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第71回 身元調査について考える
 東京都部落解放研究所が発行している『すいへい・東京』という紀要がある。

 その第38号(2012年10月31日発行)に、「後を絶たない戸籍謄本などの不正請求―その背景と課題」(長谷川三郎)と「部落差別・弾左衛門・浅草―出版された古地図の「穢多村」記載をめぐって」(吉田勉)の二つの論文が載っている。

■『部落地名総鑑』とアイビー・リック事件
 前者は、雑誌『部落解放』(2012年11月号)に載った「浮き彫りになった身元調査の裏ネットワーク―プライム事件の経過と課題」(片岡明幸)と同じ内容を扱っているが、いずれも結婚や就職に際しての身元調査(戸籍謄本等の不正取得)の巨大な裏ネットワークが存在し、マーケットとして成り立っていることを明らかにしている。

 かつて、探偵社や興信所が就職時の身元調査を行なっていることが発覚し、大規模な糾弾闘争として、部落解放同盟が取り組んできた事件がある。

 1998年の(株)日本アイビーと、その子会社であるリック(株)が多くの企業(1400社近く)から、採用調査(採用対象者が被差別部落出身者であるかどうかの調査)を行なっていたことが内部告発で明らかになり、解放同盟の大阪府連と中央本部が取り組んだ、就職に関する部落差別身元調査糾弾史上、最大で最悪の事件がそれだ。

 この事件以前より、同様の身元調査は、陰湿かつ広範に行なわれており、実際に採用が不可になった例が多くある。

 この事件の前史には、1975年にその存在が明らかになった、いわゆる『部落地名総鑑』事件がある。『部落地名総鑑』とは、全国の被差別部落の住所などが一覧のかたちで記された差別図書のことで、東京・大阪の大企業を含む数百社の人事担当者が、五万円以上もするこの本をひそかに購入していたことが発覚し、経済界をゆるがす大糾弾闘争となった。

 このような身元調査による就職・採用差別禁止を求める部落解放同盟の取り組みは、大阪の「部落差別身元調査規制条例(大阪府部落差別事象に係る調査等の規制等に関する条例 1985年公布、2011年改正)」を嚆矢として、全国で条例化する自治体が増えている。

■身元調査を行なう理由
 観点を変えて、なぜ身元調査をするのかという視点から考えれば、そこには、明確な部落差別意識が見てとれる。被差別部落出身者を「見分ける」すべが難しい――だからこそ、身元調査が行なわれた――ということがある。つまり、他の差別問題と違い、“表象”の差異が判別しにくいというところに、部落差別の一つの特徴があるからだ。

 このことについては、すでに第69回などで述べているので、これ以上は記さないが、探偵社、興信所が結婚や就職に際して行なう、差別的身元調査の手法は、お寺の過去帳(今、NHKの「鶴瓶の家族に乾杯」が、このことで解放同盟から抗議を受けている)や1872(明治5)年に編纂された「壬申戸籍」(戸籍の欄に「元穢多」や「新平民」と記されていた)をもとに、「身元」を割り出していたことから、「過去帳」や「壬申戸籍」は、部落解放運動の抗議運動のなかで、1970年には閲覧禁止となっている。

 しかし、弁護士や司法書士、行政書士などの8職種に関しては、「職務上必要」ということで、法的な手続きによる取得が、例外として認められてきたのである。今問題となっている司法書士等による戸籍謄本不正請求事件(いわゆるプライム事件)は、実はすでに20年前から行なわれていたのであり、そのたびに解放同盟は抗議を行なってきている。しかし、行政や警察も積極的な取り組み姿勢を見せなかった歴史的経緯がある。

 ところが、今回のプライム事件は、日本最大のヤクザ組織山口組六代目の出身団体、名古
屋の弘道会系組員が愛知県警の捜査官の身元調査を行い、捜査官の家族に危害を加えようとする電話がかかってきたことから発覚したもの。この事件は、新聞各紙にも大きく報道されたが、それ以前から結婚や就職などでの身元調査は、ひそかにかつ広範に行なわれていることは、解放同盟の調査でもあきらかになっていた事実であり、忘れてはならない。警察も、今回は自らのことなので、本気で取り組んだというのが真相だが、過去20年、ほとんど解放同盟の抗議に耳を傾けなかったことを、まず反省すべきだろう。

 冒頭に挙げた二つ目の「古地図」に関する問題は、次回記述する。
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