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第97回 被害当事者不在の「表現の自由」―ヘイトスピーチをめぐって
■日本で行なわれているヘイトスピーチに世界は驚いている
 先週に引き続き、今回もヘイトスピーチ(差別煽動・宣伝)について述べたい。

 7月9日、日本外国特派員協会で、在日コリアンが多く居住する東京・新大久保や大阪・鶴橋でくり返されているヘイトスピーチデモについての会合が行なわれた。「日本におけるヘイトスピーチの現状に関して」と題して行なわれた会合のゲストスピーカーは、新右翼団体「一水会」顧問の鈴木邦男氏とジャーナリストで参議院議員の有田芳生氏。両氏とも、この「ヘイトスピーチ」とデモが持つ排外主義的危険性を早くから指摘し、積極的に反対、封じ込めの活動を行なってきていた。

 それにしても、外国特派員協会が、この「在特会」などの民族差別的排外主義のヘイトスピーチを日本社会における重要な人権問題としてとらえており、日本のマスコミが全体として当初、この問題を無視ないし避けていたことに比べて、その人権意識の高さを痛感する。

 最近、10年以上諸外国のNGOや国連職員を経験した方の話をきいて、よく理解できたのは、欧米諸国の人権意識の高さだ。

 そのひとつに、2001年南アフリカ共和国のダーバンで開催された「反人種差別・差別撤廃世界会議」の動向が、イギリスやフランスなどヨーロッパ諸国では連日大きく報道されていたという。部落解放同盟も代表団を送っていたこの会議を、私の記憶する限り、日本のマスコミは通り一遍の報道しかしていなかったように思う。

 この日本と外国のジャーナリストの人権問題に対する関心度の違いは、各国の人権意識の反映でもあると思う。

 7月9日に行なわれた外国人特派員協会での会合で、この点を鈴木邦男氏が以下のように語っている。
このヘイトスピーチのデモは、日本人でもあまり知らないのです。と言うのは、テレビや新聞でほとんど報じないからです。なぜ報道しないかというと、たとえ批判的であっても、デモの映像を流すと、彼らの「朝鮮人を殺せ、韓国人は毒飲んで死ね」など酷い差別的な、排外的な言葉をテレビで観た一般の視聴者が、「なんでこんな差別的な映像を流すのか」とデモをしている人間には抗議しないで、それを批判的に放映したテレビ局に抗議が集中する。テレビ局はもうやりたくないし、こんなのはすぐに終るだろうと思っていて放送しないのです。でも外国では放送されているのです。
 韓流ドラマを放映しすぎとして、6000人のデモに囲まれたフジテレビの事件以来、テレビをはじめメディアが「在特会」などの行動を批判することを躊躇していることに対する発言だ。さらに鈴木氏は、重大な指摘をこの場で行なっている。

 それは、在特会メンバーらと警察との関係についてだ。
 また彼ら(在特会など)は警察と密接に連絡を取り合っている。もしこれが(右翼の)黒い街宣車だったら直ぐに逮捕されるでしょう。実際、同じようなグループが映画『靖国』や映画『Theコーブ』に抗議して(上映を)つぶしたときも、もし右翼団体だったら逮捕されているだろうに、彼らは映画館の前で何時間も抗議運動をやっていました。(僕は、映画上映をつぶすのは良くないと言って彼らに殴られたのですが)、もし僕があのとき彼らにはむかっていったら、おそらく警察は僕だけを逮捕したでしょう。それだけ、彼らと警察は密接に連絡を保っています。状況が少し変わってきたのは、国会議員の有田さんたちが動いたからです。
■安倍政権を追い風とする在特会
 この発言を受けて有田参議院議員は、次のように在特会などのヘイトスピーチが過激化していく政治的背景をあきらかにしている。
 日本の政治史の中で注目すべきなのは、まず「在特会」が結成された2006〜2007年第一次安倍政権です。そして、在特会は第二次安倍政権が発足をしてから、つまり自民党政権が復活をしてから、さらにエスカレートした主張を強めるようになってきています。御承知のように昨年の暮れに第二次安倍政権が発足致しましたが、今年に入ってからの「在特会」とその周辺グループの主張が、過激にエスカレートし始めました。
 安倍政権を追い風としている在特会だが、反対活動の広がりを受けて、次のような動きがでていると有田氏は語っている。
 5月9日の参議院の予算委員会で安倍首相が遺憾の意を表し、さらに同日、参議院の法務委員会で谷垣法務大臣もこの事態に対し、遺憾の意を表明、そして菅官房長官、古屋国家公安委員長も今の事態は良くないことだと国会で表明をした。しかしこのままでは、今の差別的なデモがなくなるとは思えません。では何が日本にとっては必要なのか?それはやはり日本が1995年に加盟した人種差別撤廃条約を徹底して日本に適応することだと私は考えております。
 このような政治的な状況変化によって、6月30日に新大久保で予定されていた在特会らのデモは、新大久保を通ることができなくなり、7月7日新宿で予定されていたデモと韓国学校への抗議は中止となった。すでにあきらかなように、在特会などのヘイトスピーチを許さないための差別煽動・宣伝に対する法的規制が、具体的な政治課題になっているのである。

■新聞記事における法規制慎重論
 しかし、ここで問題にしたいのは、外国特派員協会での会合を取り上げた『毎日新聞』(7月10日)の記事内容のレベルの低さについてである(大きく取り上げていること自体は、高く評価したい)。

 「無関心が生む『差別』」と題された記事内容は、ひとことで言って「ヘイトスピーチの法的規制は表現の自由の脅威となり、現状では慎重であるべき」というもの。逆に言えば、タイトルにあるように、差別を生み出すのは無関心だから、皆が関心を持てば現在行なわれているようなヘイトスピーチ(差別煽動・宣伝)は止めさせることができると思っているのであろう。

■被害当時者の声が抜け落ちたヘイトスピーチ「対策」
 差別は道徳の問題ではない。現実に日々行なわれているヘイトスピーチは、道徳や倫理を説くことによっては、決してなくならないし、解決する問題ではない。社会的差別は、忌避感情や制度、慣習として、日本の社会構造に深く根をおろし、はりめぐらされているのであって、差別は社会的犯罪であるという視点から、社会的に規制すべき事柄なのである。

 毎日新聞では、法規制に反対する雰囲気を、外国人ジャーナリストのインタビューや国際人権法の大学教授などの話として記事化しているが、これには恣意的な印象を受ける。国際人権法を含む日本の憲法学界の大半が、法的規制に慎重な立場であることは、この連載でくり返し述べてきている。

 いま問われているのは、日本がすでに批准している国際人権規約や人種差別撤廃条約にもとづいて、表現の自由を基本的人権の基礎としつつ、他者の人権を傷つける「表現の自由」はないという原理を明確にすることだろう。

 とくに有田議員が強調しているように、日本政府が留保している人種差別撤廃条約の第4条(a)(b)の留保を解除し、差別規制のための国内法を早急に立法化することだろう。
 さきの毎日新聞記事内でまとめられている「ヘイトスピーチを巡る各国の規制状況」に、なぜヘイトスピーチ規制を人種差別禁止法で立法化しているフランスを入れていないのかわからないが、ヘイトスピーチの対象になっている当事者の声を、なによりもまず取り上げるべきだろう。
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