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第43回 再び「ジプシー」という呼称について
 この連載の第1回目と第2回目に『原発シプシー』という書物のタイトルについて見解を述べた。その後も折にふれて、新聞や雑誌などに散見される「ジプシー」表記について、苦言を呈してきたが、いまだに無批判的に「ジプシー」を「ロマ」を直接意味する場合を含め、比喩的にも使用する例があとをたたない。

 つい最近気づいたのだが、中央競馬に「ジプシーマイラブ」と「メイショウジプシー」という名の競走馬がいる。(他にもいるかも知れないが……)

 いずれも3歳未勝利馬だが、後者の馬は、3着、2着と惜しい競馬がつづいているが、順調に行けば特別レースに出走する可能性を持つ。昨今、日本の競走馬の能力も向上し、競馬の最高峰フランス凱旋門賞に毎年出走して、好成績をおさめるまでになっている。

 はたして「メイショウジプシー」「ジプシーマイラブ」という馬名で、フランスをはじめ欧米諸国が出走を認めるかどうか、中央競馬会は考えたことがあるのだろうか。

 先進国で人種差別禁止法(差別禁止法)が立法化されていないのは、日本だけである。日本が人権後進国と言われるゆえんだが、早急に馬名について、再検討すべきと中央競馬会に言っておきたい。

 財団法人日本軽種馬登録協会馬名登録実施基準(改正平成20 年 5 月23 日規約第2号)の(馬名登録)(審査基準)という項目には、次のような規定がある。
(6)奇きょうな馬名
ア 馬名としてふさわしくない馬名
イ 著名な人物等の名称と同じ馬名ただし、歴史的に一般化している場合又は愛称若しくは名のみの場合は認めることがある。
ウ 公序良俗に反する馬名又は侮辱的とみなすことのできる馬名
 そして、馬名は(馬名の変更又は取り消し)の項で、馬名審査会で変更することができると決められている。すでに何度か記しているが、1901年9月、日本に初めて「ジプシー」の一行が長崎にやってきたときの新聞記事には「総勢50余人のヂプシー一隊」は「西洋の穢多」と表記されていたことを忘れてはならない。

 つまり「メイショウジプシー」とは「メイショウエタ」であり「ジプシーマイラブ」は「エタマイラブ」でもあるのだ。

 差別の実態をともなう他称を使用した、充分に“屈辱的な馬名”である。

 最後に、反差別国際運動事務局次長の金子マーティン氏の今年2月25日の講演からの一説を引いて、この回を終わりとしたい。

 金子氏は、講演の冒頭で日本においてロマ民族への関心が希薄であることを指摘している。
集団として日本国に定住していない未知のロマ民族に対する日本国民の関心は一般的に希薄であるため、最初にいくつかの基礎情報を紹介する。

「ジプシー」「ツィゴイナー」「ヒターノ」など雑多な他称で呼ばれ、ロマニ語という言語をはじめとする独自の文化を保持する推定1200万人を数える欧州連合(EU)最大の少数民族の自称がロマである。

ロマは、1971年ごろから国際的な人権活動をはじめた。1971年4月にロンドンで開催された〈世界ロマ会議〉は、「ジプシー、ツィゴイナー、ヒターノなど、すべてのロマニ語起源でない人種主義的なレッテルをわれわれは厳しく非難する」と決議した。ロマは独自の国家を持たないが、ロマの旗、さらに、ロマの歌もその会議で決められた。それから、40年も経過したが、差別語でもある「ジプシー」などの他称は、多くの国々で現在も使われつづけられている。例えば、2010年12月から翌年4月までの5カ月間ほどのあいだに、書名に「シプシー」の語を冠した日本語図書が3冊も刊行された。当事者が拒絶する差別語が堂々と使われているのである。

(『解放新聞 広島県版』2012年5月5日発行より)
 そうして、ロマは第二次世界大戦ではユダヤ人と同じ一方的な理由でナチスによって大量虐殺された人びとであり、EU圏内ではいまなおロマに対する襲撃にまで発展するような暴力的差別事件が続発していると語った。とくに、フランスではロマ排斥運動が強まり、政府は2010年4月から同年末までに国内から約13000人のロマを強制追放しているという。

 さらに、金子氏はこうした事実を日本のマスコミはきちんと報道していないと憤りをあらわにしている。

 ロマへの差別は実態をともなっていまなお続いている。それを知らずに「ジプシー」という差別的他称を安易に使うことは、許されることではない。
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