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第173回 “てんかん”と事件・事故報道
○宮崎県・自動車暴走事件とその報道
 
 10月28日、宮崎県で6人が死傷する自動車事故が起きた。運転していたのは高齢者だったが、事故報道の第一報から、てんかんの持病があると報道されていた。記事は、事故はてんかんの持病が原因であるとの推測のもとに書かれている。
 これらの報道記事を受けて、日本てんかん協会は、11月10日、鶴井啓司会長名で<「宮崎県で発生した交通死亡事故報道」に関する声明>を出している。
  



 そこには「事故の原因と病気やその症状に明らかな因果関係が証明されない段階で、てんかんなどの病歴・病名を安易に報道しないでください」と抑制気味の怒りが表現されている。
 日本てんかん協会は控えめでやさしいが、てんかんに対する予断と偏見が社会に存在する限り、因果関係が証明されても病名は明記すべきではない、と私は考えている。報道されれば確実に「誤解や偏見を助長する」からである。たんに病気ないし持病と表現するだけで十分だろう。

 
○自動車運転死傷行為処罰法
 
 すでに、酒や薬物、特定の病気の影響で危険運転し交通事故を起こした場合の罰則を強化する「自動車運転死傷行為処罰法」について、一定の症状がある統合失調症やてんかんなどを適用範囲に定める政令が閣議決定され、2014年5月から、施行されている。
 この政令が出された背景には、2011年鹿沼市で起きたクレーン車暴走事故がある。
 てんかんの持病がある男性が、薬を飲まずに運転し、運転中にてんかんの発作が起き、集団登校中の生徒の列に突っ込み、児童6名が死亡した痛ましい事故だ。
 この事故についてメディアは、てんかんの発作が事故の原因であることを大々的に報道した。この時にも日本てんかん協会は苦渋に満ちた声明文を出している。
 てんかんが関係した事故の多くが、薬を適切に飲んでいなかったことに原因があった。てんかん=事故ではなく、発作を抑える処方薬を適切に服用していなかったことに原因があることは自明だ。
 それは、糖尿病・心臓病=事故でないのと同様である。
 すでに、てんかんと交通事故のリスクについて、幾つかの論文が発表されているが、
科学的にもハッキリしているのは、てんかん患者の交通事故リスクが高いというのは、単なる思い込みであり、社会的迷信に過ぎないということである(てんかん情報センター参照)。
 
 メディアが報道し煽れば煽るほど、「てんかん患者には運転免許を与えず、持っている者からは剥奪すべき」「てんかん患者は事故予備軍」という社会的偏見が広がり、差別が拡大されるのである。
 
○筒井康隆『無人警察』教科書採用へのてんかん教会の抗議
 
 この“てんかん”と自動車運転については、1993年に角川書店発行の国語教科書に載った『無人警察』(筒井康隆著)に対するてんかん協会の抗議で、一応の社会的合意ができていたが、またもや問題が振り出しに戻っているようだ。
 角川書店に対するてんかん協会の抗議の経緯と内容については、WEB連載第40回『京都・祇園の交通事故とてんかんについて』で詳しくふれているので、そちらを参照していただければと思う。
 付け加えておくと、当時、てんかん差別の問題を理解していなかった文化人や芸能人の一部による悪乗りもあった。
「断筆宣言」をした筒井氏を支援する「筒井康隆断筆祭」冒頭で「気分転換(てんかん)!」(タレントの清水ミチコ氏)と叫び、満座の観客の笑いをとるなどの軽薄な言動は、てんかん患者の置かれた社会的立場を一顧だにしない暴言と批判されてしかるべきだろう。清水氏の言動に象徴される浅薄な認識が、てんかん患者に対する正しい理解を、いまだにさまたげている。

 
 
○「精神科への通院歴」問題
 
 同様のことは、とくにマスコミ関係の研修では強調してきたことだが、犯罪に関して精神科の通院歴を報道することなどについてもいえる。
 
 2013年10月4日『朝日新聞』社会面、「2歳 河原で暴行死 京都・綾部 容疑の父逮捕」という見出しの記事に、「男は病院の精神科に通院していたという。府警は刑事責任能力の有無を調べる」との記述があった。
 ひどい事件だが、精神科への通院歴をなぜ記述する必要があるのか。この記事は、精神障害者一般に対する、現にある予断と偏見、社会的差別意識を助長する記事といわねばならない。
 
 ここで問題にしているのは「精神科への通院歴」が事実かどうかということではない。現に、精神障害者に対する社会的差別が存在しているなかで、この表現・記述が、精神障害者に対する「誤解や偏見を助長する」からである。
 「(通院歴があるのは)事実だから書いてもいい」と主張する人に尋ねたい。
 この事件の容疑者の父親に、精神科への通院歴があることは確かだ。しかし、歯科・眼科・耳鼻咽喉科、内科など様々な通院歴があるはずだ。
 
 にもかかわらず、なぜ精神科への通院歴をことさら記事化するのか。
 答えはハッキリしている。記事を書いた記者自身に、刷り込まれた社会意識として、精神障害者に対する差別観念=予断と偏見があるということだ。
 断っておくが、差別意識を持っていない(持たされていない)人はいない。重要なことは、家庭で、学校で、地域で、職場で、知らず知らず、意識するとしないとにかかわらず、差別意識を持たされていることを自覚することなのだ。

 これは、てんかん、精神病だけにかかわる問題ではない。
「被差別部落をはじめ、社会的差別を受けているマイノリティと、動機不明の不可解な猟奇的事件とを安易に結びつける思考に潜む差別意識に気づくこと」が大切なのだ。

○大槻てんかんセンター長の投稿「理解と支援の仕組みを」

 
 最後に、朝日新聞(11月12日)「私の視点」で国立精神・神経医療研究センター、てんかんセンター長・大槻泰介氏の「てんかん医療 理解と支援の仕組みを」を紹介しておきたい。






















 
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