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第161回 「猿の名はシャーロット」から呼称における差別をかんがえる
■公募で決められた赤ちゃん猿の名「シャーロット」
 
  2015年5月4日、英王室に誕生した王女が「シャーロット・エリザベス・ダイアナ」と命名された。NHKの朝の連続テレビ小説「マッサン」で初めて外国人ヒロイン・エリー役を演じた、ルーツをスコツトランドに持つシャーロット・ケイト・フォックスと同じ名前であり、筆者も好感をもっていた。
ところが、高崎山自然動物園(大分市)のメスの赤ちゃんザルに英王室と同じ「シャーロット」と命名したところ批判が殺到、同園がおわびする騒動になった。「シャーロット」は動物園が公募した名前で、5月5日までに寄せられた853通のうち「シャーロット」が59通で最多だったので、この赤ちゃんザルは「シャーロット」と名づけられたという。5月4日以降、「シャーロット」という名への投票が急に増えたのかどうかはわからないが、朝ドラ「マッサン」の影響も考えられるだろう。しかし、別にたまたま英王女と同じだからといって、大騒ぎして抗議したり、批判すべき事柄ではない。

 
■命名批判者の心理にあるのは「不敬罪」
 
朝日新聞によれば、英国民および英王室の対応は以下のようである。
 
英紙タイムズの東京支局長のリチャード・ロイド・パリーさん(46)は「英国人の多くは王室への愛情を持っているが、動物に同じ名前をつけることに過敏に反応することはないだろう。一部の日本人は高貴な人に対する尊敬の念が英国人よりもすごく強いのかもしれない」と話した。英王室広報は7日、朝日新聞の取材に対し、「コメントは特にありません。赤ちゃんザルにどんな名前をつけようと、動物園の自由です」と答えた。(ロンドン)
 
さすがジェントルマンの国、開かれた王室の国である。しかし、タイムズ紙がのべている「一部の日本人は高貴な人に対する尊敬の念が英国人よりもすごく強いのかもしれない」は、少し評価が甘いように思う。
 じつは、命名批判者の<尊敬>の中身には、英国王室の王女と同じ名前をサルに付けるのは<不敬罪>にあたるという意識が見え隠れしている。
 さらに言えば、命名批判者は、王女の名前を動物一般につけたことを怒っているのではなく、サルだから怒っているのではないか、ということだ。

 
■人やサラブレッドに「シャーロット」を付けるのは良いが猿はダメという心理
 
たとえば、人であれば、男子の名前にどれくらい<睦仁><嘉仁><裕仁>とか<明仁>など、歴代天皇の諱(いみな)を付けている日本人がいるのか知らないが、結構いるのではないかと思う。
 
名前はたしかに重要な問題だが、今回の批判者の心理には、今までとは違う<高貴>なものに名を借りた、裏返しの差別的意識が、明確にある。
たまたま今回は、赤ちゃんザルの命名にかかわってのことだったが、動物にたいする呼称の問題は、「身分」や「社会的地位」の低い人々、および社会的マイノリティに対する批判に、容易にとって替わる危険性をもっている。
批判者に対し、排外主義的なヘイトデモを行っている輩(やから)の心性(メンタリティ)と同じ差別意識を感じないわけにはいかない。
たとえば、もし、今回、競走馬ディープインパクトの生まれたばかりの仔馬に「シャーロット」と名づけたことが公になったとして、批判が殺到しただろうか?否であろう。日本のサラブレッドにも、英王室の名前を冠する馬は、エリザベスなど多く見受けられるように、サラブレッドより動物園のサルを低い価値でしか見ていないからこそ批判するのである。(ちなみに<ジプシー>などという差別的な馬名の馬は今は走っていない。WEB連載76「馬名『ジプシー』参照)
 
話は変わるが、『(正岡)子規 三大随筆』のなかの「墨汁一滴」につぎのような句がある。
 
   鶴の巣や 場所もあろうに 穢多の家 (子規)
 
正岡子規の差別性――それを理解せずそのまま出版していた講談社や岩波書店が抗議されたのは言うまでもない。ここで問題となったのは、「穢多」という差別語の使用にではなく、句全体の差別性である。
「場所もあろうに 穢多の家」という句に見えるのは、被差別民を蔑視する正岡子規のまなざしである。
 
5月8日、高崎山自然動物園で生まれた雌の赤ちゃんザルの名前は、正式に「シャーロット」と決まった。動物園は昨今のマスコミ同様、批判に対し、なぜ、すぐさま「お詫び」をしたのかを反省する必要があろう。
                                                                                        (この項つづく)

 
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