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第168回 スポーツと人種差別〜黒人アスリートに対する逆説的偏見をかんがえる
オコエ瑠偉外野手の活躍
 
 1875年に気象観測が始まって以来、史上最高の暑さ(35℃以上)が続いている。8月6日には、夏の甲子園の始球式も行われ、いよいよ夏本番である。
  
 この甲子園大会に出場する注目選手の一人に、東東京代表・関東一高の外野手・オコエ瑠偉選手(3年生)がいる。ナイジェリア人の父と日本人の母との間に生まれたダブル(註)で、俊足と身体能力の高さが評価されている。プロも注目する期待のオコエ選手は、外見も父の血を引いて肌の色も褐色で身長も高いし、一見すると“外国人”ではないかと思ってしまう。
 
(註)ハーフという言い方は古いし、不十分だとして今は積極的にダブルという言葉が使用され始めている。「あいの子」「毛唐の子」→「ハーフ」→「ダブル」。「混血児」→「国際児」。
 
期待の陸上選手サニブラウン・アブデル・ハキーム選手
 
 もう一人、陸上競技の100
mと200
mで活躍している、父がガーナ人で、母が日本人のダブル、サニブラウン・アブデル・ハキーム選手(高校2年生)がいる。オコエ瑠偉選手と同じく、身長も高く褐色の肌が日本人離れしていると外見上は見えるが、ネイティブの日本人である。未完成で荒削りな走りを見ていると、今後の伸びを予測させるし、桐生選手よりも先に100m、9秒台を出しそうな予感さえする逸材だ。
 
日本女子バレーボール界期待の宮部藍梨選手
 
 さらにもう一人、日本の女子バレーボール界の期待の新人として、オリンピック強化メンバー入りした宮部藍梨選手(高校1年生)がいる。ナイジェリア人の父と日本人の母をもつダブルである。跳躍力が抜群で、まちがいなく将来日本女子バレーボール界を背負って立つ中心メンバーになるだろう。身長182センチの褐色の肌がコートを飛び跳ねている。先の二人と違い、名前も日本的で漢字だけだが、日本人であることに変わりはない。ダブルの選手はスポーツ界に山ほどいる。
 ロンドンオリンピックで活躍した槍投げのディーン元気選手(早稲田大学→ミズノ)は、イギリス人の父と日本人の母をもつダブル。同じく、ハンマー投げの金メダリスト室伏広治選手は、父がハンマー投げの“アジアの鉄人” 室伏重信氏で、ルーマニアのオリンピック選手だった母をもつダブルだ。

 
○「黒人は天性のアスリート」というステレオタイプ

 スポーツ界では珍しくないダブルの選手の活躍だが、最初に名前を挙げた三人は、まだ高校生で、アフリカ系「黒人」を父に持つ点で共通している。この三人の飛び抜けた身体能力は、どのようにして生まれたものなのか。
最初に断っておくが「黒人は天性のアスリート」「黒人だから身体能力が高い」「黒人だから強い、速い」というステレオタイプな理解は、人種差別につながる俗説であることを指摘しておきたい。 
 すでにオリンピックの、とくに陸上競技での「黒人」選手の活躍はめざましいものがある。他のスポーツで活躍している選手に対してもいえることだが、黒人選手が、強く、速く、身体能力が高いのは、生得的・生理学的、遺伝的要素によるところが大きいという虚構が作り上げられている。これは、裏返しの差別(人種差別)であり、何の科学的、客観的、実証的根拠もなく、非黒人が作り上げた反知性主義的物語にすぎない。このような、黒人を天性のアスリートと見なす言説は、20世紀初頭から歴史的に形成されてきた。
 黒人に対する人種差別が根強かった19世紀後半から20世紀前半までは、黒人の身体は劣ったものと認識されてきた。それはあたかも、ヒットラーがユダヤ人を劣った民族と見なし、迫害した人種差別優性思想そのものだった。強く、速い黒人選手の身体的能力は、彼・彼女の持つ個人的資質と運動能力、そして努力と環境のおかげで発揮できたのであり、「黒人」という生得的・生理的、遺伝的「人種的」な属性によるものではない。
 この自明のことが、肌の色の違いによって、つまり人種的偏見によって、ステレオタイプ化され、逆説的な言説となって表象されるのである。

 
○「マヤ・アステカ・インカ文明は宇宙人がもたらした」説に隠された偏見

 
 先日、NHKBS放送の「幻解! 超常ファイル」で、古代中南米大陸に存在した高度なマヤ、アステカ、インカ文明を、スペイン人の侵略者が地球外生命(宇宙人)による創造物と見なし、その末裔である先住民を劣った「種族」として支配し、迫害したと解説していたが、黒人アスリートに対する“作り話”もこのたぐいの非科学的なものである。
 
 8月6日に開幕した高校野球は、今年で記念すべき100周年を迎えた。
 始球式は、王貞治さん。王さんが中華民国(台湾)出身の父親をもつ日本人であることは、国民周知の事実である。しかし、だからといって、台湾人が野球に適した身体能力を生得的・生理的に持っているとは誰も思っていない。
 ではなぜ、「黒人」に対してだけ、そのようなステレオタイプの偏見を持っている(持たされている)のだろうか。詳しく知りたい人は、川島浩平著『人種とスポーツ 黒人は本当に「速く」「強い」のか』(中公新書)を読むことをお奨めする。
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