最新連載記事
カテゴリー
月別

記事検索
<< 第27回 山岡担当相の度重なる問題発言、なにが問題か | 最新 | 第29回 一億総白痴化 >>
第28回 「ハンセン病」に対する差別表現について
 1月18日に、アードマン・アニメーションズ(本社・英国)とソニー・ピクチャーズ・アニメーションが制作し、今春上映予定のアニメ映画「The Pirates! Band of Misfits」の予告編の中に、ハンセン病患者・回復者に対する差別表現があると、日本財団の笹川陽平氏(WHOハンセン病制圧特別大使・日本国政府ハンセン病人権啓発大使)が抗議している。

 早速見たが、英語で「LEPER」と言っていることは分かる。ここは、翻訳し字幕にするときに配慮する問題で、冒頭に断り書きなどを挿入し、最低限「LEPER(ハンセン病)」と括弧を付けて表記すべきだろう。もう一点、手が落ちるシーンは、全篇を見ないと正確な判断はできないが、問題のあるカットだと思う。それにしても、日本財団の笹川陽平氏がこのような活動をしていることに驚いている。

 ウェブ上に公開された予告編には、メインキャラクターの海賊が船に乗り込み、乗組員に対して金(GOLD)を要求すると、「金なんてない。この船は“らい病患者(LEPER)”の船だから」と答え、「ほらね」の一言とともに乗組員の左腕が落ちるシーンが盛り込まれている。これに対し ①「LEPER」は、2010年に国連総会本会議で全会一致で採択された「ハンセン病患者・回復者及びその家族への差別を撤廃する決議」に伴う原則・ガイドラインが「差別用語」に当たるとして排除勧告している、②ハンセン病に罹患しても腕がとれるような症状はなく、ハンセン病に対する誤解と偏見・差別を助長する―と抗議、修正・削除を笹川氏は求めている。正当な抗議であり、要求だと思う。

 考慮すべきは、このアニメが大航海時代の海賊を描いており、その時代の海賊は「ハンセン病患者」のことを「LEPER(レプラ)」と差別的に呼んでいたという歴史的事実と、それを現代の視聴者に伝える場合の工夫についてである。この点を、先に書いたように「LEPER(レプラ)」という言葉の持つ差別性の指摘と、それをこのアニメの中で使用する必然性(必要性)を、注釈なり断り書きで、画面上に制作者側の意志として表示することが重要だ。そして、字幕スーパーには「レプラ(ハンセン病)」などと工夫して表記すべきと思う。

 ②の腕が落ちるシーンは、筋書き上必要があれば、「誤解と偏見・差別」を生じさせない場面に替えるか、さもなくばカットすべきだろう。
<ハンセン病という病名の由来は、1873年にらい菌を発見したノルウェーのアルマウェル・ハンセンの姓からとったもの。それ以前は、「らい病」とか「かったい」或いは「天刑病」などと差別的に呼ばれていた。いずれも、「癩」「乞丐」と漢字表記されていた。(「かったい」は乞食を意味する中世以来の言葉。)いっぽう欧米では多く「レプラ」「レプラシー」という「不治の病」のイメージをもって差別的に呼称されてきた歴史がある。現在では、この呼称も正確な医学用語ではないとして批判され、上記の抗議文の中に書かれているように、最近は「Hansen’s disease」が使用されている。

 1950年代から、ハンセン病患者・回復者たちは、「業病」といった忌まわしいイメージがつきまとう呼称を批判し、「ハンセン病」に変更すべく要請していたが、日本政府が、「らい(癩)」という病名を変更したのは、1996年、希代の差別法「らい予防法」の廃止にともなってのことだった。>

(『差別語・不快語』より)

 この呼称の問題に関連して、『五体不満足』で著名な乙武洋匡氏が、自己を「カタワ」と呼ぶことについて批判した、本連載第12回 を再録しておく。
<みんな障害がある人に対して差別意識を持っている以上、どんな言葉を使っても“差別語”と言われます。字面を変えても本質を変えなければ意味がない。そう訴えたくて、あえてカタワのような強い言葉を使うのです。>

 確かに「字面」(言葉)を言い換えても、差別的現状や差別意識が変わったことにならないのは当然だ。しかし、新しい積極的な言葉で差別的な現状を表現することは、差別の現実を逆照射し、変革の大きな契機になることを、彼は歴史から学んでいない。言葉には力がある。

 「乞食」・「ルンペン」を「ホームレス」→「路上生活者」、「穢多」・「特殊部落」を「未解放部落」→「被差別部落」と言い換えてきた歴史に意味がないとする彼の主張は、あまりにも幼過ぎる。

 これに加えて、「癩病(らい病)」「天刑病」「業病」などの差別的言葉の撤廃を求め、「ハンセン病」と呼称変更を実現した、ハンセン病患者・回復者たちの永年にわたる闘いの意味を重く受けとめたい。

(資料)



【日本財団ホームページ内 プレスリリース】
http://www.nippon-foundation.or.jp/org/press/12011801k.html

【笹川陽平氏の抗議文全文】 
(※原文は英語。公表されている日本語版を筆者がデータ化したもの)

アードマン・アニメーションズ
ソニー・ピクチャーズ・アニメーション

御社が制作された「The Pirates! Band of Misfits」の予告編を拝見し、下記の2点、ハンセン病についての誤った表現と映像があることを知りました。WHO(世界保健機関)ハンセン病制圧特別大使および日本国政府ハンセン病人権啓発大使として遺憾の意を表明すると同時に、該当箇所の修正または削除を求めます。

1) 該当場面で“leper’s boat”という名称で使用されている“leper”という表現は、国連人権理事会でも差別用語として指摘され、国連決議に付随する「原則とガイドライン」でその排除が求められています。

2)ハンセン病患者と思われる人物の腕がとれるという場面は、事実上ありえない不正確な表現であります。このようにハンセン病に対する誤解をあらためて強調することによって―さらに悪いことには、ハンセン病を面白半分に扱うことによって―多くのハンセン病患者と回復者が今なお苦しんでいる差別をさらに助長する結果を招く恐れがあります。


今日、ハンセン病は治る病気です。治療はWHOが配布している薬によって、必要とする全てのひとに無料で提供されています。早期の発見と適切な治療が完治のための鍵といえます。しかし、長い歴史を通して存在してきたハンセン病に伴う社会的烙印のために、世界中の患者・回復者そしてその家族が社会の片隅に追いやられて生きることを余儀なくされています。これにより、患者が治療を受けることをためらい、結果的に重度の障害が残ってしまうこともあります。実際、ハンセン病に伴う障害を抱えて生きている人々は今日300万人にのぼります。The Pirates! 予告編の該当場面のようなハンセン病の症状の誤った描写は大きな誤解の要因となり、当事者の生活に悲劇的な結果をもたらす恐れがあります。

この30年間で、世界中の約1600万人の人々がハンセン病から治癒しました。新規患者数は減少しており、そのことが非常に深刻だからこそ、国連総会はこの問題に特別な注意を求める決議を2010年12月に192カ国の賛同を得て採択しました。

今月末、7年目を迎える、ハンセン病患者・回復者に対する社会的烙印と差別をなくすための「グローバル・アピール」がブラジルのサンパウロで発表されます。これには、世界医師会とその加盟国医師会の賛同を得ており、彼らはハンセン病への偏見と闘い、その病気に対する正しい情報を広めることに強い決意を表明しています。ハンセン病へのイメージを変えることは簡単なことではありません。ましてや、この病気に対する好ましくない表現によって―特に、世界中の何百万人の聴衆によって鑑賞される家族向け映画の中でこのイメージを強調することにより―人々の正確な理解を得ることはさらに難しくなります。

ハンセン病の患者・回復者、そしてその家族に対する差別をなくするための私どもの訴えをなにとぞご理解いただき、該当箇所の修正または削除を含む必要な措置をとられるようお願いを申し上げます。また、もし作品本編の中にハンセン病に対する誤った表現やストーリーがあるようでしたら、それらについても同様な措置をお願い申し上げます。

世界保健機関ハンセン病抑圧特別大使
日本国政府ハンセン病人権啓発大使

笹川陽平
| 連載差別表現 |