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第90回 橋下徹現象と日本社会
 先週は、6月末刊行予定の『橋下維新の挑戦とアンシャン・レジーム』(宮崎学著)の原稿読みや校正に追われて、休載したことをお詫びしたい。

 実は、今回の新刊は、昨年9月頃から企画され、著者である宮崎学さんとの打ち合せをこの間ずっと行っていた。まさに、その最中に『週刊朝日』(2012年10月16日発売)の差別記事が出たのである。そこで急遽『橋下維新の挑戦とアンシャン・レジーム』の章のひとつであった「橋下徹と部落差別」を、『橋下徹現象と部落差別』として単行本化し、緊急出版したのであった。

■橋下徹市長の「慰安婦」発言
 先週から、橋下徹大阪市長兼日本維新の会共同代表の、「従軍慰安婦」などについての暴言が、テレビ、新聞などのマスコミをにぎわせているが、これはすでに歴史的、学問的に決着ついている問題であり、発言自体は新味に欠ける。

 参議院選挙を前に、奇を衒(てら)う発言で耳目を集め、マスコミに露出し、下降著しい支持率の挽回を企図したのであろうが、安倍首相からも歴史認識の違いを指摘され、あげくは身内から、西村眞悟のような「従軍慰安婦」および在日韓国・朝鮮人女性に対する、論評にも値しない妄言が飛び出すに至っては、もはや、何をかいわんやである。

 朝日新聞や、NHKの世論調査を見るまでもなく、支持率は下落の一途をたどり、“墜落”とさえ表現されている。

 そうこうしている内に、維新の会結成の趣意であった“大阪都構想”そのものにも赤信号がともっている。合併対象である政令都市・堺市の竹山市長に反旗をひるがえされ、足下の大阪市議会でも、今月21日に、大阪府内42市町村でつくる大阪広域水道企業団と大阪市水道局の結合案が否決され、大阪府・市の二重行政・二元自治の解消も、遠のいている。

 もともと維新の会は、大阪のローカル政党として出発しており、その掲げる政策内容の、地方分権を押し進める地方自治の自律(本来は、住民自治決定権の拡大)が、支持されていたのである。

■ローカル政党として成功した「維新の会」
 今日は、少し宣伝になるが、近刊の『橋下維新の挑戦とアンシャン・レジーム』について記したい。

 日本の経済・社会・政治に大きな構造変化が起きている今、本当に必要な大都市制度改革とはなにか。市民の自由都市大阪を、「上」からでなく「下」から、市民みずからがつくりださねばならない、と宮崎さんは言う。

 そして、基本的立場は、橋下徹維新の政策について、批判はしているものの、大阪都構想のような基本的政策について、その発想自体は正しいという立場だ。

 つまり、
橋下の人気は、タレント政治家が大衆をだまして人気をさらって危険な方向に誘導している、という虚構のブームではない。それは、現在の日本社会の状況、直面している課題に根ざして提起されてきた打開の方策、行革の政策が、支持を得ているという現実的な問題として捉えるべきである。
(引用はすべて近刊『橋下維新の挑戦とアンシャン・レジーム』より)
 さらに、橋下支持層も、従来言われているような非正規、低収入で生活が不安定な若年層ではなく、年収1000万を越えるアッパー・ミドル以上の中高年層であるという。

 しかし、「国政を動かす」ということと、「全国政党になる」ということとはまったく別の問題である。この点、石原慎太郎の「太陽の党」との合併はまちがった選択であり、それゆえ「中央官僚システムを打破し、地方分権行革の波を大阪から全国へ、という初心を貫け」という主張になる。

■的を得ていない知識人のハシズム批判
 橋下政治=ポピュリズムという学者・文化人の批判に対しては、次のように分析する。
 実際、有権者の投票行動は、調査分析によれば、ポピュリズムに誘導された結果ではなく、市民の意識をそのまま反映した政策が支持された結果に過ぎないのだし、大阪都構想などの改革は新自由主義にもとづいたものである以前に、グローバリズムに対する現実的な対応から生み出されたものであり、だから支持されているのである。そこから出発して「橋下現象」を考えるべきだ。そして、そういう状況を批判するなら、なぜ市民はそのような政策や改革を支持するのかを明らかにし、それを求めている日本社会の批判的分析をおこなうことこそが必要なのではないのか。
 ところが、ハシズム批判者たちは、そちらに向かわず、「ポピュリストで新自由主義者で独裁者」である橋下徹に対する個人攻撃にますます向かい、それは、政策や政治行動を離れた人格攻撃になっていき、果ては佐野眞一の『週刊朝日』連載「ハシシタ 奴の本性」(初回で打ち切り、連載中止)にいたったのである。
 ここでは、「橋下徹のDNAをさかのぼり本性をあぶり出す」として、「敵対者を絶対に認めないこの男の非寛容な人格であり、その厄介な性格の根にある橋下の本性」を「橋下の両親や、橋下家のルーツ」すなわち被差別部落出身であることに求め、そこから橋下の人格を否定するという、まったくの差別攻撃が臆面もなくおこなわれたのである。
■橋下徹現象の社会的背景を押さえておかないと……
 そして、橋下維新現象には、メディアの変容が大きく作用しており、マスコミュニケーションから、インターネットへの変化の重要性を指摘する。

 つまり、「橋下徹はテレビがひねり出した汚物である」のではなく、「橋下徹ほど、巧みに徹底して電子メディアを使った政治家はいない。その意味で、彼は『テレビの汚物』ではなく『インターネットの申し子』なのである。」と締めくくっている。

 今回の失言、暴言で、橋下徹と日本維新の会の凋落が一時的に進むことは間違いないが、根本的なところでの橋下徹現象の内容と、それがよって立つ政治的、社会的背景をきちんと分析し、批判を加えておかないと、おなじような橋下徹現象もどきが起こることを防げないのである。
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