最新連載記事
カテゴリー
月別

記事検索
<< 第170回 八木秀次氏「『ヘイト』規制法の危険な正体」(「正論』2015年10月号) の面妖(めんよう)さ その1 | 最新 | 第172回 品性下劣な誹謗中傷を撃退する >>
第171回 八木秀次氏の「『ヘイト』規制法の危険な正体」(「正論』2015年10月号)の面妖(めんよう)さ その2
(前号からの続き)
 
○「外国勢力に壟断(ろうだん)される」とする八木氏の危惧
 
さらに八木氏は、「推進法案」第二十条の「内閣に人種差別防止政策審議会を置く」についても、《男女共同参画会議と同様に、省庁を横串で刺す極めて強い権限を持つ」ので危険だ》としている。(女性差別撤廃条約の批准を受けての国内法である男女共同参画社会基本法にも八木氏が反対しているとは私も知らなんだ…)
 さて、ここまで八木氏の論を読んでいて気づくのは、「推進法」の内容を曲解しているわけではなく、それなりに正しく読んでいるのだが、彼の立ち位置からは、すべて逆の意味にとらえられてしまうということである。
審議会のメンバーについても、「推進法案」では
「行政から一定程度独立した『人種等を理由とする差別の防止に関し学識経験を有する者』による専門機関を新設し」としている点について、
 
《ここでいう「学識経験者」の中にヘイトスピーチを受ける立場の外国人や彼らにシンパシーを持つ学者、弁護士などが入るとしたら、どういう事態になるか》
 
と問い、
 
《日本で「人種差別の被害を経験した者」とは外国人であろう。つまり、そうなると確実に我が国の政策全体が外国勢力に壟断(ろうだん)されることになる。》
 
と、危惧を表明するのである。ちなみに、壟断(ろうだん)とは「利益や権益を独り占めにすること」である。

 
 
○「外国人」とは誰のことか
 
 ここで八木氏がいう“外国人”とは誰のことか?
そのことを書く前に、日本政府が批准した「人種差別撤廃条約」がいうところの「人種差別」とは、どのような内容を指しているのかを見ておこう。「人種差別撤廃条約」は、その一条(1)で、下記のように規定している。
 
第一条
1.この条約において、「人種差別」とは、人種、皮膚の色、世系または民族的もしくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限または優先であって、政治的、経済的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人種及び基本的自由を認識し、享有しまたは行使することを防げ又は害する目的または効果を有するものをいう。 (人種差別撤廃条約)
 
 つまり、日本国憲法第14条の「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分または門地により、政治的、経済的または社会的関係において、差別されない」に対応しているのである。
八木氏の頭の中にある“外国人”像とは違って、アイヌ民族、在日韓国・朝鮮人および在日外国人すべてと、被差別部落などの被差別マイノリティを意味しているのである。

 
 
○識者の言説が八木氏の論拠となっていることを考えるべき
 
 そして最後に、「推進法」第六条が地方自治体にも「人種等を理由とする差別の防止に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する」と規定していることに対し、八木氏は、
 
《地方公共団体がそれぞれ人種差別撤廃・禁止条例を制定したり、公共施設を人種差別行為に使わせないよう利用条例のガイドラインを作ったり、地域におけるマイノリティの状況に合わせた人種差別撤廃教育に取り組むなどの施策を促進する。つまり法律に基づき、各自治体でより過激な条例や施策が策定される可能性が高いのである。全国の自治体が外国勢力の介入を許し、政策を壟断(ろうだん)され、朝鮮学校への適正な政策や、ごく当たり前の歴史教育、公民教育まで「ヘイトスピーチ」として禁止される。保守派の団体による公共施設の利用も制限されることになるだろう。》
 
と、懸念を表明している。
先にも書いたが、八木氏は「人種差別撤廃施策推進法」の内容を、正確に読んでいる。問題は、彼の異常な反人権思想と政治的立ち位置が、われわれにはハトに見えるものがカラスにしか見えないということなのだ。
つまり、実証性や客観性を無視ないし軽視し、自己の都合のよいように世界を理解する反知性主義の立場からの中傷であり、論理的に反論しても意味はない。彼には、文章を読む能力はあるが、理解する知性と倫理性が欠けているということだ。
ただ、八木氏が「推進法」をヘイトスピーチ規制法と誤解している点は、多くの「推進法」に賛成している識者のあいだにも見られるし、また「推進法」の成立以降、期待されている包括的な差別禁止法に対して、抽象的な“表現の自由”で対置し、反対している多くの憲法学者や知識人の言説が、八木氏の反対の論拠となっている意味を考える必要がある。(八木氏に反論する能力が欠如していることが問題の本質だが。)

 
○「推進法」=ヘイトスピーチ規制法ではない
 
 最後に、雑誌「部落解放」(2015年11月号)に、文芸評論家の黒古一夫氏が<「差別」「ヘイトスピーチ」の根源にあるものは?>と題した一文を寄稿しているが、次のように記しているのは、さきほどから批判している「推進法」=ヘイトスピーチ規制法ととらえている点で、「推進法」の意味を矮小化している。
 
《しかし、在特会の面々も、また「表現の自由」が規制されるという理由で「ヘイトスピーチ禁止法案」(正式には「人種差別撤廃施策推進法案」)を廃案に追い込んだ与党(自民党・公明党)の政治家たちも…… 》(57頁)
 
とあるが、「人種差別撤廃施策推進法」は廃案になっていない。参議院で継続審議となっている。
安保法制のドサクサにまぎれて廃案に追い込もうとしていた与党(自民党・公明党)の策動を、有田芳生議員などが全力で阻止し、継続審議に持ち込んだのである。
 軽々に、廃案などと誤報を誌面化すべきでないし、訂正記事を出すよう、『部落解放』編集長には助言しておきたい。しかし、部落解放運動にとって、きわめて重要な法案であるはずの「推進法」について、この程度の理解と認識では、部落解放同盟中央本部機関誌としては恥ずかしい限りだ。中央本部のとりくみも、自民党の谷垣幹事長や自民党の「ヘイトスピーチ対策PT」の座長・平沢勝栄に会って要請したことを自慢するだけなら、「推進法」制定運動の足手まといにしかなっていないことを自覚すべきだ。
| バックナンバー2015 |