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第175回 国家と民族

○映画『シンドラーのリスト』
 先日(2016年1月3日)の夜、ナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺を描いた『シンドラーのリスト』(スティーブン・スピルバーグ監督/1993年)を久しぶりに観た。
ユダヤ人迫害は、1000年以上前から行われているが、ヒトラー率いるナチスのホロコーストでは、600万人(さらにロマ人60万人、知的障害・精神障害者、同性愛者20万人)という想像を絶するユダヤ人が、ただユダヤ人(民族)であるというだけの理由で、歴史的に築き上げた社会的地位や財産全てを剥奪(はくだつ)された上、アウシュヴィッツ=ビルケナウなどの強制収容所で殺戮(さつりく)されたのである。


○イスラエル・ネタニエフ首相の発言
 国家をもたなかったユダヤ人は、シオニズム運動の高揚のなか、1948年5月14日、パレスチナの地にイスラエル国家を「建国」した(中東紛争についてはこの項では言及しない)。そして、アラブ諸国との四次にわたる中東戦争を経て、イスラエルの現首相ベンヤミン・ネタニエフに至るのだが、ネタニエフ率いるイスラエル国家の対外政策、とくに度重なるパレスチナに対する戦争行為はまったく支持できない国家的犯罪行為である。ネタニエフの、耳を疑うような「ホロコーストはパレスチナ人が進言した」(2015年10月23日)として、パレスチナ人虐殺を正当化しようとする暴言は、歴史の捏造(ねつぞう)にとどまらず、逆にユダヤ人差別を助長するものであろう。

○国家と民族を同一視してはならない
 ここで言いたいのは、ユダヤ人を母体とするイスラエル国家(ユダヤ人が75%で、イスラム教徒のアラブ人その他が25%いる)と、苦難の歴史を生き抜いているユダヤ民族を同一視してはならず、峻別(しゅんべつ)して理解すべきということだ。(アラブ諸国やイラン国内においても、それぞれ多様な民族が暮しており少なからぬユダヤ人が生活している。)
何も難しい「共同幻想」としての国家論や、「想像された政治的共同体」としての民族[ネーション]についてのべるつもりはない。国家と民族、それぞれが拠って立つ基盤のちがいは、国家が「収奪と分配」、民族が「贈与と返礼」の交換関係で成り立っていることにあるが、それについては小社刊『官僚階級論』を参照してほしい。
 要するに、イスラエル国家を批判することと、ユダヤ人差別は絶対に許さないという意志は、まったく別の事柄なのだ。そして、そのことを明確に自覚することが重要だ(つまり、あらゆる差別は絶対許されないし、許さないという信念)。
ところが、単一民族幻想の強い日本や韓国では、このことがよく理解されていない。


○民族固有の文化
 1992年4月末に起きたロサンゼルス暴動のときのことだ。
 死者53人、負傷者2000人、放火事件3600件を出した暴動のきっかけは、現在もひんぱんに起きている黒人に対する白人警官の、人種差別にもとづく暴行・射殺事件に対する黒人たちの怒りが爆発したものだった。
このとき韓国系アメリカ人経営の商店が、黒人たちの襲撃の的の一つになった。当時のテレビ映像に流れた、ベトナム戦争帰還兵だった、韓国系アメリカ人店主が、銃を水平発射するシーンが、筆者の目に焼きついている。なぜ韓国系アメリカ人の商店が標的とされたのか。それは、日頃から黒人の買物客に差別的なまなざしを向け、差別的に接していたことが主な要因と言われている。
 このとき、ロサンゼルスでの襲撃に抗議する韓国系アメリカ人の大規模なデモの映像を観て驚いた記憶がある。なぜならデモの先頭に大きく掲げられた旗が、韓国の国旗「太極旗(テグッキ)」だったからだ。
 当時、職場にいた韓国人で梨花女子卒の才媛・尹(ユン)さんと共にその映像を観ていた筆者が、「これはおかしい、韓国系アメリカ人なのだから掲げる国旗は“星条旗”であるべきだろう。そして旗を持つ人が韓国の民族衣装チョゴリかチマチョゴリを着て、つまり文化をもって民族のアイデンティティを表現すべきではないか」と、尹さんに言ったところ、まったく理解してもらえなかった。韓国人のエリートでもある尹さんにおいてすら、民族と国家の区別がなされていないのである。
 筆者が伝えたかったのは、この場面が日系アメリカ人であっても同様に、“星条旗”を掲げ、かつ、もし意図するなら、羽織袴と着物などの民族衣装(琉球出身者は琉装)をつけて抗議行動すべきということだ。


○国家としての補償・謝罪
 現在の日韓関係も、たんに日本の「自虐史観」か韓国の「反日史観」かの対立が根本にあるのではなく、国家と民族の区別が明確になされていないところに、それぞれの主張における弱点がある。
北朝鮮の金正恩の政治政策にはかけらの支持もないし、韓国の朴大統領の対外政策を批判することになんら躊躇(ちゅうちょ)しないが、韓国・朝鮮民族に対する日本国家が過去おこなった植民地支配下における、朝鮮民族迫害と差別、従軍慰安婦(日本軍性奴隷)問題などは、明確に反省し、つぐなう必要がある。
 だから、より一層、日本国内における韓国・朝鮮人差別は絶対に許してはならないし、かれらを主な標的にしているヘイトスピーチ(差別的憎悪扇動)は、法的に禁止すべきなのである。このことは、国家と宗教の関係にも言えることである。


 
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