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第77回 言論・報道の自由にかかわる憲法第21条改正問題

 ■自民党改憲草案21条に加えられたもの
 自民党が2012年4月に決定した「日本国憲法改正草案」が、先の総選挙で自公両党が325議席を獲得したことで、現実味をおびてきている。

 国防軍の創設や「天賦人権説」の否定など、さまざまな問題点と危険性が指摘されている「改正草案」だが、とくに憲法第21条にある「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」から「これを」を外し、さらに第2項として、「前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」が付け加えられている。

 一見して、「公益及び公の秩序を害することを目的」が、かつての「破壊活動防止法」つまり“国家反逆罪”を想定したものと考えても、決して言いすぎではないだろう。(この問題については、自民党が昨年10月に出した「日本国憲法改正草案Q&A」の批判を含め、2013年2月4日付朝日新聞「私の視点」で日本雑誌協会編集倫理委員長で小学館顧問の山了吉さんが的確な批判をしているので、ぜひ読んでいただきたい)


■“法のために人がある”と発想する憲法学者
 今回問題にしたいのは、この憲法第21条(集会・結社・表現の自由・通信の秘密)を盾に、日本政府が人種差別撤廃条約の第4条(a)(b)項の「人種的優越又は憎悪に基づくあらゆる思想の流布」、「人種差別を煽動する行為」等に対して、処罰立法措置を義務づけることを留保していることについてである。すでに、この連載の74〜75回で、日本の憲法学者の大半がヘイトスピーチ(憎悪発言・差別発言)を禁止する法の必要性を「話者の品格」の問題、「思想の自由市場」にゆだねるべきとして、否定的であることは述べてきた。

 そして、その観点から、ほとんどすべての憲法学者が人種差別撤廃条約の第4条(a)(b)「人種的優越または憎悪に基づく思想の流布」の禁止を批准せずに留保したことを、評価しているのである。

 差別発言(ヘイトスピーチ)の問題について積極的な発言をしている内野正幸氏(中央大学)においてすら、次のように述べるのである。

差別的表現に対する法的規制といえば、なによりも人種差別撤廃条約第4条のことが思い起こされよう。それは、人種差別主義的な表現活動に対する刑罰的規制などにつき定めるものであり、いきすぎた厳しい規制を内容とする点で、表現の自由を手厚く保障する日本国憲法21条に適合しない、とみるべきであろう。実際、1995年、日本政府は、アメリカの場合と同様、問題条文である4条を留保した上で条約を批准したが、これは賢明な態度であったと評価すべきであろう。
(『表現・教育・宗教と人権』)

 これには私も正直、がっかりした。これでは、学問的整合性を現実の差別的実態より優位におく発想と言わなければならない。言い換えれば、“法が人のためにある”ではなく、“法のために人がある”という国家主義的な視点である。


 日本が欧米諸国から“人権赤字国”と言われて久しいが、学界にもその原因の一端があると言わねばならない。以下次号。

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