最新連載記事
カテゴリー
月別

記事検索
<< 第55回 宗教的文化を大切に | 最新 | 第57回 「日本生態系協会」会長の差別発言 >>
第56回 犯罪報道の中で語られるロマ民族
『週刊文春』(8月30日号)のグラビアで、先日ルーマニアの首都ブカレスト郊外で殺害された、日本人女子大生のことを取り上げている。逮捕された犯人について、記事は現地に住む日本人の話として次のように書いている。

「プラド(犯人)は『ロマ』と呼ばれる民族です。空港周辺では旅行者をカモに詐欺まがいのことをする輩も多い」(『週刊文春』)

 本来なら「ジプシー」と表記したかったのだろうが、「ジプシー」は差別語だからロマ民族の自称である「ロマ」という言葉を選んだのであろう。しかし、過去に何度も書いているように、この文脈上で「ロマ」と表記しようと「ジプシー」と表記しようと、表現における差別性にはなんの違いもない。

 つまり、差別語でない民族自称の「ロマ」と使った差別表現か、差別語である「ジプシー」を使った差別表現かの差があるだけである。

 問題は、なぜ殺人などの犯罪とロマ民族をわざわざ結びつけて表現するのかという点にある。

 過去「ジプシー(ロマ)」を犯罪者集団のごとくみなし、欧州旅行の際に「ジプシーの人たちには注意
してください。盗難にはご注意を」と、添乗員が語った大手旅行代理店が抗議を受けたことなど、ほんの一例にすぎない。(くわしくは『差別語・不快語』P178〜参照)

 犯罪を行なう人間はどの民族にも存在する。なぜあえてロマ民族だけをわざわざ取り上げて、記載
するのか。

 これは、別に犯人の「プラド」がロマ民族であるという裏付けが取れているか、つまり事実かどうかの問題ではない。欧州で、とくにルーマニアにおいて、ロマ民族に対する極めて厳しい社会的差別の実態を知っていて、このような表現を行なったとすれば、差別を助長するジャーナリズムの烙印を押されてもやむを得ない。

 ナチスドイツがユダヤ人600万人を虐殺したことは広く知られているが、同時にロマ民族も50万人殺害されていることを忘れてはならない。

 なぜロマ民族という社会的属性を犯罪と結びつけたのか、この点を内省し、自己の持つ差別意識に気づかない限り、差別問題(人権問題)は理解できない。

 来週号にでも“おわびと訂正”記事を載せるべきだと思う。
| 連載差別表現 |