最新連載記事
カテゴリー
月別

記事検索
<< 第182回 引き続き、差別犯罪本「全国部落調査」について | 最新 | 第184回 西原理恵子×高須克弥著『ダーリンは70歳 高須帝国の逆襲』(小学館)絶版・回収事件を考える >>
第183回 ヘイトスピーチ対策法 参議院で可決
○「ヘイトスピーチ対策法」可決

 今年4月18日、与党の自公より参議院に提出されていた「ヘイトスピーチ対策法」が、5月13日の参議院本会議で可決された。可決成立した法案は決して満足できるものではないが、これからの反レイシズム・ヘイト撲滅運動の闘いの武器になることは、まちがいない。
 ヘイトスピーチ規制に消極的(反対)であった自公が法案を提出せざるを得なかった背景にはさまざまな要因がある。国内外世論、学者文化人、司法判断の影響……しかし、街頭のヘイトデモに対する現場での身体を張った反差別カウンター行動の闘いぬきに、この法案成立はありえなかったことを、まず、確認しておきたい。

 
○日本政府の怠慢に対する国際的圧力
 
 々餾歸圧力としては2014年7月24日、国連人権規約委員会が2日間に渡る対日審査を行った上で、韓国・朝鮮人や中国人に対する人種差別的言動(ヘイトスピーチや「JAPANESE ONLY」)が拡がっていることに懸念を示し、現行刑法や民法で防ぐのは困難との認識の下、日本政府に対し、すべての宣伝活動の禁止を強く勧告した。
さらに同年8月29日、国連人種差別撤廃委員会がヘイトスピーチに毅然と対処し、法律で規制するよう厳しく勧告。ヘイトスピーチの街宣活動やインターネット上で人種差別を煽る行為に対する捜査や訴追が不十分であると指摘し、(1)街宣活動での差別行為への断固とした対応(2)ヘイトスピーチに関わった個人や組織の訴追(3)ヘイトスピーチや憎悪を広めた政治家や公務員の処罰(これは日本政府も批准し留保していない同条約4条C項[※]に対応している)(4)教育などを通じた人種差別問題への取り組みなどを勧告している。


※C項 「国または地方の公権力または公的公益団体が人種差別を助長しまたは煽動することを許さない」
 
○国会内における「人種差別撤廃施策推進法案」と地方議会の闘い
 
◆々馥眦には、有田芳生議員を先頭に、昨年5月22日、野党の旧民主党(現民進党)などが「人種差別撤廃施策推進法案」を参議院に提出、ヘイトスピーチを含む人種差別の全面的な禁止を求めた人種差別撤廃条約(1995年批准)の理念の実現を強く要求した国会闘争(昨年9月25日継続審議となっていた)があった。
いっぽう、地方自治体からは、ヘイトスピーチの法規制など、国に対策を求める意見書が、300を越える県市町村地方議会で採択されている。(法務省による初めての実態調査でも2015年9月末までの3年半で、全国で1152件のヘイトスピーチが確認されており深刻な現状が明らかにされた。)
 
ヘイトスピーチを人種差別と認めた司法判断
 
 司法関係では、京都朝鮮第一初級学校前でのレイシスト集団「在特会」らの差別排外主義的街宣行動(2009年12月4日)に対し、学校側が、差別街宣参加者と在特会を相手取り、街宣禁止と3千万円の慰謝料を求め、民事訴訟を提起。刑事訴訟では中心メンバーの有罪が確定(威力業務妨害罪/2011年4月)。民事訴訟では、2013年10月、京都地裁が1226万円の賠償と学校前半径200メートル以内での街宣禁止を命じ、「著しく侮蔑的な発言をともない、人種差別撤廃条約が禁ずる人種差別に該当する」と判断した画期的な判決を下した。2014年7月、大阪高裁が在特会側の控訴を棄却して同地裁判決を維持。上告審においても最高裁が認定し、判決が確定した(2014年12月)。人種・民族や国籍で差別するヘイトスピーチの違法性(差別性)を認めた判断が最高裁で確定したのは初めてで、大きな意義をもつ。(同時にヘイトスピーチを“表現の自由”と主張した在特会の訴えを、判決は一蹴している。)
 その他、ヘイトスピーチによる被害を受け裁判に訴えた事件も、ほとんどすべて勝利判決を克ち取っている。直近では「在特会」による徳島県教組襲撃事件(2010年)に対し、2016年4月26日、高松高裁は、一審の徳島地裁より重い賠償額(230万→436万)を命じ、在特会らの蛮行を「人種差別的思想の表れで違法性が強い」と認定している。
 あいつぐ裁判所のヘイトスピーチ=人種差別との司法判断の影響も大きいと言わねばならない。

 
○街頭でレイシストと身体を張ったカウンターの闘い
 
ぁ,修靴萄2鵝⇒薪泙亮公をして「ヘイトスピーチ対策法」を出させるまでに追い込んだ最大の原動力は、街頭で行われているレイシスト達のヘイトスピーチに身体を張って、直接、抗議・阻止の闘いを、広範かつ独創的にくり広げた、男組(昨年3月解散、今年4月に復活)、C.R.A.C(旧レイシストしばき隊)、そしてプラカードを掲げ抗議の意思表示をするプラカ隊など、多くのカウンター行動に取り組んだ、反レイシズムの力強い社会的ムーブメントである。
 その反レイシズムカウンター抗議を報道することで、ヘイトスピーチの差別性と犯罪性を社会的に明らかにすることに貢献したマスメディアも少なくない。さらに少数ではあるが、ヘイトスピーチ法規制の必要性を法的・理論的に支えた弁護士、学者、文化人の闘いもあった。

 
「ヘイトスピーチ対策法」をめぐる論点
 
 今回の自公の「ヘイトスピーチ対策法」は、以上のような反ヘイト・カウンターの社会的圧力を受けて提出された法案だが、その内容(条文)には多くの欠陥があることも事実であり、すでに様々な反差別のカウンター活動家、学者・文化人、団体から、法案に対し、不充分点というより、抑止効果と実効性・救済性が疑問視され、問題点が多いと、厳しい批判がなされていた。その批判の論点と問題点を整理しておきたい。
 
○「本邦外出身者」以外の社会的マイノリティへのヘイトスピーチは?
 
,泙此第一に指摘されている問題は、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」という法案名に、端的に表れている。次の(1)(2)である。

(1)日本国籍取得者(本邦内出身者)である沖縄・アイヌ・被差別部落・性的マイノリティ・障害者などの社会的マイノリティが、ヘイトスピーチの対象から除外されている。

(2)さらに、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」について、条文第2条では次のように定義している。「専ら本邦の域外にある国または地域の出身である者またはその子孫であって適法に居住するもの(以下この条において「本邦外出身者」という。)に対する差別的意識を助長し又は誘 発する目的で公然とその生命、身体、自由、名誉又は財産に危害を加える旨を告知する など、本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動をいう」

 
○「在特会」が最初に標的にしたのはカルデロンさん一家
 
 つまり、批判されているのは、いうところの「適法居住要件」である。(可決された条文では「告知」の後に「著しく侮辱するなど」の文言が修正で加えられた。)
これでは、オーバーステイや難民認定申請者などの非正規滞在者が除外されることになる。レイシスト団体「在特会」から最初にヘイトスピーチの標的にされたのが、在留資格をもたず日本で働いていた、フィリピン出身のカルデロンさん一家に対する「犯罪フィリピン人カルデロン一家を叩き出せ」であったことを忘れてはならない。
日本政府はまだ批准していないが、移住労働者権利条約が明記しているように、違法滞在、違法就労であっても、労働基本権が保障される。同じことは国連の人種差別撤廃委員会も、人種差別撤廃条約は適法に居住しているか否かに関わらず、一切の人種差別は許されないとしている(2004年人種差別撤廃委員会が日本政府に「人種差別に対する立法上の保障が出入国管理法令上の地位に関わりなく、市民でない者にも適用されることを保障すること」を勧告)。すなわち、人権は国境を越えて保障されなければならない。
 それに対して、この「適法居住要件」は、それに当てはまらない外国人に対してのヘイトスピーチを容認することにつながりかねない。「本邦外出身者」と「適法居住者要件」は、ヘイトスピーチ規制の対象範囲を極めて狭くし、実効性を弱めているのは事実である。

 
○ヘイトスピーチ禁止ではなく「努力目標」
 
第二に指摘されているのは、明確な差別禁止規定が条文化されていないという点だ。第3条は「本邦外出身者に対する不当な差別的言動のない社会の実現に寄与するよう努めなければならない」とし、いわゆる“義務規定(禁止規定)”ではなく“努力目標”としている。
 この点でも、実効性と抑止性が問題視されている。差別は社会悪であり、犯罪であるという根本的な視点が欠けていると言わざるを得ない。

 
○「人種差別」の定義

 人種差別撤廃条約は、ヘイトスピーチ(差別的憎悪扇動)をはじめ、あらゆる人種差別を禁止している。
 ここにいわれる“人種差別”とは何だろうか。

 同条約は、その第1条で、人種差別を「政治的、経済的、社会的、文化的またはその他のすべての公的生活分野における人権及び基本的自由の平等な立場における承認、享有または行使を無効にし、または損なう目的または効果を有する人種、皮膚の色、門地または民族的もしくは種族的出身にもとづくあらゆる区別、除外、制約または優先をいう」と定義しており、日本国憲法第14条「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分または門地により、政治的、経済的または社会的関係において、差別されない」に対応している。
その上で、人種差別撤廃条約は、第4条で「人種的優越主義にもとづく差別および煽動の禁止」を定めている。
また、国際人権規約(自由権)20
条にも次のような差別禁止規定がある。
「(戦争宣伝及び憎悪唱道の禁止)戦争のためのいかなる宣伝も、法律で禁止する。差別、敵意または暴力の煽動となる国民的、人種的または宗教的憎悪の唱道は、法律で禁止する」

 
○人種差別撤廃条約に対応する初の国内法 「ヘイトスピーチ対策法」
 
 今回の「ヘイトスピーチ対策法」が、国際的な差別禁止法の水準から見ると、実効性に乏しく抑止効果 が期待できないという懸念があることは事実だ。しかし、ヘイトスピーチを許さない国内外の世論が、院内で圧倒的多数の与党をして、法案を提出せざるを得ない状況に追い込んだことの重要性を忘れてはならない。
 たしかに可決された法案に不満は残るが、不十分点の見直しは、法的拘束力のある附則として実現したし、法的拘束力はないが付帯決議(※)として、条文の欠陥を補う役割を果たしている。附則と付帯決議の実行を求めることを含め、反ヘイトスピーチの闘いは続くのである。
 1965年に国連で採択され、1969
年に発効した人種差別撤廃条約を、1995
年にやっと日本政府は批准したが、条約に対応する国内法をいっさい作らず、この21年間、ネグレクトし続けてきた。
 何はともあれ、やっと条約に対応した法律が誕生したことの意義は大きい。つぎの闘いは、この法律内容を、より抑止効果を高め、実効性ある法案に仕上げていくこと、そして、包括的な人種差別をはじめすべての差別を禁止する“差別禁止法”の成立をめざして、さらに闘いの輪を広げることだ。

 
※付帯決議の概要
付帯決議の,蓮▲▲ぅ面餌欧箍縄、難民申請者、非正規滞在者などに対するヘイトも許さないことを明らかにするとともに、人種差別撤廃条約に触れることでヘイトスピーチは違法し解釈 △麓治体にも施策実施を義務づける はネット対策

 【追記】
今日(13日)午前中の参議院本会議で可決成立したこの法案に反対した議員が7名いるが、その内3名は社民党の福島みずほ、又市征治(吉田忠智は本会議欠席)だ。理由は「適法居住要件」があるということらしいが、まったく政治的彼我の力関係の理解もなく、ましてやヘイトデモ被害者の叫びと願いを全く無視した裏切り行為である。ヘイトデモ現場の実態と現実を知らない(たぶんカウンター行動に参加したこともないのだろう)、抽象的かつ非現実的な対応といわねばならない。
すべての判断基準は、現場の実態の中にこそあり、条文の解釈にあるのではない。

 
| バックナンバー2016 |