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第45回 南アフリカの女子陸上・セメンヤ選手―女性・性的マイノリティの人権とオリンピック
 先日、NHK BSの深夜ドキュメンタリー番組が、南アフリカ共和国の女子陸上競技選手、キャスター・セメンヤ(1991年生まれ)の特集を放送していた。

 2009年ベルリン世界陸上の女子800mで、2位を2秒近く引き離して、圧倒的強さで金メダルに輝いた選手だ。

 しかし、その後、そのあまりの強さ(速さ)と体つきや外見が男性的(筋肉質な体格、低い声)だとの理由で、性別疑惑が持ち上がり、国際陸上競技連盟(IAAF)が医学的な調査を始めたと、新聞やテレビで報じられた。

 そのとき、南アフリカ共和国のメディアは、こぞって反発し、与党のアフリカ民族会議に至っては、「『疑惑』は帝国主義者の度量のなさの証明」という声明を出し、疑問視する人びとを非難した。

 マスコミの報じるところによれば、セメンヤ選手は「インターセックス(両性具有)」ということだが、IAAFは「人為的なものではないため、セメンヤ選手の金メダルが剥奪される可能性はない」とし、2009年11月に開かれたIAAFの理事会で、正式にセメンヤ選手の金メダルを確定させ、性別検査(セックスチェック)の結果は公表しないと発表した。
 さらに2010年7月、IAAFは、セメンヤ選手の女性としての競技復帰を認めることを公式に発表した。

 その背景には、セメンヤ選手側の弁護士の10ヶ月におよぶIAAFとの交渉があった。

 NHK BSは、この間の事情を簡潔にまとめて放送したもの。2011年8月に韓国の大邱(テグ)で開かれた、世界陸上女子800mで、セメンヤ選手は2位に入っている。

 性別検査(セックスチェック)によりインターセックス(両性具有)と判明した多くの女子選手が、記録を抹消され、以後、出場の機会を奪われてきた過去がある。

 記録と名誉は剥奪されなかったが、のちにインターセックスとわかった著名なメダリストに、1932年ロサンゼルスオリンピック女子100mで金、1936年ベルリンオリンピック女子100mで銀をとった、スタニスラワ・ワラシェビッチ(ポーランド)選手がいる。

 1972年のミュンヘンオリンピックから性別検査が行われるようになるが、当時はその行為自体が女性の人権を蹂躙するものであるという自覚はなく、もっと言えば、性的マイノリティの人権侵害であるという認識も当然なかったといえる。事実、1992年までは、性別検査によりインターセックスと判明した場合、オリンピックに出場できなかったのである。

 しかしながら、オリンピック憲章は次のように謳っている。
スポーツを行うことは人権の一つである。各個人はスポーツを行う機会を与えられなければならない。…(中略)…そしていかなる種類の差別もなく、与えられるべきである。

人種、宗教、政治、性別、その他の理由に基づく国や個人に対する差別はいかなる形であれオリンピック・ムーブメントに属する事とは相容れない。

(ともに「オリンピズムの根本原則」より)
 また、国際陸上競技連盟憲章も、第三条 目的のい如⊆,里茲Δ傍定している。
(IAAF の目的は、)陸上競技において、性別、人種、宗教、政治またはその他の種類の不公平な差別がいかなる形態でも存在せず、存在を続けず、また拡大しないように、真剣に努力し、かつ性別、人種、宗教、政治的な見方またはその他のあらゆる不適切な要素に関係なく、すべての人が陸上競技に参加できるように、真剣に努力すること。
 IAAFの内部からも女性選手に対する性別検査は、人権上問題があるとの強い意見も出され、ついにロンドンオリンピックから女性選手に対する性別検査が取りやめになった。

 憲章に則った対応がとられるのは当然のことだが、過去に性別検査によって記録を抹消され、出場の機会を奪われたアスリートに対する謝罪と名誉回復を早急に行うべきだ。

 今年7月27日から始まるロンドンオリンピック女子800mには期待していいだろう。

 差別者、石原慎太郎都知事が、凝りもせず東京へのオリンピック招致を画策しているが、その精神においてオリンピック憲章と相容れない。悔い改めないかぎり、開催都市に選ばれることはないだろう。
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