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第174回 差別を許さない社会環境――あいつぐ差別発言から
[11月に起きた4つの事件]
 
 最近、毎日のように差別事件(多くは差別表現)が発覚し、告発されている。結論から先に言えば、これらの差別事件が氷山の一角であることは疑いないが、確かなのは、社会の中に“差別を見抜く眼”をもつ人が確実に増えているという事実である。

 
.廛輒邉緞務て仔本ハムファイターズが、新千歳空港に掲げていた「北海道は、開拓者の大地だ」のバナー広告が、「アイヌ民族に対する配慮が足りず遺憾だ」との北海道アイヌ協会からの抗議を受け、撤去された事件。
 
茨城県教育委員の長谷川智恵子(銀座日動画廊副社長)が、障害児らが通う特別支援学校を視察した経験をもとに、障害者が生まれてくると従事する教職員の費用もかかるし世話をする家族もたいへんだから「障害のある子どもの出産を防げるものなら防いだほうが良い」と優性思想まる出しの発言を批判され、教育委員を辞職した事件。(この発言に関して茨木県・橋本知事が「問題ない」としている点はまだ追求されていない。)
 
神奈川県海老名市市会議員・鶴指真澄が「同性愛は異常」などと度し難い同性愛者差別ツイートを行い、新聞・テレビでも厳しく批判された事件。(当人は謝罪し、反省のポーズは見せたものの議員辞職はしていないが、海老名市議会は12月3日、鶴指氏の辞職勧告を可決。)
 
※11月29日、同様の同性愛者に対する差別ツイートを行った岐阜県技術検査課職員が批判を受け、処分を受けている。
 
11月28日、埼玉スタジアムで行われたサッカーJ1チャンピオンシップ準決勝、浦和レッズvsガンバ大阪の試合で負けた、浦和レッズの高校生サポーターが、得点したガンバのパトリック選手に対し、「黒人、死ねよ」と、パトリック選手のツイッターアカウントに書き込んだ人種差別事件。(2014年3月に起きた「JAPANESE ONLY」人種差別横断幕事件の教訓が浦和レッズには生かされていないと言わざるを得ない。)
 
 
 以上あげた,らい了件は、すべてここ1か月以内に起きた差別事件だ。いずれも、アイヌ民族差別、障害者差別、同性愛者(LGBT)差別、人種差別である。それぞれの事件については、当事者はもちろんながら、マスコミを始め、ツイッターなどで一般市民からの抗議の声が大きかったことも強調しておきたい。
 

[何が問題か]

[アイヌ民族迫害の歴史に無自覚な広告]について

 先住民族アイヌの土地を“無主の地”(植民地主義者の侵略の論理)として奪い、アイヌ民族を迫害した歴史を少しでも知っていれば、あのようなバナー広告コピーが問題であることは容易にわかるだろう。(「開拓者」=「文明の使徒」は植民地主義者の常套句)

 
[教育委員の優性思想礼賛発言]について

すでに私のブログ「ゲジゲジ日記」でも次のように書いた。
 
「障害者の権利条約を批准し、障害者差別解消法も成立している状況下で、優生思想的な、信じられない障害者差別発言だ。問題は、朝日の記事が〈橋本知事は取材に『事実を知って生むかどうかを判断する機会を得られるのは悪いことではない』とし、長谷川氏の発言に『問題はない』と話した。〉(11月19日・酒本友紀子)と締めくくっていることである。障害者団体に取材して、きちっとした批判を行なうべきだろう。」(ゲジゲジ日記11月20日)
 
脳性まひ当事者である、長野大学の旭洋一郎教授は、「私たち障害者とその家族は、絶えず『かわいそう』『家族や社会の負担になっている』という形をまとった優生思想によって、自分自身を否定される恐ろしさに脅かされながら暮らしている。世間にそのことを知らしめることに力を尽くすのが、教育委員という立場のはず。撤回すればいいというものではない」(朝日新聞11月20日朝刊)と、怒りを表している。長谷川発言を容認した橋本知事の責任も含めて徹底追及すべきだ。
その後、橋本知事も反省と謝罪の意思を明らかにし、自身の発言を撤回しているが、何らかの処分を自らに課すべきだろう。それが公職にある者の発言に対する社会的責任のとり方だ。

 
 
[市会議員による同性愛者への差別ツイート]
 
 これについては、テレビ・新聞で大きく取り上げられている(サンケイスポーツが社会面で大々的に紙面化していた)。この差別事件も、すでに私のブログで触れているので転載しておく。

 
「海老名市議の鶴指真澄が、『同性愛は異常』などと、度し難い同性愛者差別ツイートをしていたことが、マスコミで大きく取り上げられている。『酔った勢いで遊び半分…差別意識はなかった』などと弁解しているようだが、徹底糾弾し議員辞職に追い込むべし。
公的機関から、LGBTの人たちに対する、意識調査が発表された。友人が同性愛者とわかった場合、男女とも『抵抗がある』と答えた割合が、50%を超えている。また職場の同僚が同性愛者だった場合、『40代の男性管理職で、〈嫌だ〉と答えた人が71・5%に上った』という。深刻な数字だ。会社の同僚、後輩、先輩、上司、部下、そして友人から、同性愛者であることを『告白』されて明らかになるのは、告白された側の差別意識の有無、つまり拒否反応を示した人は、差別者としての正体が暴露されたということを自覚すべし。」(ゲジゲジ日記12月1日)
 
12月1日のNHKテレビで「ナチス政権 障害者大虐殺の真実」が再放送されていたが、20万人を超える、知的障害者、精神障害者、そしてダウン症、てんかん症などの人々が、ガス室で殺害された恐るべき事件だが、異物排除の純血主義的優性思想を受け入れた精神科医が、この殺害に深くかかわっていた事実がある。
ナチスのホロコーストで、ユダヤ人600万人、スィンティ・ロマ(差別的に「ジプシー」と呼ばれていた)60万人、そして精神障害者・身体障害者20万人、さらに同性愛者も「異常者」として虐殺された歴史的事実を直視すべきだろう。先週のWEB連載で書いたてんかん問題も、この視点から、てんかんの症状をもつ人々に対する予断と偏見助長記事がもたらす事態を予見すべきだ。

 
[Jリーグ選手への差別的書き込み]について

 高校生が人種差別的書き込みをしたことに少し驚くが、高校生が通う学校及びJリーグが、瞬時に批判声明や“お詫び”を出すなど、すばやい対応が目立った。しかし、2014年3月の事件が、すでに風化していることも明らかになった。サッカー場内だけでなく、人種差別を始めあらゆる差別は社会的に許されないという法律・条例を早急に作り、啓発していく必要がある。
 この人種差別書き込みをした高校生から、在特会などのヘイトスピーチ(差別的憎悪扇動)が公道で許されているじゃないかと問われれば、先生は答えに窮するのではないか。同様の差別事件は、今後いくらでも起こる可能性がある。
 

○水面下の差別が可視化されてきた
 
11月に起きた一連の差別事件を考えてみたが、一つ言えることは、これらの差別事件は急に増えたのではなく、今までもずっとあった事象で、最近になって増加したのではない。
レイシスト在特会などのヘイトスピーチ(差別的憎悪扇動)に対するC.R.AC、男組、女組、そしてプラカ隊など多くのカウンターの行動と主張が、日本社会に影響を与え、“差別を見抜く眼”=差別に痛みを感じる感性をもった人たちが確実に増えてきたということを意味している。つまり、水面下で見過ごされていた差別事象が、告発・糾弾されることによって社会的に可視化されたということなのだ。さらにツイッターなど、ネットで即座に抗議の意思を表現できるツールを、差別と闘う側が有効に活用していることがあげられる。
 
反原発運動、安保法制反対運動、そしてヘイトスピーチ粉砕運動など、いのちと生活を守り、反戦平和を願い、反差別人権確立をめざす様々な社会運動が合流し、権力と闘う過程での共感・共振・共鳴現象として、一連の差別事件告発・糾弾を理解すべきなのだ。

 
 
○NHK「クローズアップ現代」立花隆氏の発言
 
 この項を書き上げた日の夜(12
月3日)のNHK「クローズアップ現代」でゲストの立花隆氏が“古典的”な差別表現事件を起こした。
 スーパーカミオカンデとニュートリノについて興奮気味に語る中で、
「カミオカンデ以前はニュートリノは見えなかった。見えないというのは、ないのと同然。世界中のすべての学者がめくら同然の状態にあった」
と、視覚障害者を否定的な意味の比喩として、差別的に表現したのである。
番組の終了まぎわということもあり、国谷キャスターは「一部、不適切な表現があり、失礼いたしました」と謝罪したが、何が、どう“不適切”なのかの説明は一切なかった。たしかに時間的余裕がなかったのは事実だが、「先ほど“めくら”という言葉を使用した差別的で不適切な表現がありましたことをお詫びします」ぐらいは言えたと思う。
今年5月の「あさイチ」での“山姥”に関する差別発言のときは、有働由美子アナが適切な、見事な対応をしていた(WEB連載第163回参照)。



 
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