最新連載記事
カテゴリー
月別

記事検索
<< 第144回 差別表現とヘイトスピーチの違い | 最新 | 第146回 国連人種差別撤廃委員会の「最終見解」に対するマスコミの反応 >>
第145回 国連人種差別撤廃委員会の勧告

■アメリカもヘイトスピーチに懸念を表明
 8月20〜21日にジュネーブで、人種差別撤廃委員会の日本政府審査が行なわれ、その「最終見解」が29日に明らかになり、全国紙をはじめ各種メディアで大きく報道されている。
 ヘイトスピーチを中心議題に日本における人種差別的情況の悪化を厳しく批判し、「人種差別を煽る行為に関与した個人や団体を捜査し、必要なら起訴するよう求め」、また「これらの行為を煽る政治家らに対しても適切な制裁を下すよう求める」という画期的な勧告となっている。
 ヘイトスピーチなどについては、すでに7月に国連人権規約委員会が日本政府に禁止を勧告している。一方、日本政府が頼りにしているアメリカが今年2月末に発表した、「2013年国別人権報告書」の中でも、日本国内のヘイトスピーチの拡大に懸念を表明している。

  2013年、極右グループが、東京の在日韓国・朝鮮人が圧倒的に多く住む地域で一連のデモ行為を行った。このグループのメンバーが人種差別的な言葉を用いたことから、ヘイトスピーチ(憎悪発言)として報道機関や政治家から非難された。6月17日、東京で「在日特権を許さない市民の会」とこれに反対するグループが衝突し、同会の会長および3人の活動家が逮捕された。一部の政府高官は、民族グループへの嫌がらせが差別を助長するとして公に非難し、国内のあらゆる人の権利を保護することを再度確認した。(『2013年国別人権報告書』米国大使館訳)

 国連の「最終見解」で示された日本政府への勧告の最重要点はヘイトスピーチの法的規制を早急に実現することを求めている点にある。

■国連人種差別撤廃委員会の最終見解
 ここで、「最終見解」の中から、ヘイトスピーチに関係する条文を順に見ていきたい。
 
C)懸念点及び勧告

◎人種差別の定義
 ここでは、日本国憲法第14条「全ての国民は法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」の定義について言及されている。

  「人種差別の定義が、国籍や民族出身、肌の色、世系などの観念を含まず、よって、本条約(人種差別撤廃条約)第1条の要件を完全に満たしていないことを懸念している。同様に、国内法において、人種差別についての十分な定義が欠如している(第1条、第2条)。委員会は、締約国が、国籍や民族的出身、肌の色や世系なども包括的に考慮した本条約パラグラフ1第1条に完全に準拠する人種差別についての定義を国内法に導入することを勧告する。」

 そして、「人種差別を禁ずる特定的且つ包括的な法律(法的救済を含む)」の制定を求めている。

■ヘイトスピーチへ毅然たる対応を

◎国内人権機関
 ここでは、「パリ原則に完全に則った形で」国内人権機関の設置を強く求め、同時に、第4条の人種的優越主義にもとづく差別および煽動を禁止した(a)(b)項の留保撤回を求めている。そして、激化しているヘイトスピーチに大きな懸念を表明し、以下の勧告をおこなっている。

◎ヘイトスピーチ・憎悪犯罪

  (a) 集会の場における人種差別的暴力や憎悪の煽動、また憎悪や人種差別の表明について毅然とした対処を実施する
  (b) インターネットを含むメディアにおけるヘイトスピーチの根絶のため適切な対策を講じる
  (c) 調査を行い、適切な場合には、そのような言動の責任の所在する組織及び個人を起訴する
  (d) ヘイトスピーチの発信及び憎悪への煽動を行う公人及び政治家について、適切な制裁措置を実行する
  (e) 人種差別的ヘイトスピーチの根本的原因についての取り組みを行い、人種差別に繋がる偏見を根絶し、国家・人種・民族グループ間の相互理解や寛容、友愛の情を育むための指導・教育・文化・情報発信における方策の強化を行う。

■朝鮮学校に関する勧告

◎朝鮮学校
 ここでは、「韓国・朝鮮系の子どもたちの教育を受ける権利が不当に阻害されている」とし、「自治体による朝鮮学校への資金提供を再開させ、高等学校就学支援金から、補助金を提供すべし」と、「高校無償化」制度からの除外を不当としている。
 つまり、同じ外国人が学ぶ「中華学校」「アメリカンスクール」などと同様の対応をせよと勧告しているのであり、北朝鮮との関係など、政治的理由で就学支援金を支給しないのは差別だと明言している。

■先住民族に関する勧告――アイヌ民族、琉球・沖縄

◎アイヌ民族についての状況

 ここでは、先住民族の権利に関する国連宣言(2007年)を踏まえ、委員会は締約国に以下の事項を勧告している。

  (a)アイヌ政策推進会議及びその他諮問機関におけるアイヌ代表者の数の増加を検討する。
  (b)アイヌ民族とそれ以外の人々の間に存在する雇用・教育・生活水準関連の格差縮小のための施策推進を強化し、その実行を加速させる。
  (c)アイヌの人々の土地及び自然資源に関する権利保護について適切な策を講じ、アイヌの文化及び言語についての権利確立を目的とする措置の実施を強化する。
  (d)関連する計画及び政策の再調整を可能にするべく、アイヌの人々の状況についての包括的調査を定期的に実施する。
  (e)委員会からの前回最終見解のパラグラフ20でも勧告された通り、独立国における先住民及び種族民に関するILO169号条約(1989年*)の批准を検討する。

  *同化主義的な方向ではなく、先住民・種族民が独自の文化、伝統、経済を維持してゆくことを尊重するため批准国政府は努力しなければならないと定めた条約

◎琉球・沖縄問題について

 「ユネスコが沖縄の固有の民族性、歴史、文化、伝統を認めているにも関わらず、締約国が琉球・沖縄の人々を先住民と認識しない姿勢を遺憾に思う。」と述べ、「委員会は、締約国が立場を見直し、琉球(沖縄)の人々を先住民として認識することを検討すると共に、彼らの権利を守るための確固たる対策を講じること」を勧告する。
 委員会はまた、締約国が、琉球(沖縄)の人々の権利の促進と保護のため、彼らとの協議を深めることも勧告している。
 さらに、「締約国が琉球語を消滅の危機から守るための方策導入をスピードアップし、沖縄の人々の琉球語での教育を促進し、学校カリキュラムで用いられる教科書に沖縄の人々の歴史と文化を加えることを勧告する」としている。

■部落問題に関する勧告

◎部落民の状況
 部落問題については、以下のように書かれている。

   委員会は、部落民を世系(descent)を根拠に本条約の適用外に置く締約国(日本政府)の見解を遺憾に思う。前回の最終見解でも述べられた通り、締約国がいまだ「部落民」についての統一された定義を適用していないことが懸念点として存在する。委員会としては、2002年の同和問題に関する特別措置法終了に際して、締約国によって実施された、部落民に対する差別対策をふくむ具体的措置について、その影響を評価できる情報及び指標が欠如している点に懸念を抱く。委員会はまた、部落民と部落民以外の人々との間に根強く残る社会経済的格差について懸念を表明する。委員会は更に、部落民に対する差別目的で行われている可能性のある戸籍制度への不正アクセス乱用の報告を受けて、その状況に懸念を持っている(第5条)。
   『世系』という文言についての一般的勧告29(2002)を踏まえ、委員会は「世系」を根拠とする差別は本条約で完全に網羅されるものであることを再確認する。委員会としては、締約国がその立場を見直し、部落の人々と話し合いを持つ中で「部落民」という言葉についての明確な定義を採用することを勧告する。委員会はまた、2002年の同和問題に関する特別措置法終了における具体的措置についての情報及び指標(特に部落民の生活水準について)を提供することを勧告する。委員会としては更に、締約国が法規定を効果的に適用し、部落民が戸籍情報に不正アクセスされ差別行為に晒されることから彼らを守ること、戸籍情報への不正アクセス発生においては、そのすべてについて調査を行い、加害者を懲罰することを勧告する。

 ちなみに、2001年3月に出された「最終見解」に対して日本政府の意見は、次のようなものであった。

  (2)本条約の前文に謳われた精神を踏まえれば、同和問題のような差別も含めいかなる差別も行われることがあってはならないことは当然のことと考えており、同和関係者については、日本国憲法の規定により、日本国民として法の下に平等であることが保障されているとともに、日本国民としての権利をすべて等しく保障されていることから、市民的、政治的、経済的及び文化的権利における法制度上の差別は一切存在しない。
  (3)また、政府としては、同和地区の経済的低位性や生活環境等の改善を通じて同和問題の解決を図ることを目的として、同和対策事業特別措置法、地域改善対策特別措置法、地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律の3つの特別措置法を制定し、30年余にわたって各種の諸施策を積極的に推進してきた。
   これまでの国、地方公共団体の長年にわたる同和問題の解決に向けた取り組みにより、同和地区の生活環境の改善をはじめとする物的な基盤整備がおおむね完了するなど、様々な面で存在していた格差は大きく改善され、また、差別意識の解消に向けた教育・啓発も様々な工夫の下に推進され、国民の間の差別意識も確実に解消されてきているものと考える。
 (2001年3月 「人種差別撤廃委員会の日本政府報告審査に関する最終見解に対する日本政府の意見の提出」外務省)

 国連の「最終見解」では、そのほか、さまざまな日本国内で生起している人権問題について、多角的に論じ、差別是正処置を勧告している。ぜひ原文に沿って精読していただきたい。いかに日本は、国際人権基準から遅れているかが実感できると思う。
 次回は、この「最終見解」に対するマスコミの反応などを検討していきたい。

※今回、勧告は「反差別東京アクション」が公開している日本語訳を参考にした。
http://ta4ad.net/wp/wp-content/uploads/2014/09/1d55f383b97c46c02b35e3c58e68b997.pdf

| バックナンバー 2014 |