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第44回 “日本映画専門チャンネル”の人権への配慮に向けた取り組み
 CSやBSの多チャンネル化で、各局も個性的で特色のある番組作りをせまられている。

 しかし、ソフトの映像制作には、時間も金もかかるということで、日本の古いドラマや映画、また韓国をはじめ海外からの輸入物に頼っているのが現状だ。

 今回取り上げる“日本映画専門チャンネル”は、CS、BSで見ることができるが、その特色は名前からもわかるように、日本名画の専門局である。しかも、全作品に日本語の字幕をつけているという点において、出色のものといえる。超高齢化社会となった現在の日本では、先天的な聴覚障害者に限らず、耳の不自由な人が増えている。そこで、邦画にあえて日本語の字幕スーパーをつけているのだが、まさに2006年に国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約」の精神に合致した社会的な「合理的配慮」のひとつとして賞賛できる。

 今回なによりも、強調したいのは「座頭市」シリーズを放映する前に、作品の持つ時代的制約からくる差別性について、きちんとした「お断り書き」をつけたことである。
 「座頭市」シリーズの前に、同じ勝新太郎主演の「兵隊やくざ」シリーズが放映されていたが、そのときには放映前に単に次のような文書がついただけだった。
「原作者、製作者の意図等を尊重し、オリジナルのまま放送いたします」
 しかも、わずか2〜3秒の免罪符的な告知ですませていた。

 作中のどの表現が差別的なのかの指摘もなく、なぜそういう表現をそのまま放送するかも説明していない。これでは、断り書きをあえて文字にする意味がない。

 2012年3月9日、あるテレビ局で「差別語・不快語」の講演を行ったとき、この点を強く批判した。このとき、たまたま“日本映画専門チャンネル”の編成業務推進部長も聴講されていた。

 講演終了後にその方と少し話をしたが、私からの問題提起に対する熱意を感じた。

 それが、以下に記す内容となって、「座頭市」放映の前に約60秒大きな文字で掲示され、しかも低い声で読みあげられることになった。
これからご覧いただく映画「座頭市」シリーズは、劇中、視覚障害を持つ方々に対して一部差別的な表現が含まれております。

放送により、このような表現を不快に感じられる皆様には、お詫び申し上げます。

「座頭市」シリーズは、目の不自由な主人公が、そのハンデを逆手に取り、晴眼者を凌ぐ活躍をする、というテーマに貫かれている作品です。

しかし、映画制作当時の人権意識は、現代とは大きく異なり、差別的な表現に対する配慮に著しく欠けていました。

私たちは、これらの表現を決して肯定するものではありませんが、製作者の意図を尊重し、また作品を改変することなく放送するというのが、当チャンネルのスタンスであり、それに則って本作をオリジナルのままお送りいたします。
視聴者の皆様にはご理解のうえ、ご覧いただきますようお願い申し上げます。
 このような積極的な取り組みが、他チャンネルにも波及してほしいと願う。
| 連載差別表現 |