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第159回 「『健全な』批判、『民主的な』デモ」?――ヘイトスピーチをめぐる朝日新聞社説の底意

■相も変わらず「法規制」か「表現の自由」かの二者択一論
 
3月1日の朝日新聞に「ヘイトスピーチ 包囲網を狭めよう」との社説が載った。

ヘイトスピーチを「差別的憎悪表現」と表記しているのは、一歩前進だが、(本来なら「差別的憎悪扇動」だろう)、その内容は今ひとつ。

昨年から、全国の自治体で、ヘイトスピーチの法規制を国に求める決議が採択されている。

奈良県、福岡県、長野県、鳥取県、神奈川県、さいたま市、堺市など30近い自治体で採択されている。

そのような地方自治体の動きの中で、大阪市で、ヘイトスピーチ規制条例制定の答申が、有識者審議会から橋下徹市長に出された。

朝日の社説は、これを受けて書かれたものだが、一応、ヘイトスピーチ規制条例制定の方針を評価しつつ、「条例化にあたって、指摘しておきたいことがある。まず憲法が保障する表現の自由との兼ね合いだ」として、相変わらずの色あせた“法規制か、表現の自由か”の二項対立、ニ者択一論を展開している。

排外主義的ヘイト団体に対する公共施設の利用制限についても「過度な制約にならないよう慎重に検討していくべきだ」とのたまう。

すでに、2013年6月に山形県の生涯学習センターは、その活動を総合的に評価した上で、「在特会」の使用を不許可としている。

千葉市をはじめ各自治体で同様の取りくみが行われている現状に、水をさす主張と言わねばならない。

 
■「健全な」批判?「民主的な」デモ?
 
さらに気になるのは、社説子が「言うまでもないが」と前置きし、「権力に対する健全な批判や民主的なデモは『ヘイト』ではない」と、あえて書いている点だ。

素直に読めばその通りなのだが、なぜ、わざわざ、「健全な」批判、「民主的な」デモ、と、形容詞をつける(断りをいれる)必要があるのかということだ。

しかも、この社説では、誰が、何をもって、「健全」か、「民主的」かを判断するのかの根拠が示されていない。
うがった見方をすれば、「健全」でない権力批判、「民主的」でないデモは、「ヘイト」ともとれる。

ヘイトスピーチをまき散らす「在特会」などの排外主義的人種差別者に、「ヘイト豚!」などの過激な言葉で罵(ののし)り、身体を張って闘っているカウンター行動は、「健全」でも「民主的」でもないと言いたいようにも読みとれる。

 
■罵詈雑言とヘイトスピーチを混同するな
 
何度もいうが、ヘイトスピーチは、社会的差別の存在を前提に、マイノリティ集団を傷つけ、貶(おとし)め、排除するための言論による暴力であり、犯罪行為である。

そこで吐かれている侮蔑的表現は、社会的差別を受けている被差別マイノリティに向けられた直接的差別表現である。憎悪と攻撃性と目的意識性を持った差別表現=ヘイトスピーチと、罵詈雑言や騒音を同列視すべきでない。

官邸前の反原発デモを「騒音」=「ヘイトスピーチだ」として取り締まりを主張した高市早苗現総務大臣、沖縄の普天間米軍基地撤廃を訴える反基地デモを「ヘイトスピーチ」と発言した米海兵隊R・エルドリッジ政務外交次長などを、朝日新聞の社説子は批判しているつもりだろうが、エリート朝日の底意が透けて見えると言いたい。

 
■何をいまさら「討論を加速させる」のか?
 
3月1日の社説には、朝日新聞の一貫したヘイトスピーチ法規制慎重論の姿勢がよく現れている。

社説の最後に、「一方で多くの人の人権が脅かされている現実がある。討論を加速させるため、政府にはまず被害の実態調査をしてはどうか。」と締めくくる。

法制化のための立法事実を、ということらしいが、何を今さら眠たいことを言うとんのか、という気がする。

安倍、菅、谷垣などの閣僚も、一年前の国会答弁で、ヘイトスピーチに対する懸念を表明している。今、喫緊(きっきん)に要請されているのは、「討論を加速させる」云々ではなく、立法事実的現実にどう対処するかなのだ。

 
※立法事実  「立法事実」とは、立法的判断の基礎となっている事実であり、「法律を制定する場合の基礎を形成し、かつその合理性を支える一般的事実、すなわち社会的、経済的、政治的もしくは科学的事実」(芦部信喜/憲法学)
 
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