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第60回 精神障害者差別と部落差別―出版物に見る最近の差別事件

 最近、二つの出版物の表現に関わる差別事件があった。ひとつは雑誌『プレジデント』(プレジデント社)7月16日号の編集後記に記された内容について。もうひとつは、かみゆ歴史編集部編の『大江戸今昔マップ』と佐々悦久編著の新人物文庫『大江戸古地図散歩』(ともに新人物往来社)に記載された地図についてだ。


■ビジネス誌『プレジデント』の精神障害者差別
 『プレジデント』の編集後記には、次のように記されていた。

 厚生労働省が今年7月24日、新たに精神障害者の雇用を企業に義務付ける方針を決めたことを受けて、同誌のコラム「編集長から」で「『幻覚を見て、何を言っているかわからない』人と一緒にどうやって仕事をするのでしょう」と書いた。

 これに対し、日本精神科病院協会などの団体が「統合失調症の急性期症状の一部だけを取り上げた極めて偏った説明」「精神障害者の社会復帰の道を閉ざし、路頭に迷わせかねない」と激しく批判し、記事の訂正と謝罪文の掲載を求め、発行元のプレジデント社に抗議した。

 プレジデント社は8月6日付で、以下のような謝罪文を掲載した。

関係各位
弊社プレジデント誌2012年7月16日号の編集後記の内容につきまして、精神障害に関して誤解を招く不適切な表現があり、そのことについて社団法人 日本精神保健福祉士協会、一般社団法人 日本精神保健福祉事業連合、公益社団法人 全国精神保健福祉会連合会、公益社団法人 日本精神科病院協会からもご指摘を頂戴しました。

 関係者の皆様に不快な思いを与えてしまいましたことを深くお詫び申し上げます。

株式会社プレジデント社
(引用:http://www.president.co.jp/pre/information/24416/


 障害者雇用促進法と今回の改正案の主旨を理解していないプレジデント社の編集長だが、同社がその名称で示しているように、大手企業を読者対象としていることを考えれば、これは一人、プレジデント社の考えというより、多くの大手企業の気持ちを代弁したものと言えるだろう。

 それはまた、「自己責任」:「自己負担」をスローガンに競争社会を善とする新自由主義(新帝国主義)的な社会的風潮に組する姿勢と言える。

 参考までに、『差別語・不快語』から引用して、改正以前の状況を示しておきたい。

障害者問題で重要なことは、一般に、労働者の権利が、「働く者の権利」であるのに対し、障害者のそれが「働く権利」に重点があるということです。その点、障害者は、スタート地点において、ハンディを負っています。1960年に制定され、その後改正が重ねられた「障害者雇用促進法」は、常用労働者数56人以上の民間企業や特殊法人(48人以上)・国・地方公共団体(48〜56人以上)には、一定の割合(1.8%〜2.1%)で、障害者の雇用を義務づけています。

ちなみに、従業員5000人以上の企業のなかで、障害者雇用率のトップ5は以下の企業です。

① ユニクロ…8.06%(衣料品)

② エームサービス…5.67%(給食事業)

③ すかいらーく…2.86%(レストランチェーン)

④ オムロン…2.81%(電子機器)

⑤ パナソニックエレクトロニックデバイス…2.80%(電子部品製造)

ちなみに、6位はNTT西日本九州…2.66%、7位は日本たばこ産業…2.52%
(2008年6月企業報告による)

■『大江戸今昔マップ』『大江戸古地図散歩』の部落差別
 この問題は、古くは1984年に朝日新聞出版局が発行した『週刊朝日百科 世界の地理』49・50号の神戸市と高知市の古地図に「穢多村」「エタムラ」等の記述がそのまま注釈や配慮もなく記載されていると、部落解放同盟および行政当局が抗議し、朝日新聞は回収し、謝罪文を提出した事件をはじめ、多くの前例がある。

 今回の事件については、解放同盟東京都連合会が抗議を行なっている。解放新聞東京版に「古地図と現代地図を重ね合わせて被差別部落を特定する書籍を出版」と題する記事が掲載されているので、引用しておきたい。
「古地図と現代地図を重ね合わせて被差別部落を特定する書籍を出版」
「穢多村」表記のある古地図と現代地図を重ね合わせることができる書籍が出版、販売されてきたことが昨年明らかになった。書籍のタイトルは、『大江戸古地図散歩(文庫版)』と『大江戸今昔マップ』。文庫版は昨年2月に初版発行し4万5千部以上、また書籍版は昨年9月に初版発行され1万4千部以上発行されている。『大江戸今昔マップ』は、尾張屋版切絵図(嘉永2年、1849年発行:穴八幡宮所蔵)、いわゆる江戸古地図30点を掲載し、道路、名所、史跡、町名等を記載した現代の地図をトレッシングペーパーに記載し、古地図(切絵図)に重ねることで、「切絵図をもとに現代を歩ける」という「お江戸歴史ガイド」を意図し出版されたものである。
この切絵図の一枚に「穢多村」と表記されたものがあり、現代地図上には名所一箇所と町名が記載されている。
古地図を現代地図と重ね合わせることで、容易に被差別部落を特定でき、しかも、その古地図上を散歩することで、あるいは他の情報とすり合わせることで、被差別部落の住民個々人さえ特定される。現実に土地差別調査事件や戸籍謄本不正取得事件などにみられるように差別身元調査が後を絶たない中、しかも、差別した者を規制する法整備も整っていない中で、被差別部落の所在地をこのような「大衆的娯楽本」で公表するということは、差別を助長するといわざるを得ない。
現在、この件について発行者である出版社と話し合いを続けている。

(『解放新聞 東京版』2012年9月15日)
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