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第80回『朝日新聞』の人権感覚と『週刊ポスト』の差別表現
①朝日新聞の人権感覚
 朝日新聞(2013年2月12日「be」)の「逆風満帆」に女装家のミッツ・マングローブ氏が登場している。
 その記事の冒頭は、次のようなものだった。
「男の顔は履歴書である」。巧みに世相をとらえ、「一億総白痴化」「駅弁大学」などの造語を生み出した昭和のジャーナリスト、大宅壮一はそんな言葉を残した。それから時は流れ、社会も男女のあり方も大きく変わっている。もし、大宅が生きていたら、はたしてこの人の顔をどう評しただろう。
(『朝日新聞』2月12日[be])
 大宅壮一さんの創作した造語はいろいろあるが、なぜ、この文脈に「白痴」という差別を含んだ「一億総白痴化」という造語を記したのか。必要性も必然性もない。

 朝日新聞は、昨年2月1日付朝刊の「天声人語」のなかでも、“一億総白痴化”という言葉を「 」なしで使用し、抗議されている。何の社内的反省もなされていないことを、今回の記事は物語っている。連載の第29回「一億総白痴化」を再掲しておく。


第29回 一億総白痴化


 朝日新聞の2月1日(水)の“天声人語”の欄に、「戦争が終わると一億総懺悔。低俗テレビで一億総白痴化。……」という表現がある。
「一億総白痴化」とは、1950年代後半、爆発的に普及し始めたテレビが、人の想像力や思考力を低下させると批判した、社会評論家・大宅壮一氏の造語だ。
<テレビに至っては、紙芝居同様、否、紙芝居以下の白痴番組が毎日ずらりと列んでいる。ラジオ、テレビという最も進歩したマスコミ機関によって、『一億白痴化運動』が展開されていると言って好い。>
『週刊東京』1957年2月2日号‐大宅壮一
 この『一億白痴化運動』に「総」が付いて、「一億総白痴化」という言葉が一種の流行語となり、1970年代まで使用されていた。

 今回は、朝日新聞の顔とも言うべき“天声人語”で臆面もなく「一億総白痴化」という表現を使っているのだから、あきれるばかりだ。早速朝日の知人に連絡を取り、かつ、読者相談室にも電話を入れ、注意を促したものの、反応は今ひとつ。

「朝日新聞社用語幹事」発行の、『差別用語研究基礎資料―自制語・禁止語から使用例・糾弾例まで―』(1991年発行)の中にも、(2)<差別語の判断>の項、<C-1 精神・医療障害関係>に、「☆白痴=法律用語から追放された。新聞も同調している。」とある。

「白痴」という言葉は、
<もともとは知的障害者を外国語の直訳である「精神薄弱」と法律用語で表現し、その障害の“程度”に応じて「白痴」「痴愚」「魯鈍」「軽愚」などと差別的に呼称し、「動作の鈍い人」や、「頭の回転が悪い人」などを直接表現する言葉として使用されてきた歴史がある。>

 <知的障害は、おもに「知的能力の発達遅滞をしめす障害」とされている。かつては、「精神薄弱」と呼ばれ、子どもたちの間でも、「知恵遅れ」「ノータリン」などと侮辱的な言葉で呼称されてきた過去を持つ。2000年までは、法令においてさえ、重度知的障害を「白痴」、中度知的障害を「痴愚」、軽度知的障害を「魯鈍・軽愚」といった差別的な用語が使用されていたが、当事者やその家族などから、偏見を助長する呼称であるとの批判がなされ、現在は知的障害と呼ばれている。>
(『差別語・不快語』より抜粋)
 大宅氏がこの言葉を使用した時代からすでに半世紀が経つ。

 世界で、知的障害をもつ当事者やその家族が、ノーマライゼーションの理念を掲げて、差別と偏見を払拭する運動を展開しはじめたのは1960年代だ。にもかかわらず、日本の大手メディアが、知的障害者を貶める表現を安易に使用することは、言葉を生業とする職業人としての鈍感さを指摘されても仕方ない。もっと豊かな表現を紡ぎ出せないならば、カットするべきだろう。

②『週刊ポスト』の差別表現
 『週刊ポスト』(2013年3月8日号)の連載「宿命の子」(盪格孤著)で、笹川良一、陽平親子のハンセン病撲滅(同時にハンセン病者への差別撲滅)にかける信念を描いている。そのなかに、次のような一文がある。
「この文にもあるように、ナチスによるユダヤ人収容と日本におけるハンセン病者の収容は、有体にいえば民族浄化という幼稚で気違いじみた思想の一点においてひどく似ていた」
(『週刊ポスト』3月8日号 傍点筆者)
 ナチスの行ったホロコーストは、ヒトラーという「気違いじみた思想」を持った男の犯罪と言いたいのだろう。「気違い」→精神障害者も、ナチスによって大量虐殺されている。600万人のユダヤ人、50万人のロマ(「ジプシー」はロマ民族に対する蔑称)、そして20万人近い精神障害者や同性愛者がヒトラー率いるナチスドイツに虐殺されていることを理解しているなら、このような表現は使用すべきではない。せっかくの素晴らしい連載の価値を貶めていると言わざるを得ない。

 もとより、精神障害者も鉄格子のある病棟に隔離収容され、社会的差別を受けている被差別者である。

 作家は、往々にして差別的言葉や表現を、それと知らずに使用することがある。この文の差別性に気づかなかった「ポスト」編集部の責任は重いと指摘しておきたい。
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