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第58回 サスペンス映画宣伝の「サイコパス」
■診断名ではない「サイコパス」
 映画『悪の教典』(配給:東宝)のHPの内容と宣伝の仕方が、誤った理解によって障害者差別(精神障害者)を助長している。この映画は、貴志祐介原作『悪の教典』(文藝春秋)を映画化したもので、11月に封切りされるという。

 そのパブリシティ(内容紹介及び宣伝)の中に「サイコパス(反社会性人格障害)」として大々的に喧伝しているが、正確な医学知識にもとづかない、極めて差別的な内容となっている。

 まず指摘しておかなければならないのは、「サイコパス(psychopath)」という言葉は、現在、医学用語としては使用されていないということだ。

 管理職検定「差別語・不快語 認識度テスト」の「サイコパス」の項目の解説では、以下のように述べている。

【解説】 ヒッチコックの映画『サイコ』、ハンニバルが登場する『羊たちの沈黙』や小説・日常会話のなかで「サイコパス」は、「変質者」「異常者」「快楽殺人者」の意味で使われている。一方、医学的用語として「Psychopath サイコパス」は、現在、用いられていない。アメリカ精神医学界(DSM)において、統合失調症などの精神障害とは別に、精神病質(通称サイコパス)として類型されてきた診断名(personality disorder)を、日本では「性格異常」「人格障害」という訳語をあててきた。しかし、そもそも人格を「異常」と呼称することに疑問が出され、2003年のDSM-犬遼訳新訂版以降、パーソナリティ障害と呼ばれることになった。

 この日本における呼称変更は、「Schizophrenie」の訳語「精神分裂病」が「統合失調症」へ変わったときに行なわれている。いずれの場合も、変更の理由に日本語訳の持つ不確定で差別的な病名が、社会的な精神障害者差別を助長する点をあげている。
 このような呼称変更は、「痴呆症」から「認知症」へ、また「精神病院」から「精神科医院」への流れと軌を一にしている。
 つまり、「サイコパス」は医学的診断名ではなく、差別的俗称であり、「サイコパス=反社会性人格障害」とするのは、まったくの誤りである。
 著者の貴志氏は、文藝春秋の著者インタビューのなかで、『悪の教典』主人公・蓮実の行動のラストシーンについて、以下のように語っている。

貴志 あれを皮肉と感じる人は、とてもまともな感性を持っていると思います。でも仮にサイコパスと言われるような人がこの小説を読んだら、蓮実の行動はたぶん当たり前の選択だと考えるはずです。彼らはオポチュニストなわけですから、利用できるものは何でも利用する。蓮実同様、自分だってそうするだろうと考える。むしろそうでなかったら、「なぜその状況を使わないのだろう?」という感想をもつでしょう。

 このように述べているが、貴志氏は「サイコパス」と言われる人のことを、どこで学び、知ったのか教えてもらいたい。彼が想定している「サイコパス」とは、一体だれのことなのか。
 また、「蓮実に矯正可能なタイミングはあったんでしょうか。」という問いに関して、次のような答えを平然と述べている。

貴志 矯正という言葉の定義によりますね。普通の人間にするのは無理でしょう。元から欠落したものがありますから。けれども、ひょっとしたら条件さえ整えば平穏な人生を送るように誘導することはできたかもしれない、と思いますね。

(貴志氏の発言は共に 
http://bunshun.jp/pick-up/akunokyouten/interview/index.html参照)

 ここで言われる普通の人とは、何かの拍子にキレたり、暴れたりすることがまったくない人のようだが、それこそ非現実的だろう。

■「サイコパス(反社会性人格障害)」という表現の問題点
 サイコパスは、小説や映画のなかでしばしば「残虐行為そのものを楽しむ殺人鬼であり、変質者・精神病質者」をさす語として使われているが、この言葉は、医学的診断名でもなく、かつて精神障害者家族連から「サイコパス」を乱用することは“精神障害者は危険”という予断と偏見を助長する」として、実際に出版社が抗議を受けた事例がある。

 また、「反社会性人格障害」(反社会性パーソナリティ障害)は、現在、アメリカ精神医学会の精神障害分類(DSM--TR)の人格障害の一類型とされ、およそ下記のように定義されている。
「小児期または青年前期に始まり、成人期まで続く無責任で反社会的な行動パターンを示す。小児期には人や動物に対する暴力行動、万引き等の窃盗、虚言、それからしばしば学校に遅刻、無断欠席をするなどの行為がくり返し見られる。成人期は易怒的、攻撃的で、自分の利益のために嘘をついたり、喧嘩や暴行などをくり返し、また家族や職場に対して一貫して無責任であるなどの行動が見られる」

 また、WHO(世界保健機構)の定義「ICD-10:国際疾病分類」では、非社会的人格障害(dissocial personality disorder 直接には社会の迷惑にならない者)を、ドイツ語圏では「情性欠如者や社会の敵など精神病質者に相当する人々である」としている。

 つまり、「サイコパス(反社会性人格障害)」として、サイコパス=反社会性人格障害と結びつけることは、「サイコパスは反社会性人格障害であり精神障害者なのだ」というくくりで見、精神障害者は危険で、他人にどんな危害を加えるかわからないから放置してはならないという、精神障害者に対する予断と偏見と拡大するものである。

 しかも、映画の宣伝内容では、「反社会性人格障害」を「生まれながら」と記述しており、生まれたときからそのような気質を持っている者がおり、危険だから隔離・収容の対象としてよいとする保安処分的な発想を助長する。

 医学的裏づけのない俗称である「サイコパス」を、あたかも精神障害の一疾患をあらわす言葉としてもちいることも問題であるし、それを「パーソナリティ障害(人格障害)」という診断名と結びつけることも誤解を招く。

 精神的にも肉体的にも疲労しやすく、生きづらさを抱えて、ときには幻聴などと闘いつつ呻吟している精神障害者当事者に「危険な人」「怖い人」とレッテルと貼る行為は、社会的に断罪されても、当然であろう。
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