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第85回 再びヘイトスピーチ(憎悪発言・差別発言)について考える
■排外差別デモを許さない社会の声
 先週末の3月31日(日)、在特会(在日特権を許さない市民の会)なる団体によって、「関東・関西・九州同時開催 特定アジア粉砕排害祭り」と称して東京・新大久保、大阪・鶴橋、福岡・天神で行なわれた在日韓国・朝鮮人に対する、人種差別的、排外主義的デモ行進に対し、世論の批判が沸騰している。

 排外主義デモが起きた当日、「反排外主義」の立場からのカウンターデモが、「排外」デモ参加者を上回る人数で行われ、騒然とした雰囲気の中にも、ヘイトスピーチに反対する確固たる世論が存在していることを、強く印象づけた。

 新聞各紙がこれらの出来事を報道したことも、社会的関心を高める上で、大きな役割を果している。

 この31日に行われた排外主義的な「在特会」のデモに対し、有田芳生参議院議員などが中心となった国会議員の呼びかけで、事前の3月14日、参院内において「排外」デモとヘイトスピーチについての議論が、予想を超える250人もの参加者によって行なわれた(排外・人種侮蔑デモに抗議する国会内抗議集会)。その後、弁護士などが、排外主義デモ不許可などの要請を警視庁に行ったという。

 今回、そのときの集会「排外・人種侮蔑デモに抗議する国会内抗議集会」の発言、及び一水会機関紙『レコンキスタ』今月号の木村三浩代表の巻頭言「われわれは日本人の品位を貶める『ヘイトスピーチ』には与しない」を参考にしながら、思うことを少し記したい。

■レイシストに品格はない
 一つ目は、「在特会」などに参加し、「排外」デモをくり広げ、声高に「ハヤククビツレ チョウセンジン」などと連呼する連中を「レイシスト(人種差別主義者)」と断じた『ネットと愛国』の著者・安田浩一さんに対し、一水会の木村三浩代表が「在特会などの活動はレイシズム的ではあるが、レイシストとはいえない。レイシストには品格がある」と応じていることについてである。

 木村代表はヨーロッパをはじめとする国際的な愛国者団体に配慮して発言されているのだと思うが、結論を先に言えば「レイシストには品格がある」とは、形容矛盾と思う。

 レイシズム(人種差別主義)と、それを実行に移すレイシスト(人種差別主義者)を区別する意味を見出せないが、人種差別主義がもたらした最大の悲劇が、第二次世界大戦のユダヤ人(600万人)、ロマ民族(50万人)、精神障害者・同性愛者(20万人)に対するホロコーストであることを、否定する人はいないだろう。

 戦争が最大の人権侵害であり、一切の差別の強化であることは、論を俟(ルビ ま)たない。戦時軍国主義体制の生活現象が、人種差別主義、民族排外主義であることは、周知の事柄である。

 品格のある人間はレイシストにはならない。在特会のような品格のない人間が、レイシストになるのである。

 すでにこの連載のなかでもふれているが、憲法学者の大半が「ヘイトスピーチ」について、「学問の対象になっていない」「話者の品格を問うべき」「言論の自由市場で論議すべき」などと、的外れな主張をしていることを紹介した。

 京都朝鮮学校襲撃事件(数度に渡って行われている)に象徴されるように、現に在特会によるヘイトスピーチで傷つき、身の危険を感じている在日コリアンの人々の感情からすれば、在特会の行動は、間違いなくレイシズムであり、彼らはレイシストなのである。

 木村代表は、在特会などはフーリガン的な軽佻浮薄な輩であり、彼らをレイシストと規定することによって“本物”の「具体的な実務能力を伴った潜在的レイシスト」に対する危険性を軽視することにつながるのではないか、という意見を表明しているが、その点はまったく同感である。

 しかし、1923(大正12)年、関東大震災時の朝鮮人虐殺が、そのフーリガン的な輩の流言蜚語などの顕在的な煽動によって行われたことを、忘れてはならない。

 木村代表が、そのことを認識して在特会=「擬似レイシスト」と規定するのであれば、それはよしとしたい。

 だが、「品格あるレイシスト」は、どう考えても矛盾した表現を思わざるを得ない。レイシズム、ヘイトスピーチは「話者の品格」の問題ではない。

■ヘイトスピーチは犯罪である
 二つ目に考えたいのは、さきの参院内における集会で、金尚均教授(龍谷大学法科大学院)が「日本にはいまだヘイトスピーチを処罰する法律がない。ドイツの民衆煽動罪などを例えに、法的規制を考えるべきではないか」と提起したことに対し、同じく木村代表が「法的規制には反対だ。思想を深化させることによって気づいてもらうしかない」と述べていることについてである。

 人種差別撤廃条約や国際人権規約などに基づくヨーロッパの人権条約と、ヨーロッパ各国内における人種差別禁止法は、被差別マイノリティに対する差別と迫害を許さないという立場からの法的規制であり、自民党の「憲法改正草案」で語られている、憲法第21条の言論・表現の自由の規制とは似て非なるものであることを、木村代表に理解を求めたい。

 つまり、各国のヘイトクライム規制は、社会的マイノリティの社会的差別、迫害、排除を許さないことを目的に、政治的にではなく、社会的に社会の公共圏の場から規制を求めているのであって、自民党の「憲法改正草案」にあるような「公益及び公の秩序」を守るための立法化ではないのである。差別禁止法は被差別マイノリティの闘いの“武器”になるのである。

 差別は犯罪であり、ヘイトスピーチは社会的犯罪なのであり、それを規制し、処罰することを目的とした社会的差別禁止法が、求められているのである。

 私は、在特会のようなフーリガン的輩に「思想の深化」を求めるのは、そもそも無理であり、無意味と思うが、どうだろう。
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