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第91回 橋下「慰安婦」発言の問題点(1)
■混迷を深める橋下徹氏「慰安婦」発言
 2013年5月27日、日本外国特派員協会で、橋下徹大阪市長兼日本維新の会共同代表が、国際問題にまでなっている「従軍慰安婦」問題などの発言について、記者会見を行った。
 会見は、一連のマスコミをにぎわした「従軍慰安婦」問題、沖縄駐留米軍への風俗業“活用”発言問題などに、事前に配布された「私の認識と見解」をもとに質問に答えるという内容だった。しかし、失地回復につながったかどうかは、疑問である。最新のマスコミ各社の政党支持率世論調査でも、日本維新の会への支持は、軒並み下落しており、昨年の衆議院選前と比較すると五割から七割の支持率低下という、激しい状況にある。
 そうした現状を踏まえ、7月21日に予定されている参議院選挙で、日本維新の会の得票が伸びなければ、責任を取って代表辞任もありうることを、橋下氏は示唆している。
 よほどの覚悟で記者会見にのぞんだことがうかがえるが、もう一度、橋下氏の主張を「私の認識と見解」をもとにふり返って見たい。この二週間、いろいろと橋下氏の発言が報道されているが、「それは意図的に切り取られたりして誤解を与えるものになっており、この『私の認識と見解』が正確で正式なもの」と当人は言っているからである。

■橋下徹「私の認識と見解」(2013年5月27日付)
 ①「私の拠(よ)って立つ理念と価値観について」
 ここで橋下氏は、「発言の一部が文脈から切り離され、断片のみが伝えられることによって、本来の私の理念や価値観とは正反対の人物像・政治家像が流布し」たとし、改めて自らの政治的価値観を開陳する。
私は、21世紀の人類が到達した普遍的価値、すなわち、基本的人権、自由と平等、民主主義の理念を最も重視しています。また、憲法の本質は、恣意(しい)に流れがちな国家権力を拘束する法の支配によって、国民の自由と権利を保障することに眼目があると考えており、極めてオーソドックスな立憲主義の立場を採る者です。
 これだけ読めば、おおむね首肯できる内容だが、この間の一連の発言と微妙に違う。
 橋下氏の発言は、常に言葉足らずであり、発言の要点を伝える以前に、伝え方のつたなさがある。その点の反省がまずはなされるべきだろう。

②「いわゆる『慰安婦』問題に関する発言について」
 橋下氏は、「日本兵が『慰安婦』を利用したことは、女性の尊厳と人権を蹂躙(ルビ じゅうりん)する、決して許されないもの」であるとし、韓国・朝鮮、そして日本人慰安婦に対し、「被った苦痛、そして深く傷つけられた慰安婦の方々のお気持ちは、筆舌につくしがたいものである」との認識を示し、次のように述べている。
日本は過去の過ちを真摯(しんし)に反省し、慰安婦の方々には誠実な謝罪とおわびを行うとともに、未来においてこのような悲劇を二度と繰り返さない決意をしなければなりません。
 そして、橋下氏は、「女性の尊厳と人権を今日の世界の普遍的価値の一つとして重視しており、慰安婦の利用を容認したことはこれまで一度」もないと断言する。
 しかし、引き続く文の中で、日本がこの問題で反省し謝罪しなければならないのは当然だが、日本以外の国、具体的には、「第二次世界大戦中のアメリカ軍、イギリス軍、フランス軍、ドイツ軍、旧ソ連軍その他の軍においても、そして朝鮮戦争やベトナム戦争における韓国軍においても、この問題は」存在したとし、同様に反省し謝罪すべきであり、日本だけを批難するのはフェアな態度ではないと、主張する。
戦場において、世界各国の兵士が女性を性の対象として利用してきたことは厳然たる歴史的事実です。女性の人権を尊重する視点では公娼、私娼、軍の関与の有無は関係ありません。性の対象として女性を利用する行為そのものが女性の尊厳を蹂躙する行為です。また、占領地や紛争地域における兵士による市民に対する強姦が許されざる蛮行であることは言うまでもありません。
 誤解しないで頂きたいのは、旧日本兵の慰安婦問題を相対化しようとか、ましてや正当化しようという意図は毛頭ありません。他国の兵士がどうであろうとも、旧日本兵による女性の尊厳の蹂躙が決して許されるものではないことに変わりありません。
 「旧日本兵の慰安婦問題を相対化しようとか、ましてや正当化しようという意図は毛頭ありません。」と、いくら主観的に述べようとも、単なる言い逃れととらえられても止むをえない。
 とくに政治家の言葉は、学者・文化人の発言と違って国家を背負う発言なのだから、言い訳がましい言葉は言えば言うほど、むなしく空疎なものになる。外国人記者クラブの会見を終えたあと、イタリア人記者にも「これは記者会見でも講演会でもない。ショーだよ。彼はメディアを利用することに長けている」と喝破されていた。
 重要なことは、他の国がどうあれ、日本及び日本軍が行った行為に対し、真摯に反省し、謝罪すること以外は口外すべきではないし、また絶対にしてはならない。他の国の行為を批判できるのは、それによって直接被害を被り、人間の尊厳を蹂躙された当事者性を持つ人々だ。それが、国際政治のルールである。子どものケンカではないのだということを自覚すべきだろう。

■なぜ問題は波及したのか
 「私の認識と見解」で、橋下氏は次のように述べる。
日本人は、旧日本兵が慰安婦を利用したことを直視し、真摯に反省、謝罪すべき立場にあるがゆえに、今日も根絶されていない兵士による女性の尊厳の蹂躙の問題に立ち向かう責務があり、同じ問題を抱える諸国民とともにより良い未来に向かわなければなりません。
 それはそのとおりだが、それを考え、呼び掛ける立場にあるのは、当事者性を持つ元「従軍慰安婦」の人達であって、橋下氏ではない。橋下氏の立場において要請されているのは、反省と謝罪であり、他者に働きかける主体(当事者)ではなく客体(応援団)にすぎないのである。
21世紀の今日、女性の尊厳と人権は、世界各国が共有する普遍的価値の一つとして、確固たる位置を得るに至っています。これは、人類が達成した大きな進歩であります。しかし、現実の世界において、兵士による女性の尊厳の蹂躙が根絶されたわけではありません。私は、未来に向けて、女性の人権を尊重する世界をめざしていきたい。しかし、未来を語るには、過去そして現在を直視しなければなりません。日本を含む世界各国は、過去の戦地において自国兵士が行った女性に対する人権蹂躙行為を直視し、世界の諸国と諸国民が共に手を携え、二度と同じ過ちを繰り返さぬよう決意するとともに、今日の世界各地の紛争地域において危機にひんする女性の尊厳を守るために取り組み、未来に向けて女性の人権が尊重される世界を作っていくべきだと考えます。
 言っていることは正しい、しかし、それを実現するためには、人権を踏みにじられ、蹂躙された女性たちの声に真摯に耳を傾け、それに従って行動する以外に道はない。
 橋下氏が主張すべきは、戦時におけるあらゆる人権侵害(当該国の内外を問わず)は、戦争に起因していること、それゆえ戦争こそが最大の人権侵害であり、平和な国際環境をつくりだすべく政治家として発信し、活動すべきであるという点にある。しかし、一連の橋下氏の発言は、近隣諸国との緊張関係を高め、対立を激化させている。それはなぜか、その理由を考えることこそが必要だ。怒る相手国が悪い、日本のマスコミに問題があるなどの責任回避・転嫁発言は、政治家として、幼すぎると言わざるをえない。

(以下次号)
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