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第76回 馬名「ジプシー」

■いち競馬ファンとして考える馬名「ジプシー」
 現在中央競馬に限って言えば、馬名に「ジプシー」がついている馬が3頭いる。「ジプシーマイラブ」(馬主・社台レスホース)、「ジプシースウィング」(馬主・吉田勝己)、「メイショウジプシー」(馬主・松本好雄)。もう一頭、「ジプシーキング」という馬がいたが、昨年の秋に地方に転出している。

 なぜ競走馬の馬名の話かと思われるかも知れないが、この「連載 差別表現」の第一回をはじめ、くり返し書いているように「ジプシー」という差別的名称を競走馬につけることの是非について考えてみたいからである。

 1971年の第1回世界ロマ会議以降、ロマの人々は自らに対する差別的他称である「ジプシー」に代表されるさまざまな蔑視呼称を拒否し、自称である「ロマ」(あるいはスィンティなどの民族自称)の使用を要請する決議を採択している。

 一言でいうと、「差別する側が勝手に名づけた侮蔑的な言葉で呼ぶな、自称で呼べ」ということである。

 この問題について、差別表現に関心を持つ若い人たちに、中央競馬会に問題提起したらどうかと、ススメていたのだが、しり込みするので、昨年9月「JRA日本中央競馬会」と「公益社団法人日本軽種馬協会」に、いち競馬ファンの立場から、以下のような意見書を送付した。

前略
私はいち競馬ファンとして、馬名の問題について意見を述べたく思い、手紙を出しました。
現在、中央競馬関係の競走馬の中に、四頭「ジプシー」というロマ民族に対する差別的な他称をつけた馬がいます。
「ジプシーマイラブ」、「ジプシーキング」、「ジプシースウィング」、「メイショウジプシー」の四頭ですが、別紙資料を参照にしていただければ御理解いただけると思いますが、この「ジプシー」という言葉は、ロマ民族に対する蔑称であり、馬名にはふさわしくなく、早急に変更されることを要請します。
別紙資料を参照の上、返答をお待ちしています。


小林健治

■競馬団体からの回答
 資料には、この「連載 差別表現」上で「ジプシー」表記問題について書いた文書を中心に、添付していた。

 各々の団体から返事がきたが、馬名登録の権限は「ジャパン・スタッドブック・インターナショナル(JAIRS)」という団体が、中央馬・地方馬を問わず、国内すべての業務を行なっているので、そちらと話してほしいとのことだった。「JRA日本中央競馬会」からは、その上、要請文と資料を「JAIRS」に転送し、「資料の内容を尊重するように意見を伝えました」と付言されていた。

 2012年10月9日、「JAIRS」より、次のような内容の正式回答書が送られてきた。



平成24年10月9日

株式会社 にんげん出版
代表取締役 小林 健治 殿

公益財団法人 ジャパン・スタッドブック・インターナショナル
理事長 滝澤 勇


 日本中央競馬会(JRA)に貴殿が送付されました資料につき、JRAより受け取り、拝見いたしました。


 本財団は、「ジプシー」という言葉を辞書に記載された意味等に則して理解しておりました。また、「ジプシー」と付く馬名申請を受けた場合、申請された意味由来が明らかに侮蔑的な意味が含まれていないと思料される場合に馬名の登録をしておりました。
 今回の貴殿からの資料を伴う指摘を受け、本財団は、「ジプシー」という言葉に対する認識を深くするに至りました。今後はご指摘の内容を尊重し、申請馬名に「ジプシー」の表記があった場合は登録しない方向で対応したいと考えております。貴重なご意見に対して感謝いたしております。
 なお、競走馬の馬名の変更は、本財団馬名登録実施基準第6条第2項第2号により、一度競走に出走いたしますと馬名の変更ができないことが規定されております。また、中央競馬の施行団体である日本中央競馬会においても同様の規定があり、日本中央競馬会競馬施行規程第26条第1項により、一度競走に出走しますと馬名の変更ができないことが規定されております。
 「競走に出走した馬名については変更できない」ことは競馬の施行・生産にあたっての基本原則の一つであり、その馬の生涯における情報を一元的に把握する方法(「一馬一馬名」)として近代競馬においては世界各国でも用いられているものです。これにより混乱なく、一頭の競走馬について競馬・生産・競走成績・血統等の障害に亘る情報を競馬の施行・生産に携わる者や競馬ファン等が把握しているところです。
 以上、ご理解を賜ります様お願い申し上げます。




 この回答書で、一応、馬名「ジプシー」問題は解決したが、回答書にもあるように、現役の競走馬についての馬名変更は難しいとのことだ。


■馬に責任はない、問われるのは馬主の品格
 先週の日曜日、東京第3Rに「ジプシースウィング」が出走したのは、この規定による。初出走が、問題提起する前の8月11日の新潟の新馬戦だったので、この馬が最後の「ジプシー」の名を持つ競走馬ということになる。

 指摘した内容については、本連載の関係回(第1,2,17,43,56回)を読んでいただければわかるが、一つは1901年9月日本で最初に「ジプシー」が新聞に載ったときの表記が「総勢50余人のヂプシー一隊」は「西洋の穢多」と表記されていたこと。二つ目は、「ジプシー○○」という馬名では、フランスの凱旋門賞への出走はかなわないだろうし、JRA日本中央競馬協会が、人権意識の低い団体と見なされ恥をかくだろうというものである。(フランスは、2004年に差別防止機構設置法、2008年に差別禁止法を制定し、民族または人種による差別を禁じている。)

 さきの「ジプシースウィング」は、単勝4.8倍の2番人気に支持されたが、着外に去った。私も馬券を買っていたが、不的中に終わった。決して馬自身が悪いわけではない、馬名をつけた馬主に品格がないのである。次回の激走を期待したい。

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