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第99回 スポーツ界の人種差別―サッカー中村祐輝選手の退団
■世界に羽ばたく日本選手への人種差別
 サッカーの中村祐輝選手が、所属していたスロバキア2部リーグのMSKリマフスカ・ソバタを昨年9月に退団した経緯を自身のブログであきらかにし、論議を呼んでいる。

 チームをやめた理由に、所属チームのサポーターや選手の一部から人種差別的な嫌がらせを受けていたこと、それに対し所属クラブの支援もなく、やむなく退団に至ったという。

 なぜスポーツマンとして人種差別という理不尽に、厳然と立ち向かわなかったのか、という声もあるが、神戸大学の小笠原博毅准教授は、この件について次のように述べている。
 日本代表GKでベルギーのスタンダール・リエージュに所属する川島永嗣選手は、中村選手の事件に関連して「日本人選手はもっと強くなるべきだ」と述べた。勇気を持って理不尽さに立ち向かって欲しいという叱咤(しった)激励に、長い海外生活の経験を持つ私も賛同する。一方で、被害者の精神的な強さと人種差別の問題を結びつけるべきではない。差別を克服できるかどうかという被害者側の精神性に論点を置くと、まるで差別に耐えられない人に差別の原因があるかのような誤解を生むからだ。
 中村選手がスロバキア・サッカー協会や欧州サッカー連盟、国際サッカー連盟といったサッカーの公的機関に訴え、プレーする権利を主張しなかったことは残念だ。もし訴えていたら、機構側の人種差別への態度が明らかになっていただろう。
 サッカーに関する人種差別としては、日本人は被害者だけではない。2009年7月、東京ヴェルディの黒人選手は、ヴァンフォーレ甲府の選手から試合中に人種差別的な発言を受けたと告発したが、Jリーグの聞き取り調査では事実解明には至らなかった。
 中村を退団に追い込んだスロバキアのリーグとクラブは批判されるべきだが、このような日本の現状にも警鐘を鳴らしたい。
(『朝日新聞』2013年7月20日「私の視点」)
 引用が長くなってしまったが、まさに正鵠を得た正論と思ったからである。

■イギリスの「サッカー犯罪防止法」
 サッカーにおける人種差別については、新聞の国際面でもたびたび報道されており、欧米における関心の高さがうかがわれる。サッカーの本場、イギリスでは、「サッカー犯罪防止法」(指定サッカー試合における下品なまたは人種差別的なはやしたての禁止)もあるくらいだ。

今年1月、韓国人サッカー選手・朴智星氏に人種差別発言をしたイギリス人サッカーファンに有罪判決が出されている。
 英サンデーミラーは22日(日本時間)、「2人のプレミアリーグ選手(朴智星とヴィクトル・アニチェベ)に差別発言をしたエバートンファンのウィリアム・ブライシング被告(42)が有罪判決を受けた」と報じた。 西部ロンドン刑事裁判所は、選手に対して侮辱的な発言をしたブライシング被告に有罪を宣告した。

 エバートンファンのブライシング被告は妻と娘、孫と一緒に遠征応援に行き、両選手に暴言を浴びせ、近くにいた2人の申告で警察に逮捕された。 ブライシング被告は観客席から朴智星に「チンクを倒せ」と言ったという。 チンクは「裂け目」という意味で、西洋人が東洋人を侮蔑する時に使う言葉。 目撃者はブライシング被告がナイジェリア出身FWヴィクトル・アニチェベ(25、エバートン)に向けても「物乞い猿」という発言をしたと証言した。

 ブライシング被告は「暴言は認めるが、人種差別的な言葉は使っていない」と法廷で主張した。 しかし判事は「もしこの発言が選手の耳に入っていれば大きな衝撃を受けたはず」と判決の理由を説明した。 英国には人種差別禁止法があり、人種や出身地で他人を差別すれば処罰される。

(『中央日報』日本語版 2013年1月22日)
 オリンピック憲章の「オリンピズムの根本原則」第6項には「6. 人種、宗教、政治、性別、その他の理由に基づく国や個人に対する差別はいかなる形であれオリンピック・ムーブメントに属する事とは相容れない」とある。これは、サッカーをふくめ、すべてのスポーツに共通する精神的基調なのである。

■日本スポーツ界の人権意識
 ひるがえって、日本のスポーツ界における人種差別をふくむ差別的な言動を見ると、度し難いものがある。その典型的な例が、2000年、日本オリンピック委員会の八木祐四郎会長(当時)が行なった差別発言である。

 長野オリンピックを記念した長野マラソンで、アフリカ勢が上位を占めたことに対し、「黒いのばかりにV(victory)とられちゃかなわない」と発言。国内にとどまらず、国際的な顰蹙をかった差別発言だ。先のオリンピック憲章の意義をまったく理解していない。

 女性柔道選手へのパワハラ、セクハラ問題で揺れる柔道界の人権感覚もひどいが、柔道界に限ったことではなく、日本のスポーツ界全般に見られる現象である。

 最後に、野球界の部落差別発言に関してひとつだけ記しておきたい。

 20年くらい前の話だが、プロ野球セ・リーグに籍をおく捕手が、得点圏にランナーをおいてバッターボックスに立った巨人のある打者に「ドエッタ」と叫び、それを聞いて怒りにふるえた打者は、棒球を空振りし、チャンスをものにできなかったという事件がある。この事件は、あるスポーツ紙が紙面化しようとしたが、できなかったという事実も明らかにされている。この元捕手は、いまでも野球解説などに出演しているが、彼を見るたびにそのときの打者の怒りが思い出される。

*次回の更新は8月23日の予定です。
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