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第146回 国連人種差別撤廃委員会の「最終見解」に対するマスコミの反応

前回で、「最終見解」、つまり、国連人種差別撤廃委員会の日本政府に対する勧告の内容を見てきたが、今回は、それに対するマスコミの反応を検討したい。
 

■朝日新聞の国連勧告報道
 この「最終見解」を最も大きく報道したのは、朝日新聞だった。
 8月30日付、朝日新聞朝刊は、一面トップに「ヘイトスピーチ対処勧告」「国連委 日本に法規制促す」の見出しで「最終見解」のなかでも、とくに「ヘイトスピーチ・憎悪犯罪」の項を中心に紙面割りしている。
 しかし、一面記事の内容は、「最終見解」の内容説明に終始し、ヘイトスピーチの法規制について朝日新聞社独自の見解は、ひとことも表明されていない。
 二面では、「時時刻刻」で「憎悪デモ地方に拡散」と題した詳細な現状報告を紙面化している。
 全体として、朝日新聞はヘイトスピーチをこのまま野放しにしておくことに反対している。しかし、自民党の「ヘイトスピーチ対策等に関する検討プロジェクトチーム(PT)」の初会合時、高市早苗(現総務大臣)が、官邸前で行われている反原発デモを「騒音」と表現し、規制の対象にすべきという一知半解のヘイトスピーチ認識などを奇貨として、法規制に慎重な姿勢を取り続けている。
 そして、ヘイトスピーチをくり広げる「在特会」などを相手どって、損害賠償を求める訴訟を起こした李信恵(リ・シネ)さんの言葉を引いて次のように言う。

  国連委の勧告に沿った規制に、李さんは「原則賛成」という。ただ「手放しでは賛成できない」。政府が、反原発のデモなども規制対象にするのではという懸念があるからだ。「教育現場で、きちんと人権意識を育てることが重要」と話す。(『朝日新聞』「時時刻刻」8月30日)

 どういう文脈の中での李さんの発言かよくわからないが、ヘイトスピーチの最前線で身体を張って闘っている李さんに仮託して慎重論を主張するのは、いかがなものかと思う。
 

■「寛容さ」で解決できる問題ではない
 9月2日の「天声人語」は「寛容と不寛容という難問」と題し、結論として次のように言う。
  

  いまの日本社会における不寛容といえば、在日外国人に対するヘイトスピーチだろう。人種差別を扇動する憎悪表現である。国連の人種差別撤廃委員会は先月末、これを法律で規制するよう日本政府に勧告した
  政府はこれまで、表現の自由を理由に法規制には慎重だった。不寛容にも寛容で臨む態度と一応はみえた。勧告にどう対応するか。あろうことか自民党からは、ヘイトスピーチの規制と併せ、国会周辺でのデモや街宣の規制も議論するという話も出た
  どさくさにまぎれて、市民の正当な言論、表現活動をも抑え込もうという発想ならとんでもない。そんな不寛容はかえって、市民の声をさらに高めることにしかならないのではないか。(『朝日新聞』「天声人語」9月2日)

 つまり、ヘイトスピーチの法規制は、「不寛容」な対応で、「不寛容」なヘイトスピーチにも「寛容」な態度でのぞむべきという主張なのだ。
 「天声人語」に欠けているのは、反原発デモを規制すべきと発言した高市早苗のヘイトスピーチに対する認識不足を批判し、規制すべき対象について、明確に述べることではないのか。
 

■ヘイトスピーチとはなにか
 ヘイトスピーチのカウンター行動も行っている一部の既成右翼の中にも同様の混乱がある。(連載差別表現:第96回参照)いわく、ヘイトスピーチ規制法が成立したら、我々の米軍基地反対闘争時の「ヤンキーゴーホーム」も、禁止されるという主張だ。規制すべき対象は、単なる不快語や侮辱語、侮蔑語、悪態語ではなく、差別表現(発言)一般でもない。
  何度もくり返すが、ヘイトスピーチとは、社会的差別を受けているマイノリティに対する主観的差別、つまり、その攻撃性と目的意識的な差別言動行為のことなのである。
 この点が、しっかり理解できていれば、高市早苗や一部既成右翼の半可通な主張は、ヘイトスピーチ、そのものを理解していないところから生じた放言であることがわかる。そのことを朝日新聞・「天声人語」が見抜けないのは、彼らと同じ土俵で、ヘイトスピーチを論じているからだ。
 朝日新聞朝刊(9月6日)の社説が、「ヘイトスピーチの法的規制」について取り上げているが、「天声人語」と同じく、あいも変わらずの軟弱な主張だ。「政府が差別的表現か否かを判断することの危うさなどを理由に、法規制には慎重な意見も根強くある。冷静な議論を望みたい」という。
 ヘイトスピーチは被差別マイノリティに対する差別・憎悪煽動なのであり、騒音防止条例や、公共の秩序に関わるものではなく、差別に関わる事柄なのだ。政府の判断を待つのではなく、政府から独立した人権委員会などの公的機関を設立して、自立的に判断すればよいのだ。しかも、地方自治体の人権条例でもヘイトスピーチを禁止することができる。即効力のある現実的な法規制を論じるべきだろう。
 9月5日の朝日新聞夕刊には、「サポーターが人種発言 名門クラブを追放」との記事が載っている。ブラジルのサッカー場で、人種差別的言動をした20代の女性会社員は、会社を解雇され、2年間の全サッカー場入場禁止の処罰を受けている。これが世界の人権基準なのだ。
 

■「ヘイトスピーチは差別を助長する『暴力』」と語る愛媛新聞
 朝日新聞以外の全国紙、ブロック紙、地方紙でも、今回の日本政府への勧告は大きく取り上げられている。
 その中で、読んだ限りで、「これは!」と目を見張った「愛媛新聞」の社説を、全文載せて、この項を終わりたい。
 

  差別と人権と規制 明確に区別し毅然と「ノー」を

   日本は「人種差別を平気でする国」であり「政府も放置し、容認する国」なのか―。そんな厳しい見方が、国際的に固まりつつある。極めて憂慮すべき事態で、対策には一刻の猶予も許されない。
   国連の人種差別撤廃委員会が、日本の人種差別的な街宣活動「ヘイトスピーチ」(憎悪表現)に、明確に懸念を表明。差別をあおる行為に関与した個人や団体を捜査、必要な場合は起訴するよう日本政府に勧告した。国連の人権規約委員会や米国務省の2013年版人権報告書も、日本のヘイトスピーチを特に取り上げ、改善を求めている。
   日本はこれまで、言論や表現の自由との兼ね合いから規制に消極的だった。しかし近年、人種や国籍、性別など根深い差別に基づく暴力的な言動が公然と増え始めている。これ以上、手をこまぬいて見過ごすことはできまい。
   まずは大原則として、「差別や暴力は絶対に許さない」という毅然とした姿勢を国が強く打ち出す必要がある。その上で、表現の自由と差別・暴力を明確に区別し、後者に対しては新たな法規制を含めた抑止策を求めたい。
   しかし自民党は、ヘイトスピーチ対策の検討チームを設置するや、とんでもない議論を始めた。「(大音量のデモで)仕事にならない」(高市早苗政調会長)。あろうことか、ヘイトスピーチ規制にかこつけ、国会周辺での大音量のデモや街宣活動に対する規制を検討するという。
   ヘイトスピーチは差別や憎悪を助長する「暴力」であって、守るべき言論や表現とは一線を画す。うるさいから、あるいは主張が異なるから規制するわけでもない。差別は世界中いかなる社会でも許されない人権侵害だからこそ、断固として「ノー」と言い続けねばならないのだ。
   対して、権力批判や政治的意見の表明は、民主主義を支える不可欠な人権である。石破茂幹事長が昨秋、特定秘密保護法への反対運動を「絶叫戦術はテロ行為とあまり変わらない」とブログで述べたことを思い起こせば、自民党はその区別すらできていないのではとの疑念が拭えない。
   国民の訴えや不都合な意見を「騒音」と切って捨て、ヘイトスピーチやテロと同列に扱い、軽々しく言論統制を持ち出す。人権への恐るべき無知、無理解による政治の暴挙を決して許してはなるまい。
   先日は、自民党会派だった札幌市議が「アイヌ民族なんて、もういない」などとツイッターに書き込んだ。大学や地方議会、サッカー応援…。あらゆる場で、今も差別はやまない。その自省を忘れず、差別を放置し排外主義や抑圧を強める政治への監視を怠らず、寛容な社会を守るための不断の努力を続けたい。(『愛媛新聞』社説 09月02日)


 最後に、朝日新聞、愛媛新聞など、ここで引用した新聞社以外の(テレビなども含む)マスコミ関係者に「ヘイトスピーチ」=「差別・憎悪表現」という認識を改め、より正確に実態を反映した「ヘイトスピーチ」=「差別扇動・憎悪扇動」という表現を使うよう要請したい。





 

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