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ウェブ連載「差別表現」 第194回 相模原障害者殺傷事件から1年〜被告・植松は偶然生みだされた“怪物”ではない

 

 

●事件の背景にある優性思想と障害者差別意識の解明を

 

201626日未明、相模原市にある障害者施設「津久井やまゆり園」で起きた“相模原障害者殺傷事件”から一年を迎えた。

 

重度重複障害者19名を殺害し、27名に重軽傷を負わせた戦慄(せんりつ)すべき戦後最大の差別的憎悪犯罪(ヘイトクライム)にかんして、今月に入って、テレビ・新聞・出版などメディアで大きく特集が組まれ、報道されている。

 

事件の背景および、この犯罪の意味するところと、マスコミ報道の弱点については、すでに本連載「差別表現」187号と193号で詳述しているので、ここではくり返さない。

 

事件発生から1年。

被告・植松聖が、障害者殺害行為を「社会正義の実現」と考えた思想的背景(優性思想)、そして、この事件から見えてくる障害者に対する社会意識と、医療機関と司法機関の対応を少し検討しておきたい。

 

 

●植松被告の障害者差別思想を生みだしたもの

 

「障害者は不幸を作ることしかできない」と主張し、「障害者を安楽死させるための法制定」を求めた植松聖は、それを安倍政権下の国家意思であると忖度し、大量殺害におよんでいる。

被告・植松聖は、経済合理主義を最優先する価値観(新自由主義)が跋扈(ばっこ)する現下の日本において、例外的に生み出された“怪物”ではない。そしてこの事件は、社会意識の奥底にこびり付いた障害者差別意識が、暴力的なかたちで発現したものだ。

植松聖は、障害者を20万人以上虐殺したナチスドイツ・ヒトラーの優性思想(T4作戦)に心酔し、「啓示」を受け、「正義」を実行したと供述している。相模原障害者殺傷事件は、精神症状としての妄想ではなく、障害者差別思想にもとづく確信犯罪=ヘイトクライムなのだ。

 

 

● 「beautiful Japan」  犯行直後の植松のツイート

 

安倍総理就任のときの言葉「美しい日本を取り戻す」に呼応してか、植松は犯行直後に「世界が平和になりますように、beautiful Japan(美しい国)」とツイッターに投稿している。

社会から「不健康な要素」を除去し、「純化」された「美しい日本」ほど恐ろしい社会はない。

 

 

●警備体制や措置入院制度の問題なのか?

 

しかし、警察・検察をはじめ医療関係の少なくない人が、この事件を、警備体制の見直しや措置入院制度を強化することで防ぐことが可能であるかのような言説をふりまいている。

 

とくに、事件を受け、措置入院制度を強化する精神保健福祉法改正案が上程され、参議院では可決されたが、衆議院では審議入りできず、継続審議となっている。

 

 

 

●精神障害者を加害者予備軍とみなす措置入院制度強化法案

 

この自傷他傷のおそれのある精神障害者を強制入院させる措置入院制度強化法案は、多くの識者が指摘しているように、警察の関与による「精神障害者の監視であり、精神障害者を虐待の被害から守る目的ではなく、加害者予備軍と見なしている。精神障害者に対する差別偏見を助長する」(姜文江[きょうふみえ]弁護士/朝日新聞 2017年6月2日)と、その危険性を指摘している。

 

そして姜弁護士は、次のように結んでいる。

「相模原のような犯罪を防ぐためには、精神保健法の改正ではなく、正面からそのための法制度を提案すべきである」。

 

正論である。

つまり、障害者差別をはじめあらゆる差別を禁止する、包括的差別禁止法の制定こそがこのヘイトクライムを防ぐ最重要な課題だということだ。

 

 

●検察が「精神障害による犯行」にこだわったのは?

 

被告・植松聖の鑑定留置が今年の2月20日に終了し、起訴されることになった。異例の5カ月を超える、長期にわたって、植松の責任能力の有無を調べる鑑定留置をおこなった結果は、「自己愛性パーソナリティ障害がみられるが、刑事責任能力はある」という結論だった。

 

検察は大麻や薬物による妄想性精神障害による犯行で、刑法39条による不起訴を企図していたが、鑑定留置結果を受け、24日、植松は起訴された。

 

検察がここまで植松を刑事責任能力を問えない、精神障害者認定にこだわったのには理由がある。

 

1つは、この事件が法廷で審理されるとき、2001年の大阪教育大学付属池田小学校事件(宅間守)、2008年の秋葉原通り魔事件(加藤智大)などの事件と違い、障害者に対する差別意識を根底に秘めた、差別的憎悪犯罪(ヘイトクライム)として裁かれることを恐れてのことである。植松自身が、刑法39条の「心神喪失による無罪」を衆議院議長・大島理森あての犯行予告手紙の中で主張していたことを忘れてはならない。

 

 

●検察は事件の思想的解明をしたくない・・・

 

2つめに、この凄惨な事件を精神に障害をもつ者による凶悪犯罪とすることで、精神障害者に対する差別意識を煽り、「まともで普通の人間」ではない者が犯した、特殊で例外的な事件として、犯罪の背景にある差別思想を闇に葬ろうとする狙いがある。

 

時事通信のネットニュースは次のように伝えている。

 

「事件当日に逮捕され、鑑定措置を経て起訴された元職員植松聖被告(27)の公判の見通しはついていない。植松被告は最近の取材に改めて障害者の安楽死を訴えるなど、殺害を正当化する考えに変化がないことが明らかになっている。」(時事通信2017年7月26日)

 

「横浜拘置所(横浜市港南区)に拘留中の植松被告は手紙で取材に応じ、『不幸がまん延している世界を変えることができればと考えた』と記した上で、『意思疎通ができない重度障害者は不幸をばらまく存在で、安楽死させるべきだ』と主張している。」

 

 

●障害者殺傷を「社会的正義の実行」と今も述べる被告

 

いっぽうで植松は、犠牲となった障害者の家族には、表面上、謝罪の言葉をのべるが、殺害し、負傷させた障害者本人に対しては、決して謝罪の言葉を述べない。

それは、自己の犯した行為を、社会正義の実行と信じているからだ。

事件当日、障害者施設の職員には危害を加えないことを明らかにしていることからも、植松が「正義の妄想」に憑りつかれ、「優性思想」を社会的に実現するため、重度障害者をねらった、確信的なヘイトクライム犯罪なのである。

 

さらにこの差別思想は、在日韓国・朝鮮人、アイヌ民族、琉球民族、被差別部落、LGBTに対するヘイトスピーチ(差別的憎悪煽動)と同質であり、被差別マイノリティすべてに向けられた刃と言わねばならない。

 

 

●事件の真相解明を早期にすすめるべき

 

しかし、裁判をめぐる厳しい情況も報道されている。

 

「横浜地検は2月、殺人や殺人未遂などの罪で植松被告を起訴。裁判員裁判での審理が予定されているが、横浜地裁での公判前整理手続きは始まっていない。弁護側が再鑑定を求める可能性もあるため、初公判が数年後となることもあり得る」

 

裁判を早期に開始させ、事件の真相を解明することは、障害者とともにすべての被差別マイノリティに対する差別と排外主義を許さない社会の実現へ向けた重要な闘いである。

 

 

今回、事件被害者を匿名報道することの問題と大規模障害者施設がもつ問題点には触れられなかったことをお断りしておきたい。

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