくれた“真の烈婦”とし、兵士との睦びの関係などのエピソードをもとに、「仙女的で、自己犠牲をもって国を守るという強い意志をもった女性たちの集まり」と礼賛している。
 作為的で情緒的なエピソードと、歴史事実を混同させ、「慰安婦」制度そのものの犯罪性を覆い隠す暴論であり、批判するに値しない愚論であるが、一水会機関紙の紙価を貶めているとだけは言っておきたい。
 橋下氏の論は、結局行き着くところ、このような俗論を鼓舞するだけなのである。
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