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第191回「部落差別解消推進法」は闘いの武器になるか

 

 

 

■法案名に「部落差別」が入れば意義ある法律か

 

 

 2016年12月、自民・公明・民進3党共同提出の「部落差別解消推進法」が参議院本会議で可決成立した。

 

 法律は第1条から6条までの短いもので、その2条〈基本理念〉で、基本的人権が尊重されるべきとの理念にのっとり「部落差別を解消する必要性に対する国民1人ひとりの理解を深めることにより部落差別のない社会を実現すること」を目的としていると書かれている。

 

 この法案を推進してきた部落解放同盟中央本部は、初めて「部落差別」という言葉が入った意義ある法律だ、と手放しで自画自賛している。はたして本当にそうか?まったくの茶番である。

 

 

 

(二階俊博の自民党幹事長就任などを祝うごく内輪の会。鏡割りのおかげで部落差別解消推進法成立? 写真右から3人目・二階俊博自民党幹事長、4人目・組坂繁之解放同盟委員長 2016年9月25日)

 

 

 まず法案成立の背景を明らかにしておこう。

 自民党安倍政権下で遅々として進まない国内差別人権問題に対し、直近では2014年7月の国連自由権規約委員会及び8月の国連人種差別撤廃委員会から厳しい勧告が発せられている。

 

 さらに、2014年にIOCがオリンピック開催都市契約に差別禁止条項を追加したこともあり、2020年東京オリンピック開催にむけ早急に国内における差別・人権問題に一定の法整備を迫られる中、障害者差別・在日韓国朝鮮人差別・部落差別・アイヌ民族差別・LGBT差別などの法律制定に向け急速に動き始めていた。

 

 とくに、2016年4月に施行された障害者差別「解消法」は、国連障害者権利条約(2006年)を受け、障害当事者が法案制定過程の政策委員会・政府機関に多数かかわり、それを障害者団体の運動が支えるかたちで実現した。

 

当初、「障害者差別禁止法」だったのが、障害者団体側の意向を踏みにじり、強引に「解消法」と名称は変更された経緯がある。しかし、名より実をとることで、不充分点はあるものの、障害者差別撤廃に画期をなす法律となった。

 

 

■社会運動で闘い取られたヘイトスピーチ対策法

 

 

 そして、月には在日韓国・朝鮮人など日本に住む外国人に対する排外的なヘイトスピーチに対し、多々問題点はあるものの(*本連載186回参照)、ヘイトスピーチ対策法が成立した。

 

 この法律が制定される前段で、当事者およびカウンターの人々による裁判闘争の中で、「人種差別撤廃条約第1条第1項のいう人種差別」に該当する、との判決を克ちとっている。(京都地裁・大阪高裁。2014年12月最高裁がこれを認定した。)

 

 ヘイトスピーチ対策法は、国連人権機関からの圧力を背景に、ヘイトデモ現場で身体を張って闘ってきた当事者・カウンター・学者・文化人の社会運動が、国会内での有田芳生議員らの「人種差別撤廃施策推進法」と連動した運動が生みだした法律である。

 

 そして、アイヌ民族差別撤廃も、アイヌ当事者も多数参加して内閣官房に設けられた「アイヌ政策推進会議」が開かれており、早晩、法制定にむけて動きはじめるだろう。

 

 いっぽうで、LGBT差別撤廃は停滞している。稲田朋美政調会長(当時)の肝いりで、自民党内に小委員会が作られたものの、伝統的家族制度を尊重する党内の反対に押され、ペンディングとなっている。

 

 以上見てきたように、障害者差別解消法、ヘイトスピーチ規制法と、いま論議されているアイヌ民族の権利確立、さらにオリンピック憲章をはじめ、「性的指向」による差別禁止を求める国際的圧力によるLGBT差別禁止などの、いわゆる人権関連法案は、2020年のオリンピック・パラリンピック開催前には成立する可能性が高い。

 

 

■「差別はいけません」――道徳訓示レベルの条文内容

 

 では「部落差別解消推進法」は、どのような背景や「制定要求運動」の中から出されてきたのか。

 

 きっかけは2015年11月、東京平河町で開かれた和歌山県人権フォーラムで、稲田朋美自民党政調会長(当時)が記念講演し、ここで部落差別を個別法として法整備することに前向きな姿勢を示し、二階総務会長(当時)のイニシャチブの下、自民党内に部落問題に関する小委員会が設置されたことに始まる。

 

 そして20165月、突然、与党案「部落差別解消推進法案」として提出されたのである。

 

 与党案は、一読して具体性に乏しい。差別禁止規定も罰則規定もない。

 ありきたりの「差別はいけません」的な道徳訓示レベルの文言が並ぶのみである。

 

 

■「国と地方公共団体の責務」がない「部落差別解消推進法」

 

 部落差別が許されない社会悪であることは、同和対策審議会答申(1965年)が、半世紀前に、はっきりと述べている。

 

「いうまでもなく同和問題は人類普遍の原理である人間の自由と平等に関する問題であり、日本国憲法によって保障された基本的人権にかかわる課題である。〈中略〉その早急な解決こそ国の責務であり、同時に国民的課題である」

 

 「同和問題の解決は国の責務である」と、高らかに謳いあげ、この答申に基づいて1969年に「同和対策特別措置法」が成立し、2002年まで部落差別撤廃のとりくみがなされてきた。

 

 そして、特別措置法の失効を前に、200011月、人権教育推進啓発法が成立した。

 

 この「啓発法」は、その目的を第1条で、憲法第14条をもとに、「社会的身分・門地・人種・信条または性別による不当な差別の発生等の人権侵害の現状」に対し、「国・地方公共団体と国民の責務」を明らかにし、「必要な措置を定め、もって人権の推進に資することを目的とする」と、明確にのべている。

 

 この啓発法では、「国と地方公共団体の責務」として、

 「人権教育及び啓発に関する施策を策定し、及び実施する責務を有する」とし、その上で 「財政上の措置」(第9条)を講ずることを、明記している。

 

 ところが、今回の「解消推進法」では、それが「情報提供と助言の責務」に後退している。

 

 たとえば、第条「国および地方公共団体の責務」では、

 

「国は、前条の基本理念にのっとり、部落差別の解消に関する施策を推進するために必要な情報の提供、指導および助言を行う責務を有する」

 

「2.地方公共団体は〈中略〉その地域の実情に応じた施策を講ずるよう努めるものとする

 

となっている。(下線筆者)

 

 つまり、国は、地方公共団体に対し、「情報の提供、指導および助言を行う責務を有し」、地方公共団体は「施策を講ずるよう努める」という努力目標に、とどまっているわけである。

 

 

■解放運動の生命線「糾弾権」を封じることが狙い

 

 

 では、なぜ今、このような無内容な法案が、自民党主導で提案されたのだろうか。

 

 それを象徴したのが、昨年12、参議院法務委員会で行われた参考人質疑だった。

 

 なんと解放同盟の中央書記長は、自民党の推薦を受けての出席だった。

 そこでの発言で強調していたのは、「我々は事業法を求めているのではない」ということだった。

 つまり、「財政上の措置」をハナから放棄しているのである。法案の空念仏性が益々明らかにされている。

 

 さらに憂慮すべきは、この法案の付帯決議だ。そこには次のように書かれている。

 

1.部落差別のない社会の実現に向けては 〈中略〉 過去の民間運動団体の行き過ぎた言動等、部落差別の解消を阻害していた要因を踏まえ、これに対する対策を講ずることも併せて、総合的に施策を実施する」

 

 

 これは事実上、部落解放運動の“生命線”と言われてきた糾弾を否定するということであり、つまり、この法案の狙いは、部落解放運動の命脈を断ち、体制内に取り込むところにある。

 

 法律制定をめざす闘いの過程は、めざすべき法律の内容を規定(反映)する。

 

 じっさい、この法案を提案した自民党議員は、衆議院法務委員会で、臆面もなく、つぎのように言い放っている。

 

「この法律は理念法に留めた。したがって、財政の援助あるいは処罰はない。ご懸念(同和対策事業の復活や確認・糾弾の根拠になる)されたような糾弾、これも一切ないように心掛けて条文を作った」

 

 

■事実上の部落解放運動抑圧法

 

 

 突然ふって沸いたような「部落差別解消推進法」は、その背景を見れば明らかなように、自民党主導で、しかも札付きの差別者・稲田朋美現防衛大臣などを前面に出し、現自民党幹事長の二階俊博が音頭をとって作り上げた、部落差別撤廃運動にまったく役立たない、部落解放運動抑圧法と言ってよい。

 

 そして、罰則規定や救済規定のない単なる理念法というだけでなく、この法律の制定によって、部落解放運動の生命線である糾弾を封じることを直接の目的として自民党から提出された、という危険性をもつ。

 

 法案内容について、反対の共産党を除き、野党民進党からの修正案も出された気配もないし、すり合わせた形跡もない。自民党二階派と解放同盟中央の一部幹部との密室での談合で成立したと言ってよい。(自民党の関係組織である自由同和会ですら法案成立は失敗だったとしている)。

 

 解放同盟中央は、解放運動をしているというアリバイ作りにこの法案を利用しているに過ぎず、実体的に安倍政権に取り込まれている。(あれほど人権擁護法案など人権関係法案に強固に反対していた安倍首相も、この法案については直に了承している。)

 

 部落差別を許さない法制定をめざす闘いの過程は、成立した法の内容に反映される。

 

 法制定を推進してきた部落解放同盟中央本部の存在意義が問われている。

 

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