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第79回 言論・報道の自由にかかわる憲法第21条改正問題 その3

■アメリカのヘイトスピーチ規制
 アメリカのような“表現の自由”を最大限尊重する国においても、人種的な憎悪、宗教的な理由による憎悪の煽動などのヘイトスピーチは「集団誹謗法」によって法的な罰を受ける。

 この「集団誹謗法」は、『専修法学論集 第96号』のなかで榎透(えのきとおる)氏(専修大学)が次のように書いている。

「集団誹謗法は、刑事罰を科すなどの手段を通じて集団に対する誹謗を禁止するために制定されたもので、表現の自由を重要視する米国においても差別的言論を抑制するために採用された。」
「このように米国でヘイト・スピーチが規制・抑制の対象と考えられるのは,マイノリティ保護などの視点もあろうが,さらにそうした表現が,①暴動を引き起こし平穏を害するか,②身体的危害や死に対する恐怖を与える意図を持ってなされた脅迫と評価できるか,③身体に対する暴力と評価できる場合である。」
(共に『専修法学論集 第96号』「米国におけるヘイト・スピーチ規制の背景」より)

 そして、榎氏は、このようなヘイトスピーチ規制には、立法事実の存在が必要であるとして、次のように論を締めくくっている。

「差別的表現が暴力・暴動の惹起を生むこと、または脅迫・暴力に当たることにかんする立法事実の存在が示されなければならない。そうでなければ,差別的表現に対する規制が正当化されるために、暴動惹起などとは全く別の立法事実の存在が必要である。差別的表現の規制に賛成する場合、これらについての説明が求められよう。」
(「米国におけるヘイト・スピーチ規制の背景」より)

 学者まかせではなく、被差別マイノリティ自らが差別事件(差別表現を含む)を告発し、立法事実をつきつけて、はじめて差別禁止法を克ちとることができるわけである。


■日本において、どうやってヘイトスピーチを規制するか
 しかし、現在日本が批准している国際条約を活用して、実効ある差別禁止法を目指す途(みち)もある。すなわち、人種差別撤廃条約や国際人権規約を、闘いの武器にするのである。

 たとえば、次のような指摘がある。人種差別撤廃条約の第4条(a)(b)を日本政府は留保している。しかし、(c)は留保していないため「(c) 政治的権利、特に、普通かつ平等の選挙に基づく選挙に投票及び立候補によって参加し、政府並びにすべての段階における公務の処理に参加し、公務に平等につく権利」を根拠にして、前都知事の石原慎太郎の度重なる差別煽動発言を追求できた、とすでに弁護士の師岡康子さんが提起している。

 もう一つ、師岡さんは否定的だが、日本が批准している国際人権B(自由権)規約20条2項に「差別、敵意又は暴力の扇動となる国民的、人種的又は宗教的憎悪の唱道は、法律で禁止する。」とある。

 内野正幸先生は、「日本はB(自由権)規約20条2項を受け入れた以上は、人種的憎悪の煽動などを非刑罰的な仕方であれ法的に禁止すべき」と述べている。

 加えて、「『国際人権条約の国内法的効力は原則として憲法より下であるが法令より上である』が、『確立された国際法規』(憲法98条)は、条例化されたものかどうかを問わず憲法より優位し、また憲法の解釈基準ともなりうる」としている。

 しかし、一方で、内野先生は、国際人権B(自由権)規約20条2項は、「確立された国際法規」とは言えないとしている。なお、日本国憲法第98条2項とは「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」のことである。


■「改正草案」で削除された97条とは
 ちなみに、今回の自民党「憲法改正草案」では、ここの変更はないが、驚くべきことに、その前の同じく第十章「最高法規」にある第97条が全文削除されている。

 削除された第97条とは「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」である。この条文を削除する意図は、どこにあるのだろうか。


 最後に、国際人権B(自由権)規約の第19条を記して終わりたい。

第十九条(表現の自由)
1) すべての者は、干渉されることなく意見を持つ権利を有する。


2) すべての者は、表現の自由についての権利を有する。この権利には、口頭、手書き若しくは印刷、芸術の形態又は自ら選択する他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。


3) 2の権利の行使には、特別の義務及び責任を伴う。したがって、この権利の行使については、一定の制限を課すことができる。ただし、その制限は、法律によって定められ、かつ、次の目的(下記(a)(b)―編集部注)のために必要とされるものに限る。


(a) 他の者の権利又は信用の尊重
(b) 国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護


 このように、国際人権規約の条文の中には、「公の秩序」という言葉が出てくる。一見、自民党の「改正草案」の「公の秩序」を思い起こさせるが、問題は「公」の内容であって、言葉ではない。

 注意を喚起したいのは、日本の憲法学界などが、“表現の自由”が内在している「他の者の権利又は信用の尊重」つまり他者の人権を傷つけ、人間の尊厳を冒涜するような行為(ヘイト・スピーチ)について、「話者の品格」とか「言論の自由市場」などとのたまっているスキに、自民党の改憲勢力は、“表現の自由”を、権力的に規制してきているのである。

 憲法21条の改悪を許さないためにも、人権侵害救済法などの差別規制法の立法化が、早急に求められている。

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